秋の夜に、真上を見上げると、天高く四つの星がやや歪んだ四辺形をなしてい
るのがわかるだろう。秋を代表する星座、空を駆ける白馬ペガススの姿で、秋の四辺形またはペガススの四辺形とも呼ばれている。それほど目立つ星の少ない秋
の夜空では、最も目につく星の並びである。四辺形はペガススの胴体となっている。四辺形の最も南西の星から、西側のいるか座に向かって、3つの星が長い首となって伸びている。さらに、四辺形の北西の星から、いくつかの星がはくちょう座に向かって二本の前足となって伸びている。そのように星を繋いでいくと、確かに力強く駆けるていく、馬の形に見えてくる。ただ、これらの前足と長い首の部分の星は、さすがに暗いので条件の良い星空でないと見ることができない。また、南を向いて眺めると、馬の形は逆さまになっているので、できれば寝ころんでみるとよいだろう。ところで、このペガススは後ろの部分の胴体がない。四辺形の一番北東の星は、アルフェラッツと呼ばれるアンドロメダ座のアルファ星となっている。アンドロメダ座については、すでにアンドロメダ銀河の回
(参照:vol.12『アンドロメダ座に浮かぶ雲の正体』)で紹介したが、神話でもペガススとゆかりの深い星座ではある。
ペガススの四辺形が真上に来る頃には、西の空に夏の星座たちが沈みかけている。夏の夜空のランドマークは、なんといっても夏の大三角である。一方、秋の
四辺形が真上にくる頃になると、東からは冬の星座たちが顔を出すようになる。冬の夜空のランドマークは、冬の大三角である。ところで、四季の代表的なラン
ドマーク:春の大曲線、夏の大三角、秋の四辺形、冬の大三角と並べてみると、秋だけが「大」がつかない事に気づく。あくまであだ名なので、どれが正しいと
いうこともないし、調べてみると「秋の大四辺形」としている本もあるが、なんとなく大四辺形という言い方は、しっくりこない。
第一の理由は、幾何学的形状の大きさが、秋の四辺形だけ小さいからだろう。四辺形の一辺は、長いところでも16度程度である。これに対して、夏の大三角
では、最も短いベガとデネブの間でも24度ほどあり、長いところは40度近い。冬の大三角も25度を越えている。春の大曲線はいうまでもない。四辺形が最も小さいのである。
第二の理由は他の大三角や大曲線が、複数の星座をまたがるのに対して、四辺形だけは、ペガスス座だけで閉じていることだろう。もちろん、北東の星がアン
ドロメダ座なので、正確に言えば二つの星座にまたがっているのではあるが、もともとこの星はアンドロメダ座とペガスス座との二つの星座を兼ねた性格を持
つ。実質的に四辺形の星はペガススの胴体といってもいいであろう。大をつける合理的理由といえば、大きさだけでなく、このような判断基準が使えるのではな
いだろうか。したがって、これは筆者の独断ではあるが、秋の四辺形だけは「大」をつけない方がよいと考えている。
ところで、ペガスス座が西へ降りていく頃、東から上ってくるのが、オリオン座である。この欄の Vol. 23でも、オリオン座流星群について紹介したが、(参照:vol.23『3000年以上前のハレー彗星のかけら ーオリオン座流星群を眺めようー』)今年
も通常とは異なる活発な出現を見せると予想されている。オリオン座流星群は、毎年10月中旬から下旬に散見される流星群である。
オリオン座流星群は、もともと中堅規模の流星群で、通常はそれほどたくさん出現することはなかった。条件のよい、空の暗いところで観察しても、1時間あ
たり、せいぜい10~20個程度だったが、2006年10月21日、オリオン座流星群とは思えないほど、たくさんの流れ星が出現したのである。通常の出現数の倍以上、
一時間あたり50個を越え、なかには100個を数えた人までいたほどだ。この過去最大級の出現以後、しばらく活発な出現が続いている。この活発化の原因は、
我々の研究の結果、紀元前に放出されたダストが、ここ数年にわたって群れをなして地球軌道に接近しているせいであることがわかっている。そして、その計算
結果から、活発な出現は2010年まで続くと考えられる。2010年は月明かりに邪魔されるので、実質的には今年、2009年は活発な出現が条件よく観察できる最後の
チャンスといえるだろう。極大は10月21日から22日とされている。ただ、活動は比較的長く続くので20日から24日頃までが要注意だろう。時間帯は、東から放射
点があるオリオン座が上ってくる22時頃から、空が明るくなる22日5時頃まで。ペガススの四辺形を貫く流星が眺められるかもしれない。できる限り、暗い夜空
で眺めるようにしたいものである。
国立天文台では、できるだけ多くの方に、流れ星を眺めてもらおうと、「見えるかな? オリオン座流星群」という観察キャンペーンを実施する。活発に活動
すると予想される10月19日の夜から23日の朝までの4夜の間に、15分間以上星空を眺め、その観察結果をインターネットで報告していただこうというものであ
る。世界天文年の秋の夜長を彩る流れ星を数えてみてほしい。
「見えるかな?オリオン座流星群」キャンペーン
http://www.nao.ac.jp/phenomena/20091019/
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