静岡を拠点に自動車や家電の部品を製造する杉本金属工業株式会社。30年近くにわたりオフコンベースのシステムで生産管理業務を行ってきた同社は、システムのブラックボックス化を解消するため三菱電機ITソリューションズ株式会社(MDSOL)が提供する自動車部品生産管理システム「ACSEED(アクシード)」を導入しました。それまで手作業で行っていた受注情報や出荷実績、材料仕入実績などの入力業務が自動化され、業務の効率化と精度の向上を実現。少量多品種生産への対応や取引先の増加など、ビジネス環境の変化に迅速に対応できるようになりました。
左から、生産部 次長 藁科 貴泰氏、総務部 課長 田中 卓也氏、営業部 営業購買グループ 係長 平田 雄一郎氏
ブラックボックス化したシステムから脱却し
業界特化型パッケージで業務を標準化
1924年に金物商として創業した杉本金属工業は、2024年6月に創業100周年を迎えました。現在、高圧プレス機や溶接ロボットなどの充実した設備と熟練した加工技術により、自動車メーカーや家電メーカー向けの各種金属部品を製造しています。
同社は、1989年からオフコンをベースとした生産管理システムを30年近くにわたり利用してきましたが、導入に携わったメンバーが退職して以来、ブラックボックス化が進んでいました。こうした中、オフコンのサポート終了(EOL)が迫ってきたことから、生産管理システムの刷新を決断しました。当時の状況について総務部課長の田中卓也氏は次のように語ります。
「オフコン導入から30年経ち、取引先は3倍に増えました。生産形態は大量生産から多品種少量生産に移行しましたが、オフコンベースの生産管理システムは老朽化し、ブラックボックス化が進んでいました。また、出荷情報などを取引先に応じてExcelで個別に管理するケースも増え、業務の属人化が進んでいました。そこで、パッケージを導入して業務を業界標準に合わせることにしました」
概要と全体スケジュールを提示したMDSOLの提案を評価
パッケージについては、自動車部品サプライヤーの生産管理システムに精通し、中堅中小企業への導入実績が豊富なMDSOLに提案を依頼し、自動車部品生産管理システム「ACSEED」を導入することにしました。導入を決定した理由について、生産部 次長の藁科貴泰氏は次のように語ります。
「当社では以前からプレス工程の生産計画業務の効率化のためACSEEDをベースとしたシステムを導入していました。マスターの二重化防止と簡便化を考慮して生産管理システムもACSEEDに統一するのがベストと判断しました」
また、MDSOLの先を見通した提案も導入決定の後押しになりました。
「総務部の私がリーダーを務めるプロジェクトにおいて、全体スケジュール、開発期間、費用、メンバー構成などの概略をMDSOLから早い段階で提示していただけたことが安心感につながりました。全体像を事前に把握したことで経営層への説明もスムーズに進み、理解を得ることができました」(田中氏)
プロジェクトは2021年4月にキックオフ。現行業務や要求事項のヒアリング、要件定義、マスター整備、システム開発、導入試験、並行稼働試験などを経て3年後の2024年3月に完了しました。プロジェクトの成功要因の一つは、現行業務のヒアリング期間をしっかり設けて新業務フローを設計したことと、本稼働前の並行稼働時にプロジェクトチームのメンバー、生産事務、営業事務のスタッフが実務に耐える業務フローに発展させたことにあります。
「現行業務のヒアリング時は、業務担当者一人ひとりに聞き取りしながら、新業務フローに落とし込んでいきました。その際、MDSOLのエンジニアも同席して重要なポイントを理解していただけたおかげで、その後の開発がスムーズに進みました」(平田氏)
プロジェクト管理では、進捗状況や検討内容を共有フォルダーに保存して全社に公開し、経営層にも定期的に報告しました。疑問点・問題点・要望点があれば、プロジェクトチーム内やMDSOLとの会議、経営層への報告時などで会話を通して解決し、不安の解消に努めました。
「“ブラックボックス化したシステムをこのままにしておいてはいけない”という共通認識を全社員が持てたことが一番の成功要因です。MDSOLとのコミュニケーションではリモート会議や遠隔操作に初めてチャレンジしましたが、結果として当社(静岡)とMDSOL(名古屋)の物理的な距離が縮まり、効率的な開発につながりました」(田中氏)
実務の作業工数を増やすことなく
受注情報、出荷実績などの精度を向上
ACSEEDの導入により、受注情報、出荷実績、材料仕入実績の手入力作業が廃止・削減され、精度を向上することができました。
「例えば出荷実績の場合、確定受注データを受信した段階で出荷実績に反映できるようになりました。その結果、出荷後に受領実績データを受け取ってから手入力していたときに比べて2日程度前倒しで確定できるようになりました」(田中氏)担当者が個人で管理していたExcelファイルも削減でき、属人的な業務も解消されました。
「外注品の発注は、以前は取引先への納入形態にあわせて3名の担当者が担当し、Excelベースで管理していました。ACSEED導入後はすべての発注方法が統一されたことで1.5人分の工数で対応できるようになりました。同様にすべてのデータが集約されていることで、在庫を加味した発注が可能になり、在庫の精度も大きく向上しました。さらに、システム上で売上試算が可能になったことで営業担当者はいつでも試算状況を確認できるようになり、売上の精度も向上しました」(平田氏)
マスターの整備も進み、以前は9万件あった品目マスターが1万件まで削減できました。結果としてデータの信頼度が高まり、検索や集計時間も短縮されています。
導入時に得意先が発行したEDIデータをすべて解読した結果、常に最新の内示情報が基幹システムに反映されるようになったことも効果の一つです。その結果、これまで月に1回だった内示情報の取得が週1回になり、生産計画の信頼性が向上しました。
ACSEED外の業務を取り込み業務のさらなる効率化へ
今後の検討課題は、理論在庫の把握と実地棚卸回数の削減です。以前のシステムでは在庫を管理しておらず、在庫を把握するために工場の稼働を停止して実地棚卸を行っていました。ACSEEDへの移行によりシステム内で理論在庫が計算できる土台ができたことから、実地棚卸を廃止して工場停止の時間を生産活動に当てていく予定です。
また、今回は旧システムからの移行を最優先したため、ACSEEDで対応できなかった業務は外部システムで行っています。いずれはACSEEDに取り込むことでさらなる業務標準化と効率化を図る予定です。
「今後はフェーズ2、フェーズ3と段階を追って機能を追加してACSEED外の業務を取り込んでいきます。MDSOLには引き続き、基幹システムの高度化に向けてアドバイスをいただければと思います」(藁科氏)
杉本金属工業は、100周年で掲げた新たな経営理念「社業を通じてお得意先の信頼に応え、関わる全ての人々の物心両面の幸福を追求する」のもと、新たな挑戦を続けていきます。