ユニバーサルデザインと聞くと、みなさんは何を思い浮かべますか。普遍的で、年齢、性別、文化、障がいの有無によらず、誰にとってもわかりやすく使いやすいデザイン。もう少し先のこと、例えば新しいことに挑戦したくなるデザイン。誰もが勇気をもって挑戦したくなるデザインがあったなら。三菱電機のユニバーサルデザイン「らく楽アシスト」に長年携わってこられた坂田さんが見つめる、しあわせシェア物語をご紹介します。
01 目指すのは一人でも多くの人が使いたくなる、しあわせになれる「共優品」
1959年、三菱電機の二番目の研究所として商品研究所が設立され、第三者視点で使いやすさを評価する取り組みがはじまりました。これが、現在の三菱電機のユニバーサルデザイン(以下、UD)の礎です。2010年には「らく楽アシスト」と名称を改め、現在に至ります。
家電は、購買層として30代の家族などを想定していることが多いですが、三菱電機ではUDの視点に基づき、身体の不自由な人、子どもたちから高齢者までが使いやすいことを前提にデザインしています。
60歳で定年退職し、次に買い替える10年後まで使いやすいと言ってもらえることを目指し、70歳を基準に、製品開発のガイドラインも作成し直しました。じゃあ、高齢者だけが使いやすいか?というとそうではありません。結果的に「子どもから一般的な大人まで、ユーザー全体の使いやすさの底上げを目指す」ことが、らく楽アシストの考えかたです。
特定の人のための専用品ではなく、みんなが使える「共用品」、さらには一人でも多くの人が使いたくなる「共優品」が、私たちが目指す家電。共優品というのは、私がつくった造語なんですけどね(笑)
02 目が不自由な方の声から生まれた計量カップ。
このリモコンを見て、何か気づいたことがありませんか?実は、三菱電機のリモコンにはストラップがつけられるようになっています。視覚障がい者や車椅子で生活されている方からうかがったのですが、リモコンを床に落としてしまうと拾うのが大変だそうです。ストラップをつけることで、車椅子やご自分の体などに引っ掛けて使うことができます。また、高齢者の中にはリモコンを手で持たずに、机に置いたままボタンを押される方が多いとユーザー調査や大学との共同研究でわかり、リモコンは置いたままボタン操作をしてもグラつかず安定した形状にデザインしています。
三菱電機の炊飯器の計量カップは、1合だけでなく、ひっくり返せば0.5合も測れるデザインになっています。これは、視覚障がい者向け商品展示会でのお声から生まれたものです。「0.5合が測りにくいんですよね」と言われ、ハッとしました。その方は、手で触った感触で0.5合を測るしかなかったのです。この話を聞いた若手エンジニアがリバーシブルで使える計量カップを開発してくれました。これなら0.5合もすりきりで測れますよね。そしてこの計量カップは、円形ではなく、楕円形になっています。落とした際にも転がりにくい形状で、見失わないようにするためです。
また希望される方には写真のような点字シールをお配りしています。操作ボタンにシールを貼ることで、ボタンの位置がわかりやすくなります。
社内ではエンジニア、デザイナー、営業担当者向けに、色が判別しにくい色弱や、視野が狭くなったり文字が霞む白内障を疑似体験できる眼鏡をつけて、使いやすさを検証する研修なども行っています。また、家電に表示するフォントや文字の大きさ、操作音の周波数に至るまで、社内で共有できるガイドラインもつくっています。らく楽アシストを単発の商品で終わらせずに、全社をあげて、様々な商品にきちんと取り入れられる環境を整えています。
03 負担を軽減するだけでなく、使う人をレベルアップさせたい。
「らく楽アシスト」は、UDの視点に基づき、身体の不自由な人、子どもたちから高齢者まで、一人でも多くの人が、あん心して、らくに、楽しく、家電を使いこなし、みんなで「しあわせ」をわかちあえる社会の実現を目指しています。
私はこの「楽しく」の部分が重要であると思います。使う人の負担を軽減するなら、なんでも軽量化・自動化すればいい。でも、それでは人間はどんどん退化してしまう。製品を使うことで、「楽しい」そして、もっと新しいことに挑戦したくなる。そんな製品が理想です。マイナスをゼロにするのではなく、むしろ使う人をレベルアップさせるようなデザインが理想であると考えています。
