Round-trip Letters
カヒミ・カリィ × Hello,AI Lab
【 Vol.05 From k.k 】
新しい時代とともに
それは、文通のようなメッセージ。以前からAIの可能性に注目していたアーティスト、カヒミ・カリィさんと、三菱電機の研究者集団「Hello,AI Lab」が、AIについて語り合いながら、発見や気づきをやり取りするコラムです。
豊かな未来に向けて
進化するAIと共存していく時代に、
私たちも進化していくことが大切
Hello,AI Labさま
こんにちは!お返事、とても楽しみにしていました。どうもありがとうございます!
前回のレターで、私達の生活の中でAIが様々なレコメンドをしてくれることがスタンダードな時代になる可能性と、またその信頼性についてご質問させていただきました。「人間側は、AIの性質についてより理解し、そしてより能動的に物事を考え意思決定することが人生においてますます重要になるかもしれません。」とのお返事をいただいて深く共感し、とても身の引き締まる思いです。
AIがどんどん進化して私達に恩恵を与えてくれる時代になるほどに、人間自身も進化していくことが大切なのだとしみじみ思いました。何かに頼る時はただそれに甘えるだけでなくて、今いちど自分の足元をちゃんと見つめ直すことで、その先が豊かになっていくように思います。それは人間同士の間だけではなくて、他の生物達や自然環境などに対してもそうですが、これからの時代はAIに対しても同じなのかもしれないと感じました。
AIについて学ぶ事で広がる、
未来への希望
「人間中心のAI社会原則検討会議」で発表された「AIに関する7つの原則」、さっそく拝見しました。~[1]AIは基本的人権を侵さず、人間中心に開発する。[2]誰もがAIを利用できるよう教育を充実させる。[3]個人情報を慎重に管理する。[4]セキュリティーを確保する。[5]公正な競争環境を維持する[6]AIの動作について企業は適切に説明する。[7]産官学が連携しイノベーションを生む。~
AIの研究をされておられる方々やそれに携わる機関などが、このような会議や取り組みをされておられることを知って、また個人情報や人権、環境など、私がAIに対して感じていた不安な部分についても触れられていてホッとした気持ちになりました。AIについて学ぶことで、未来に対しての希望が広がっていきそうです。私達がAIを賢く利用して、抱えている様々な問題にもっと積極的に向き合っていく事ができる世界になってほしいです。
AIと芸術について
芸術分野での
AIの新たな可能性
では、いただいたご質問にお答えしますね。
【質問1】
AIがどんな風に芸術の分野で活躍していくのか、とても興味深いです。古い絵画や壁画の修復で、今まで観ることができなかったものを鑑賞できるようになるなんて、素晴らしいですね。想像しただけでワクワクしてしまいます!その反面、たとえば過去の作家の作品を学習、分析して作られたものは何となくプロセスに新しさを感じないせいか、不安にはなりませんが特別ワクワクしないです。それよりも、前回のレターで教えていただいた「AIは映像から言葉、言葉から音楽、といったいろいろなメディアの相互交換が得意で、たとえば画像や映像から自動でキャプションを生成したり、さらにその言葉を音楽に変換したりすることが出来る」いうお話にワクワクしました。たとえば、雨の音や映像をAIが学習してそこからどんな音楽が生まれるのかなと思うと聴いてみたくなります。どんな風にして作品が作られるかというプロセスがAI独自のものだと面白いなぁと思います。
【質問2】
音楽制作や執筆などの過程で、アイデアってどんなふうに出てきますか?
AIと音楽制作・執筆で、似ていると思うところはありますか?もしくは全く別モノでしょうか。
たとえば、AIはたくさんの情報をインプットして、試行錯誤して、アウトプットをしていきます。カヒミさんの活動にとっても、たくさんの情報をインプットして、試行錯誤して、新たなものを作り出すという過程は、AIに似ていたりするのでしょうか?それとも、AIとは決定的に違う点があったりするのでしょうか。
アイデアの源はアーティストによって様々だと思うのですが、私の場合は毎日の生活の中からふと出てくることが多いです。夜カーテンを閉める時に窓から見えた月だったり、街ですれ違った人の表情だったり・・・。無意識に何かを観察していて長く記憶に残っていたものが、ギターの音を聴いた途端、浮かび上がってきたりすることもあります。AIと同じようにたくさんの情報をインプットして、試行錯誤してアウトプットする感じはとても似ているなと思います。違うところは、AIは目的があってたくさんの情報をインプットしますが、私の場合は目的ではなくて生きている結果としてインプットされていることと、試行錯誤の方法においてAIが分析だとしたら、私の方は経験や思考なのかなと思います。なので、アウトプットされた時にでてくるものは、AIは洗練された情報という印象がありますが、私の場合は情報というより知識という感じなのかなぁと思います。そう考えると、とても似ていますが対照的でもありますね。
【質問3】
いただいた質問の中に、「一本のマイクで録音した複数の声をAIが識別して、それぞれの声に振り分ける事ができると知ってとてもワクワクしました。」というものがありました。当社の音声分離の技術のことですよね。制作活動というと、何かと何かを組み合わせることはあっても、分離することってあるのかなぁ・・・とふと疑問に思いました。音声分離の技術を制作に活かす・・・なんてことがもしあれば、どんな活かし方がありそうですか?
