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先人に学ぶ
岡田良男(オルファ創業者)
独自の「折る刃」式で世界標準のカッターナイフを実現

2016年10月公開【全1回】

独自の「折る刃」式で世界標準のカッターナイフを実現

 鋭い刃を繰り出して固定し、小気味よく切る。切れ味が鈍ったら、刃先を折るだけで鮮やかな切れ味が甦る──「折る刃」式のカッターナイフ。カミソリやハサミが全盛だった1950年代に考案し、その後世界規格にまで育て上げたのは、カッターナイフの生みの親、岡田良男である。
 1931年、大阪で紙の断裁を家業とする岡田家の長男として生まれた良男は、手先が器用で工作が得意な少年だった。戦後の混乱期を経て、やがて小さな印刷所に就職する。当時の印刷所の現場では、職人がナイフやカミソリで紙を断裁していた。何枚も重ねた紙を切ると切れ味が悪くなり、すぐに使い物にならなくなる。良男はそれを見かね、経済的で使いやすい刃物ができないものかと考えるようになる。
 そんなとき、別の印刷所に勤める弟・三朗からも「国産品の刃物はすぐに切れなくなるので、刃を取り換える手間がかかりすぎる」と相談が持ちかけられる。これを機に、良男のものづくりへの情熱が動きだす。鋭い切れ味が継続するナイフを作ろうと、寝ても覚めても考えるようになったのである。

ガラスの破片と板チョコから「折る刃」式のアイデアを得る

 ヒントは意外なところにあった。靴磨きの職人が靴を修理する際にガラスを用い、切れ味が悪くなるとその先を割っていた。また、進駐軍が持ち込んだチョコレートには格子状に溝が付き、折りやすい。これらを組み合わせると、刃先を折ると常に新しい刃が使える、便利で画期的な刃物ができると考えたのだ。

 しかし、刃に溝を入れると強度が落ちるという難題が立ちはだかった。苦慮の末に、刃を保護するためにスライド式にし、切っ先だけをホルダーから出す形状を思いつく。さらに、切れ味と強度を保ちながらも折りやすくするため、試行錯誤を繰り返して刃に入れる溝の角度や深さを探り当てた。1956年、ついに世界初の「折る刃」式カッターナイフが完成した。
 このアイデアをデザイン会社や印刷所に1軒ずつ持ち込んだが、誰も見たことのない斬新なナイフは理解を得るのに難航。そこで良男は実用新案を出願し、私財を投じて自ら商品化に踏み切った。小さなプレス工場に依頼して、3000本を製造。当初は苦戦したが、現場のニーズに応えたカッターナイフは、印刷関連の企業で便利で使いやすいと次第に評判を呼び、完売するに至った。
 1967年には、弟たちと兄弟4人で、岡田工業(現在のオルファ)を設立。世界進出も見据えて、カッターナイフのブランドを「折る刃」をもじって「オルファ」と命名。また、危険を伴う道具に注意を促そうと、道具箱の中で目立つ黄色に統一した。1960~70年代、高度経済成長の波に乗って製品の需要も一気に伸び、一般の店頭でも扱われるようになっていった。

刃に刻む溝の角度や深さなど、試行錯誤しながら自ら試作した(左)。1956年に完成した試作品第一号(右)。
刃に刻む溝の角度や深さなど、試行錯誤しながら自ら試作した(左)。
1956年に完成した試作品第一号(右)。

海外大手メーカー参入の危機もチャンスと捉えて挑戦を続ける

 1968年には輸出第1弾としてカナダヘ進出。使い心地に魅了された愛用者が徐々に増え、順調に売れ行きが伸びていった。その頃、同社にとって衝撃的なニュースが飛び込んでくる。米国の大手工具メーカーがカッターナイフ製造に進出するというのだ。当時日本では「折る刃」式の特許を取っていたものの、国外では通用しない。兄弟は動揺したが、良男だけは悠然と構えていたという。「海外の大手企業が進出するということは、カッターナイフが世界で認められた証拠。市場拡大のチャンスだ」と慌てることなく設備投資を行い、増産を進めた。この判断は見事に奏功し、輸出量が飛躍的に拡大した。
 世界に先駆けてカッターナイフを開発し、普及に努めてきたことは、さらなる躍進の原動力になった。日本で60%ものシェアを占め、海外でも100カ国を超える国々で販売したことから、同社の替刃の寸法や折れ線の角度は世界の標準規格になったのだ。その過程では、世界的な大手工具メ—カーから条件の良いOEMの申し出もあった。だが、品質とブランドを大切にし、製品を愛していた良男は、本体カラーを変え、「OLFA」のロゴを外すという要求に首を縦に振ることはなかった。
 カッターナイフが世の中に広く浸透してからも、「もっとよく切れるように、もっと使いやすいように、もっと安全に」と、改良の手をゆるめることがなかった良男。ものづくり好きの青年の飽くなき探究心によって世に送り出された全く新しい刃物は、開発から60年たった今も世界の国々で愛用されている。

文:宇治有美子 画像提供:オルファ

※この記事は、2016年3月発行の当社情報誌掲載記事より再編集したものです。

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