彗星が地球に近づいている。一昨年、台湾のルーリン天文台(鹿林天文台)で発見されたルーリン彗星(C/2007 N3)である。発見当時は太陽からの距離が6.4天文単位、つまり地球と太陽の平均距離の6倍以上、木星よりも遠い場所にあったため、明るさも19等前後ととても暗かった。しかし、その後、ルーリン彗星は1年半かけて太陽に近づき、明るくなった。最も太陽に近づいたのは2009年1月10日で、そのときの太陽からの距離は、1.21天文単位であった。彗星は第5回「 彗星、地球に大接近」でも紹介したように、もともと氷の天体である。そのため、太陽に近づくと氷が融け出して、ガスや塵が吹き出し、明るくなって、場合によっては尾を引く。そのため、ほうき星とも呼ばれる。ルーリン彗星の場合は、その意味では、太陽にはそれほど近づかなかったのだが、その後、地球へ近づくコースをとっている。そして、今月24日には地球に接近する。地球への最接近時の距離は0.41天文単位。そのために、明るく見えるのでは、と期待されている。地球への最接近前後には、予想通りならば6等級となるとされている。空の暗いところなら、肉眼でかろうじて見えるかもしれない。
この彗星が見やすいのは地球に近づく以外にも理由がある。まず、最接近前後には月明かりがない。彗星は星と違って、面積を持っているので、空の明るさに弱い。ちょっと夜空が明るいと、見にくくなるのである。だから、都会などの夜空が明るい場所だと見えにくいし、暗い場所でも月明かりがあると見にくくなる。幸い、新月前後なので、絶好のチャンスである。もうひとつの理由は、彗星のそばによく目立つ目印があることだ。通常、肉眼で見えるかどうかというぎりぎりの明るさの彗星だと、双眼鏡などを使わないと見えないことが多い。ところが、双眼鏡を使ってしまうと、彗星がどこにあるか正確にわかっていないと視野に入れられないことになる。よほど慣れた人でないと探せないわけだ。ところが、今回は最接近の頃に彗星が、なんと土星のそばにあるのだ。土星は0等星と都会の空でも見えるほど明るい。したがって、土星を目印にして探せば、簡単に見つかるはずだ。彗星は、日に日に動いていくので、24日以後は土星からも離れていくのだが、その動く先にはしし座の一等星レグルスが輝いている。こちらもよく目立つ星なので、よい目印になる。つまり、24日から27日にかけては、土星とレグルスの間を探せばよいことになる。こんなに良い目印があるところに彗星が輝くなど、なかなかない。観察に適した時間帯は、しし座が南中する、ほぼ真夜中前後の数時間になる。ぜひ、双眼鏡で探してみてほしい。ぼやっと青白く光る、星と違ったイメージの天体があれば、それがルーリン彗星である。ただ、尾は見えない。地球は太陽を背にして彗星を眺める位置関係になるので、尾が向こう側に伸びてしまい、見えない方向になるからである。もっとも、このルーリン彗星そのものがそれほど活発ではないため、そうでなくても尾は見えないだろう。
国立天文台では、この地球最接近を中心とした前後10日間に「ルーリン彗星見えるかな?」キャンペーンを行うことにした。2009年2月20日の夜から3月1日の夜(2日の明け方)にかけて、肉眼や双眼鏡などでこのルーリン彗星を観察し、このキャンペーンページから、観察した日や観察した場所、彗星が見えたかどうかを報告してもらうものだ。報告の集計結果から、いつ、日本のどこで彗星が見えたかがわかるしくみとなっている。携帯電話からでも参加できるので、今まで彗星を見たことがないという方もぜひチャレンジしてみてほしい。 ルーリン彗星は、その後は、太陽からも地球からも遠ざかり、ほぼ放物線軌道を描いていて、漆黒の彼方へと消えていく。再び太陽に戻ってくるのは少なくとも数万年以上先となる。みなで彗星を見送ってやろうではないか。
「ルーリン彗星見えるかな?」キャンペーン
http://www.nao.ac.jp/phenomena/20090220/index.html
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