社会・公共・交通・電力などの分野で各種制御システムやソフトウェアの開発を手がける三菱電機コントロールソフトウェア株式会社(MCR)。同社はPLC(シーケンサ)のデータを収集して製造プロセスを可視化するソフトウェア「Miranda」シリーズにおいて、三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社(MIND)のネットワークカメラ用録画・配信サーバー「ネカ録」を採用し、MirandaのVideo Optionとして提供しています。カメラの映像とPLCデータを同期して表示するVideo Optionにより、トラブル原因の早期究明が可能になり、顧客企業の生産性向上に貢献しています。
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生産設備の稼働率向上に向けカメラ映像の解析ニーズが増加
1980年の設立以来、社会インフラを支えるシステム開発を通して、より快適な社会づくりに貢献してきたMCR。現在、社会・公共、電力、交通、産業・FA、自動車機器の5つの分野で事業を展開し、ビル管理システム、電力監視制御システム、列車運行管理システム、鉄鋼プラント向け制御システム、電子制御用車載コンピュータ装置などの開発・設計を行っています。
MCRにおいて産業・FAシステムの開発を担うトータルソリューション事業所では、製造装置や設備に取り付けた自動制御装置(PLC)のデータを収集して製造プロセスを可視化するソフトウェア製品「Miranda(ミランダ)」を提供しています。Mirandaシリーズは2006年の発売以来1,000ライセンスを超える導入実績があり、鉄鋼業界をはじめ自動車、製紙、電子機器、衣料、食品など様々な製造現場で採用されています。
製造現場では多数の装置や設備が稼働しており、それらの機械部品の劣化摩耗、締結の緩み、切粉の堆積などによるトラブルが不定期に発生して稼働率低下の要因となっています。一時的に装置や設備が停止する「チョコ停」もあり、多くの製造業者を悩ませています。
「1回に5分程度のチョコ停でも、装置の数や停止する頻度が増えれば、累積の停止時間は長時間となり、生産に大きな影響を及ぼします。MirandaによってPLCのデータを取得してモニタリングすることで、各種不具合やチョコ停の原因追及が可能になり、設備稼働率の改善につながります」と営業部 営業課 主幹の上田正明氏は語ります。
生産設備の複雑化が進むにつれ、顧客企業から「トラブル発生時、PLCデータと製造現場を撮影したカメラ映像を組み合わせて確認したい」「チョコ停発生時の直前の状態を、目で見ながら原因を突き止めたい」といった要望が増えていきました。そこで同社は、カメラの映像とPLCのデータを同期して記録・再生する連携機能の開発に着手しました。
長時間録画までの対応とカメラのマルチベンダー対応により「ネカ録」を採用
2010年よりカメラ連携機能の開発に取り組んだMCRは、複数の実現手段を検討した結果、MINDのネットワークカメラ用録画・配信サーバー「ネカ録」をレコーダーに採用しました。ネカ録を選択した理由は、映像保存時間の長さ(大容量データ保存)、マルチベンダーのカメラへの対応、ミリ秒単位でデータの紐付けが可能の3点にありました。技術第1部 開発課 グループリーダーの中島龍二氏は次のように語ります。
「カメラ1台を持ち運びながら各所のチョコ停の原因を追究したいお客様から、数十台のカメラを設置してライン全体を監視したいお客様まで、用途は様々です。そのため、短時間から長時間まで録画時間が選べるレコーダーが必要でした。また、製造現場には様々な種類のカメラが使われており、既存の監視カメラを流用したいといったニーズもあることから、マルチベンダー対応も不可欠でした。さらに、映像とPLCのデータを同期させる際、ミリ秒単位で紐付ける必要がありました。これらの条件をすべて満たしたものは、ネカ録だけでした」
カメラ連携機能の開発は、MCRがリードを取る形で、三菱電機 情報技術総合研究所、MINDを加えた3社で進めました。現場での実利用をイメージしながら開発し、2012年に「Miranda-VR」として販売を開始しました。2021年1月にはMirandaの製品ラインアップをリニューアルし、Mirandaシリーズのオプション製品としてVideo Optionを提供しています。
「2021年1月にリリースした新バージョンは、三菱電機デザイン研究所の協力を得てデザインを一新し、直感的でわかりやすいユーザーインタフェースを採用しました。カメラ連携機能をオプション化したことで、小規模版、大規模版、高速版の3種類のMirandaで利用できるようになり、コスト面や構築面でも導入が容易になりました。また、Mirandaのデータを市販のデータベースに転送するDB Optionも新たに用意し、様々なソフトによる分析やデータ活用を可能にしました」(上田氏)
生産設備の映像分析によりトラブルの原因を短時間で特定
MirandaのVideo Optionは、カメラ1台+240GBのネカ録1台の最小構成から、カメラ数192台+96TBのネカ録1台の大規模構成まで、用途に応じて構成することができます。カメラについては、MINDが検証しており、アナログから最新のネットワークカメラまで豊富に用意しています。
Video Optionを導入すると、Mirandaの監視モニター上には、現場に設置したカメラから送られてきた映像と、PLCデータをグラフ化したものを同期した状態で並べて表示します。チョコ停などのトラブルが発生するとPLCデータの波形に乱れが生じるため、その時刻の映像を再生して装置や設備の稼働状況や作業担当者の動きをチェックすることで、現場で何が起きていたのかを詳細に確認することができます。カメラ映像は拡大・縮小ができ、作業者の手元など細かい映像を分析することも可能です。
Video Optionの利用用途は様々あります。
「あるお客様では、製造ラインに新技術を導入する際にVideo Optionを使用しています。従来はトラブル発生時の原因調査に3週間かかっていましたが、これが3時間に短縮できました。そのほかにも、化学繊維の生産ラインや建設現場に導入した事例や、製造工程で撮影した熟練工と経験の浅い作業者の映像を見比べながら、経験の浅い作業者に改善箇所を指導する教育ビデオとして活用している例もあります」(中島氏)
Video Optionはリピート購入率が高く、一部の製造ラインに導入したお客様が、別の製造ラインや別の部門で採用するケースも多く見られます。技術第1部 開発課長の藤原永年氏は「MirandaとしてもVideo Optionがあることで、お客様に新たな付加価値を提供でき、Miranda製品のブランド価値向上や知名度向上に貢献しています」と語ります。
クラウド連携による遠隔監視やAIを用いた独自製品の開発を検討
今後はさらなる進化を目指して、Mirandaのモバイルデバイス対応や、クラウド連携による遠隔監視機能の開発を検討しています。これにより、国内、海外の複数拠点の設備や装置を、1つ拠点から一元的に監視することが可能になります。さらに、IoTやAIを活用した状態診断や、映像データによる作業分析機能の開発にも着手しています。
「例えば、Mirandaから得られるデータを活用して設備や装置の状態を診断し、異常値をもとに故障を事前に察知する予知保全の機能を搭載したいと考えています。映像データの活用については、三菱電機のAI技術『Maisart(マイサート)』を用いてカメラ映像から人の骨格情報を抽出・分析し、特定の動作を検出する『骨紋』を組み込んだ独自ソリューションを開発中で、Mirandaへの搭載を通して作業時間、作業ミス、無駄な動きなどを分析し、製造業者や物流事業者の作業効率化を支援していきます」(藤原氏)