自動車や二輪車のロードサービスを中心に、交通安全の推進、モータースポーツの振興などの事業を展開する一般社団法人日本自動車連盟(以下、JAF)。同法人は、DX推進の一環として三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社(MIND)が提案したデータ連携プラットフォーム「Informatica Data Integration Hub」を導入し、複数のフロントシステムを疎結合でつなぐデータ連携基盤を構築。併せて、MINDのデータ分析フレームワーク「AnalyticMart」を用いてデータ分析基盤を構築。データ利活用基盤により、迅速な意思決定を実現し、タイムリーな施策立案に基づくサービスの提供を推進しています。
目次
システム連携の負荷解消に向けデータ連携基盤(HUB)の構築を決断
1963年の創立以来、自動車ユーザーに対して安全と安心の支えとなる各種サービスを提供するJAF。会員数は2021年10月時点で2,000万人を超えています。
JAFでは、デジタル社会における新しいライフスタイルの創出に向け様々なデジタルサービスを提供しています。スマートフォンがデジタル会員証になる「JAFスマートフォンアプリ」は、いざというときに簡単にロードサービスを要請できるだけでなく、現在地周辺の優待施設やクーポンを検索できるなど、2021年10月時点で約500万人が登録する人気アプリに成長しています。
サービスのデジタル化を推し進める傍ら、事業戦略として注力しているのがDXの推進によるビジネスモデル変革です。その狙いについて、DX推進本部 データHUBプロジェクトチーム マネージャーの井川竜也氏は次のように語ります。
「JAFにとって、ITデジタル投資は”守り”という意識が強く残っていました。この考えを改め、ITをビジネスに活用し、会員の顧客体験価値(CX)を高めることこそがIT化の本質であるという職員のマインドセットの変革、質的変革を目指しました」
一方で現行の基幹システムは、初期導入から10数年が経っており、更新期限が迫っていました。また、ロードサービス、会員優待サービス、交通安全の啓発、モータースポーツの振興など、10を超える事業系サービスの会員利用履歴は、各事業部署が独自に開発したフロントシステムで管理しており、複数システムを横断した会員利用傾向等の分析ができていませんでした。フロントシステムは、現行の基幹システムが稼働後に開発されたため、サイロ化が進んでいました。そこで基幹システムの更改に合わせてシステム群を整理し、疎結合でデータを収集するデータ連携基盤と、収集したデータを横断的・複合的に分析するためのデータ分析基盤の構築を決断しました。
DX推進本部 データマネジメントチームEX(専門職)兼 データHUBプロジェクトチームの大畑博志氏は次のように語ります。
「現行のシステムを洗い出して最善のデータ連携の方式を検討した結果、複数のシステム間インターフェースを一箇所で管理でき、データの収集・蓄積・配信に適したハブ&スポーク型とすることとし、データ連携基盤に集約したJAF内部の各情報をデータ分析基盤(DWH)につなげることで、必要な時に必要なデータをすぐに利活用できる環境を整えることにしました」
適切な解決策を提示する提案力と真摯に開発に取り組む姿勢を評価
2019年4月に基幹システムを含めた全社システムを統合・再構築するプロジェクトを立ち上げたJAFは、そのひとつとしてデータHUB構築プロジェクトをスタートしました。構築ベンダーの選定については、提案依頼書を送付した10社の中からMINDが提案したInformatica Data Integration HubとAnalyticMartの採用を決めました。
「多くのベンダーの提案が、インフォマティカ製品を使ったデータHUBの構築でした。その中で、MINDの提案はスモールスタートでシンプルにデータを集めて分析し、結果をフィードバックしながら成長させていく、私たちに最適なものでした。シンプルゆえに価格面でも優位性があり、開発スケジュールも私たちの要望に近いものでした」(井川氏)
データHUB構築プロジェクトは2019年12月にスタートし、2021年7月にデータ連携基盤および分析基盤をリリースしました。
「2023年4月に次期基幹システムが本稼働するため、次期基幹システムとの連携も見据えながら、現行システムと連携するための作業進捗の管理をMINDと調整しながら進めました」(井川氏)
10を超える既存システムとの連携についても、各事業部署と折衝しながら必要なデータや帳票を精査していきました。
「約1年かけて必要なデータをしっかり整理し、データHUBとの連携をスムーズにしました。帳票類も古いものや使わないものなどを整理して、これまでの360本から180本に削減しています。データのクレンジング処理も実施し、データ品質を高めました」(大畑氏)
データ整合性の向上と外部環境への対応力向上を実現
新たなデータ連携基盤において、現時点でデータHUBを介して連携しているシステムの数は12で、インターフェースの数は335です。連携している代表的なシステムとしては、JAFの入会窓口のスタッフがWebで入会手続きや実績管理を行うシステム、全国各地のドライブコースやJAF会員優待をはじめとする会員向けの優待情報サイト「JAFナビ」の管理システム、電子予約決済システムなどがあります。
これらの内部データは、データHUBを介して共通のデータ形式に変換してDWHに保存し、BIプラットフォームを使って統計データを提供したり、必要に応じて集計や分析を行えるようにしています。
データ連携基盤とデータ分析基盤の構築により、当初の課題だったデータ集約が実現しました。システムの疎結合が実現したことで追加・改修も容易になり、事業環境変化への対応力が高まりました。その効果として、新サービスの追加や既存サービスの改修時のコスト削減や開発期間の短縮が期待されています。
「データHUBにより、これまで連携システムどうしで行っていたデータメンテナンスが不要となり、各事業部署は分析に集中できるようになりました。結果的に運用コストなどが削減されることを期待しています」(大畑氏)
次期基幹システムと連携し予測に基づく新サービスの提供へ
次のステップでは、2023年4月に本稼働を迎える次期基幹システムとの切り替えや、連携するシステムにメインとなるロードサービスシステムを追加する計画です。それらの内部データや、ECサイトの外部データも合わせてDWHに保存し、目的・サービスに応じた各種分析を迅速に行うためのデータマートを構築することで、本来の目的であるデータに基づく将来予測や意思決定が実現します。
今後は、会員のために各フロントシステムに点在する各種データを分析しながら、新たなサービスや施策を実施するための情報を事業部署にフィードバックしていく予定です。例えば、クーポンの利用情報とドライブデータを連携して優待サービスを提供する、過去の出動データから渋滞や事故を事前に予測し、待機の体制を強化するといったサービスでの活用が期待されています。
「データHUBシステムが提供する新たなデータにより、会員自身でも気が付いてないサービスを提供するサイクルを加速させ、刺激的でワクワクできる暮らしに貢献していきます。データ連携基盤と分析基盤には、攻めのビジネスモデル変革に全職員が挑戦するためのフロントサービス、フロントシステムのプラットフォームとなることを期待しています」(井川氏)
井川氏はMINDについて「約2年にわたるプロジェクトで、お互いに何でも言い合える関係を築くことができました。私たちの業務を深く理解し、誠実に開発に向き合うMINDの姿勢は高く評価しています。引き続きの支援に期待しています」と話します。
JAFは、交通の安全と環境のための事業活動を積極的に推進し、健全な自動車社会の発展に貢献していきます。