第2回その2
芸術のプロ × AIのプロ 対談「AIは、心を動かせるの?」
AIは、人の心を動かせるの?
谷川俊太郎さんのご自宅での、芸術とAI、その道のプロフェッショナルの対談。
後半はさらに、AIと人間の違いについてのお話になっていきました。
プロフィール
谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)
1931年生まれ。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表。著書に「生きる」(福音館書店)、「もこもこもこ」(文研出版)、「バウムクーヘン」(ナナロク社)など。
大塚貴弘(おおつか たかひろ)
1974年生まれ。AI研究に従事。三菱電機株式会社 開発本部 情報技術総合研究所 知識情報処理技術部 行動モデリング技術グループ グループマネージャー。これまで、音声認識技術、音声合成技術、言語解析技術、知識処理技術の研究に携わる。趣味は渓流釣りと飲み歩き。
AIにしか、
人間にしか
できないことって?
人間同士の争いを解決?
AIにしかできないこと、人間にしかできないことは、何だと思われますか?
谷川俊太郎(以下:谷川):
大塚貴弘(以下:大塚):
そうですね、可能性ということで言えば、AさんとBさんが争いをしているときに、過去にも同じような争いが世の中にはたくさんあって、結論こうなったんですよ、という事例がもしも見せられれば、争わずに解決できるかもしれないですよね。過去の事例を大量に記憶し、それを瞬時の演算で答えを導き出す。そういったことは、AIは得意なんです。
AIはユーモアを理解できるの?
谷川:
人間にしかできないんじゃないかということで言うと、AIっていうのが「笑い」っていうかね、「ユーモア」をどこまで獲得できるのか、っていうことが気になりますね。
大塚:
そうですよね。なるほど。
谷川:
なんか泣く方は単純だから、AIも泣けるんじゃないかと思うんだけど、笑うのはね、結構難しいと思うんですよね。
大塚:
「おかしみ」を感じ取れるか、ということですもんね。ユーモアってもともと予測を超えないと起きないものですから、難しいところですよね。
谷川:
落語を全部データにして、いろんな笑いを覚えさせて、それを獲得すればね、真似ることはできるかもしれないですけどね。
でも今のアンドロイドって、お芝居にも使うし、いろんな案内にも使っていますよね。割と人間っぽく喋ったりするじゃないですか。ある程度反応もするしね。でも、なんか基本的にはまだ、人間とは違うなって感じがするんですよね。
AIは、
心を動かせるの?
創造力って?
ここから核心ではありますが「AIは人の琴線にふれるものが作れると思いますか?創造力とはお二人にとって何でしょうか?」ということなのですが。
谷川:
私の琴線にふれなくても、AIがつくったものが、他の誰かの琴線にふれることはありえますよね。
創造力は〈いのち〉に最初から内蔵されているエネルギーと言っていいと思う。数学者でいうと数式が美しいと思う人は、琴線にふれているわけだからね。感動するようなものが、AIにも作れるんじゃないかな、ということですよね。
大塚:
この〈いのち〉は何を指しているんでしょうか?
谷川:
基本的には自然の生命のことですね。AIに創造力が付与されたらそれは大発明だと思いますけどね。技術者の人は面白いだろうなと思いますね。
大塚:
僕も、人によって感じ方はさまざまなので「人の琴線にふれるもの」もゼロとは思いません。
創造力って何でしょうか?と聞かれたので難しかったんですけど、機械もデータをどんどん生成することはできるんです。でも、それを創造力とは呼ばないですよね。
谷川さんはエネルギー自体のことだという根本的なお話で、そういう捉え方が面白いなと思いました。
僕は外への影響ということで、よいもの、つまり誰かを笑顔にするものを、新たに生み出す活動の力っていうのかな。それを創造力と考えました。
こういうAIができるかどうか、ということを考えると、今はやはり難しいかなというイメージですかね。
ところで、単語と単語を組み合わせて詩を作られるときに、ある単語がインスピレーションみたいに思いついて、これとこれを組み合わせたら面白い、という風に感じられるんですか?