04 超高齢社会だからこそ、日本はこの分野で世界をリードできるはず。
誰ひとり取り残さず豊かな世界を目指すというSDGsの考え方も少しずつ定着してきました。まさに、UDが貢献できる部分です。さらに、日本は超高齢社会、高齢化比率で世界でも常にTOPを争っています。これは、世界が高齢化に向かう現在、チャンスでもあるのではないでしょうか。日本は高齢者向け製品で、世界をリードしていける。そして三菱電機が、それをやらなければならないと考えています。
05 誰もが使いやすさをわかちあえるよう、日本全国に会いに行く。
困っているひとがいたら、何とかしたい。その一心で、障がいを抱える方に直接商品を紹介するUD展示会を、草の根活動的に取り組んでいます。多いときは週末を中心に年間50回ほど日本全国へと足を運んでいました。
東京都盲人福祉協会さんのご要望で開催した調理体験会でのお話です。ある女性の方が、レンジグリルを使えば私でもグラタンをうまくつくることができたと泣いて喜んでくれました。グラタンは亡くなられた夫の大好物だったそうなのですが、目が見えないので中が冷たいままだったり、表面を焦がしてしまったり、美味しいグラタンを食べさせてあげることができなかったと後悔されていたそうなのです。目の見えない方にとって、グラタンを作るのがいかに難しいか気づかされました。調理中にグラタンの焼け具合を確認することができないのですから。
魚が美味しく焼けたと、喜んでくれた方もいました。焼け具合がわからず、生焼けが怖いため、どうしても焼きすぎて焦がしてしまうそうです。レンジグリルなら、レンジ機能で中を温めてから、外をグリルでカリっと焼くことができる。グラタンも焼き魚も、本当においしく焼けると喜んでくれた笑顔は今でも忘れられません。
草の根活動に取り組む中で、レンジグリルのように私たちの製品が、誰かのお役に立てていると気づくことができました。いまではらく楽アシストの取り組み、考え方のファンになってくださり、仕事としてだけでなく個人的に製品を広めてくださる方が全国各地にいらっしゃるそうです。そこまでしてくれる方がいるのだと、感激しています。
06 うれしいことをシェアすれば、みんなで高め合える社会をつくれるはずだ。
自分が楽しいことやうれしいことはシェアしよう、というのが好きなんです。お互いがうれしいことをシェアし合うことで、みんなで高め合う社会をつくっていけると、信じています。
例えば、三菱電機のレンジグリルには、使い方を音声で伝える音声ガイド機能をつけました。音声のアシストによって、料理に苦手意識を持っている方でも、新しい料理に挑戦してみよう!と、少しでも背中を押すことができたらと思います。難しいと思っていた料理ができるようになり、食生活が充実すれば、グラタンが大好きだったご家族の話のように、家族の笑顔も、しあわせも増やすことができるはずです。
これからも、「らく楽アシスト」で、使いやすさを一人でも多くの方に。そして、挑戦する勇気に寄与できるようなデザインで一人でも多くの人がしあわせな社会の実現に貢献していきます。
坂田 理彦
三菱電機株式会社
リビング・デジタルメディア事業本部
ブランド戦略推進部 ブランド推進グループ 専任
博士(工学)
1991年三菱電機入社。生活システム研究所(現:住環境研究開発センター)、セントラルメルコ(株)出向、本社にて、一貫してCS(Customer Satisfaction)、HI(Human interface)、UD(Universal Design)を通じた、家電製品の商品力・組織力強化および日本の家電業界全体のUD底上げを推進。近年は、ブランド力向上が本務となり、技術・製品力とブランド力の向上に取り組む。
プライベートでは、サーフィン、セーリングなどの自然と対話するwater sports、および日本文化・武道の1つである空手道稽古&指導を通じ、seamanship&空手道精神の習得とシェアをライフワークとし、“#しあわせをシェア!”実践に日々精進している。