晩秋から初冬、南の空にくねくねと伸びる星座が現れる。オリオン座の傍らから、秋と冬の星座の真ん中を、細長く南へ延びる川である。といっても、天の川ではなく、星座の上での川、エリダヌス座である。エリダヌスとは、伝説上の大河の名前で、ギリシア神話では悲劇の舞台として有名だ。太陽神ヘリオスの息子、冒険好きのフェートンが、父に太陽を運ぶ馬車を貸して欲しいと頼みこむ。ヘリオスは自分でも扱いが難しいため、危険だと承知しなかった。しかし、フェートンは、冒険の誘惑に負け、朝になるとその馬車に乗って出発してしまった。ところが、しばらくして、操っているのがいつものヘリオスでないことに気づいた馬が暴れだした。フェートンは、この暴走を止められずに、馬車はいつもの道から大きくはずれ、世界中を焼き払ってしまったのである。これを見た大神ゼウスが、フェートンに雷を落としたため、フェートンは燃えながらエリダヌス川に落ちて死んでしまったのである。もともと、この季節の太陽の通り道(黄道)は、うお座からおひつじ座、おうし座など天高いところを通っている一方、エリダヌス座は南に低く、黄道からずっと離れている。そのため、馬車が軌道を外れて落ちて行くには好都合の場所だったのかもしれない。
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