この頃、街中や森の中を散歩したりしている時に、時々面白い音を見つけたりすると録音することがあるのですが、フィールドレコーディング中にこの音だけをもう少し大きく出来たらいいのに、と思うことが時々あるんです。たとえば、森の中で鳥が複数鳴いていて、手前と奥で鳴いている鳥が会話しているような時に私が口笛を吹くと、2羽が反応してくれることがあったりして。そういう時に、その3つの音のボリュームのバランスを変えられたら面白いのになぁと思うことがあるんです。それからいつも娘を同伴しているので、ちょうど良い感じの時に娘のおしゃべり声が入ってしまって、それを抜きたいと思うことも。複数のマイクを立てられないような屋外や特殊な空間での演奏の編集などに、AIの技術が活かせそうで面白いなと思います。
ますます興味が
深まります。
人間の身体と
AI、理想、教育
AIについてご質問させていただくほどに、ますます興味が深まっています。
今回もどうぞよろしくお願いします!
質問が3つあります。
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【 質問1つ目 】
前回のレターで、私達自身の力を引き出してくれるような技術はありますか?とご質問させていただいたところ、「Augmented Human =人間拡張」という、分野があると教えていただきました。
人間拡張、という言葉でまず驚いたのですが、「ピアニストの手の動きの情報を読み取り、解析、変換し、そしてそのベルトをピアノが弾けない別の人の腕に巻く。すると、ベルトからの電気信号で、ピアノを弾けないはずの人がピアニストのとおりピアノを弾けるようになる。」そんな夢のような事がそう遠くないうちに可能になるかもしれないなんて、しかも日本がその研究の先頭を走っているなんて本当に凄いですね!この技術を使うことで、たとえば身体(脳や筋肉?)がその動きを記憶して、楽器やスポーツなどのレッスンの助けになるようなことは可能ですか?これはAIと医学の両方の技術が必要で複雑そうですが、たとえばリハビリテーションなどにも活用できるとしたら素晴らしいなと思いました。人間の身体とAIの関係について、他にも何かありましたら教えていただけますか?
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【 質問2つ目 】
AIを研究されておられる方にとって、理想のAIとはどんなものですか?人の役に立つものである以外にも、もしこれが可能だったら素晴らしいと思うAIはありますか?
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【 質問3つ目 】
「AIに関する7つの原則」の中で、「誰もがAIを利用できるよう教育を充実させる。」というものがありましたが、将来的に子供達が学校でAIを学んだりする時代が来るのかな、と興味深く思いました。
また先日、11歳になる娘の宿題の答えが正解だったのに、担任が間違えてバツを付けてしまっていたことを思い出して、もし先生がAIならこういうミスはなさそう、とちょっとクスッと笑ってしまったことがありました。コロナウイルスの問題がきっかけでリモート学習が増えてきたこともあり、人間に変わってAIが授業を担当する日も遠くないのではと思ったのですが、近い未来、どんな風にAIが教育に関わってくると思われますか?
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今、芸術の分野にもAIは応用されています。たとえば、有名な画家の絵画で傷ついて見えなくなった部分を補足、修復したり、ある作家の書きぶりを学習して小説を書いたり。音楽の分野でも、特定の音楽家のデータを学習して、特徴を分析して、あたかもその音楽家が作ったような音楽をAIが作曲する、といったような事例があります。とはいえAIは、新しい、独創的なものを作ることは苦手なのですが、芸術を本業とされているカヒミさんにとって、こういった取組みはとてもわくわくするものですか?それとも、少し不安だったりしますか?