谷川:
単語として思いつく場合と、単語がつながっているものとして、例えば1行とか半行とかで思いつく場合と両方ありますけどね。
だから単語ってのはね、音楽の音符に近いところもあるんですよね。もちろん意味でつながるんだけれども、なんとなくその音符的に、意味じゃないところでつながっている部分もあるんですね。
だから、詩の始まりっていうのは両方で出てくると。
つまり、意味重視して出てくる場合もあるし、意味はよくわからないんだけどこのつながり面白いじゃん、ってことで出てくることもあるんですね。
人間は、そもそも矛盾している
これからAIを創作に用いようとすると、どういうアプローチになるんでしょうか。
大塚:
ある程度関連のある単語を並べることはできるので、機械的に生成することはできますよね。
それを人間が見て、いいか悪いかという主観で判断して、採用する。そういったステップで役割を分担すれば、機械も創作に使えるのかなと思いますね。
谷川:
AIっていうのは矛盾したものをどうやって処理するんですか?
人間っていうのは、だいたい矛盾してるじゃないですか。どちらかに割り切らない方が、リアルですよね。AIっていうのは、どちらかに割り切らないと働かないんじゃないかって気がしてるんだけど。
大塚:
今、AIはもちろん「0」と「1」で判断するってこともできますし、たとえば何%の確率で「これはチューリップである」ということはできます。その次に50%以上だったらチューリップと判断するのか、70%以上だとそうするのか、それとも「わからない」っていう判断をさせるのか。
どこに境界線を設けるか、というのは人間がコンピュータにすることなんですけど。
谷川:
わからない、っていうのは、AIは言えるわけね。
大塚:
それは言えます。コンピュータに設定すれば、そういうことができるんですけど。これは過去の事例から考えると30%の可能性でヒマワリですとか、そういうことまでですね。
谷川:
なるほどね。あくまで人間が先生というわけね。
人間で言うと「好きなんだけどちょっと嫌い」とか、「腹立つんだけど嬉しい」とかそういう微細なところですよね。
谷川:
そうそう。本当に(笑)。
大塚:
人間矛盾のままで捉えることもできるんですけど、同じ事柄を見ているのに、Aという観点とBという観点があるとして、人間ができるのは、新しいCという観点で、さらに両方を成り立たせるようなアイデアを見つけられるということですね。そこまではまだコンピュータができないことなんですね。
ものの判断ってすごく難しくて、世の中の事柄って両方の面があるんですよね。悪い面ととらえたら悪い面だし、よい面の方を見るとよい面ととらえることができる。同じ物事でも、「よい」を発見して選択する力。
それを谷川さんは言葉で切り取って、詩で表現されていると思うんですけど、そういうところが進化の大切なところというか、特性がある、と思っています。
あなたにとって
AIとは?
「取説のない技術」
谷川俊太郎
最後に、AIとは何でしょうか?
大塚:
また難しいことを聞きますね(笑)。
谷川:
「取説のない技術」ですかね。
我々が買うものにはみんな取説が一応ついているわけですよね。見ないでもそれは操作できるんだけれども、なんかその取説があるおかげで、それを理解できる面があるわけじゃないですか。
大塚:
我々はメーカーで製品を作っているんですけど、どうしても必ず取説がついてきますよね。
一定の使い方と危険なところもユーザーさんに理解してもらって使っていただくのが前提ですけど、AIがあれば、もっと人に寄りそった技術というか、ユーザーさんがしたいことをやってくれるものになるかもしれません。
「もう少し時間を下さい」
大塚貴弘
大塚:
ちなみに私はまだ答えを用意していないんですけど、僕これは難しくて、AIは、今は「ツール」としか見えていないですね。現状では、データをいっぱい与えると、パターンを学習してくれるという一つのツールです。
ただ、今IoTとかITとかで、活用するデータもたくさん集まってきているので、これとAIを組み合わせるとすごいことができるっていう風に、みなさん思っています。
だから一言で言うと、可能性のある素晴らしいツール、ということでしょうかね。
ただ、谷川さんのご回答を見てもう少し時間をいただきたいので、あえてこう書きました。
AIとは、
谷川:
いま、具体的に三菱電機で開発しているものってあるの?日常的なものでなくてもよいんだけど。
大塚:
それは、あまり言えないんですが…。
谷川:
秘密の技術があるわけね。そっか、頼もしいなあ。
あったらうれしいなAI
(谷川俊太郎さん編)
老人用の足の爪切り器
個々の体型や癖などを理解し、人間の体に則した動きをして爪を切ってくれる、爪切り器
谷川俊太郎さんの最新作
『幸せについて』
(ナナロク社)/1,000円+税 112ページ
発売中
「幸せについて」今考えるすべてを語った谷川さんのことば集。人生を楽しむヒントが詰まっています。
難しいけれど、AIが二つのグループの戦争を予知して、それを防ぐような解答を出せるのかどうか、ということに興味があるんですよね。人間同士だとね、いろいろごちゃごちゃしてくるから。