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見える化とデータ連携から始まる
中堅・中小製造業におけるスマート工場化のポイント

2019年12月|SPECIAL FOCUS

現在、製造業で注目されているのがスマート工場です。スマート工場は、センサーを使って製造に関わるあらゆる情報を収集し、見える化することで全体最適による効率化やコスト削減、品質の向上などを目指すものです。スマート工場化の取り組みは大企業だけでなく、中堅・中小の製造業にとっても重要なテーマとなっています。今回は、スマート工場とは何か、実現のためにはどのような取り組みが必要になるかについて紹介します。

スマート工場への第一歩はプロセスの見える化

一般的に、工場のスマート化は製造プロセスを見える化することからスタートします。例えば、ある工場で熱処理を行う工程があったとします。それぞれの熱処理機には温度センサーが付いており、今は作業員が巡回して温度を監視しています。この方法では台数が多いほど巡回に時間がかかり、温度の異常に気付くのが遅れます。

そこで、IoTにより改善を実施。各熱処理機の温度データをネットワーク経由で取得し、PCやモバイル端末で見られるようにしました。これにより、作業員は全熱処理機の温度データをリアルタイムに把握することができます。適正な温度範囲から外れたらPCやモバイル端末でアラートを鳴らすようにしておけば、熱処理工程の管理負担は大幅に軽減されます。加えて、より緻密な温度管理が可能になり、品質の向上も期待できます。

デジタルデータは記録が容易なため、全ての熱処理機の温度データを取ってグラフ化や数値解析が行えます。データ分析によって温度が異常になる予兆を捉えて、しきい値を超える前にアラートを鳴らすことができ、将来的には自律的に温度を制御できるようにもなるでしょう。さらに、温度以外のデータも取得して解析することで、温度変化そのものの原因究明やエネルギー効率の向上なども考えられます。このようにプロセスの見える化は、データの記録、制御、分析、自律化など、大きな可能性をもたらします。

技術の進歩により
見える化できる領域が大きく広がる

ここで挙げた例は、分かりやすい局所的なスマート化の例です。高度なスマート工場では工場全体が見える化され、データ分析、自律制御化があらゆるプロセスや組織に広がり、データに基づいた全体最適を目指します。

最近は、工場内で見える化できる領域が大きく広がりました。新しい製造機器や検査機器には、最初からデータ出力機能を備えたものが増えています。センサーや分析技術の進歩と低コスト化によって、従来は難しかったデータの取得も容易になりました。例えば、カメラの映像を処理して製造機器やヒトの動きを分析することも珍しくありません。

また、データ出力機能が付いていない旧式の製造機器にセンサーを装着してデータを取得する技術も進んでいます。機器が古いからといって、スマート化を諦める必要はありません。重要なことは、分析や自動化の目的を明確にすることです。その実現のためにも、最新のセンサーやIoT機器、活用事例の情報を入手しておきましょう。

重要度が高まる生産管理と製造現場のデータ連携

スマート工場の重要な要素に生産管理(経営)と製造現場(工場)のシームレスな連携があります。現在、多くの中堅・中小製造業では、生産管理側のシステムと製造現場のシステムが接続されていません。生産管理システムで作成された作業指示が紙に出力されて製造現場に伝えられ、製造現場ではホワイトボードに手書きしたり、Excelに再入力して進捗管理をしていることがよくあります。最新の生産設備を導入しながら、作業指示書の内容を手入力していることも珍しくありません。製造現場から管理側への作業実績の報告についても手作業で記録した作業伝票がよく使われています。

生産管理システムと製造現場のシステムを連携することにより、手入力による作業効率の低下やヒューマンエラーがなくなります。

例えば、製造機器が取得した作業実績データを生産管理システムに送信することで、作業負担が減るだけでなく、生産状況が生産管理側からリアルタイムに把握できるようになります。従来であれば、工場から報告があるまで生産管理側には製造現場の状況が分かりませんでしたが、リアルタイムに見える化することで、生産の遅れをいち早く察知してすぐに対策したり、計画と実績の差から問題点を洗い出すといったことが可能になります。

スマート工場の一例

技術継承問題もスマート化で対応可能

近年、製造業が慢性的に抱えている問題が人手不足です。

特に中小企業では、人手不足を原因とした事業縮小や廃業も起こっており、深刻な状況です。また、働き手の絶対数の不足に加えて製造業で問題となっているのが、現場の技術や技能の継承問題です。熟練技能者の多くが定年退職する時期を迎え、彼らが持つ技術や技能を次代を担う若手に継承していくことが経営課題となっています。特に習得に時間を要する技能の継承は喫緊の課題です。

スマート化は、この技術継承問題に対するひとつの解決策としても注目されています。IoTやAIなどデジタル技術を活用して、熟練作業者の技術や技能をデジタル化・体系化できれば、会社の資産として継承できるようになります。例えば、ヘッドマウントディスプレイとAR(拡張現実)技術を用いて経験の浅い作業者をアシストしたり、ロボットに置き換えたりすることも可能です。

外部の専門家を活用することが
スマート工場化の近道

あらゆる業界が情報産業化していくなかで、製造業がスマート工場化していく流れは必然的なものといえます。将来的には、工場のすべてがデータを中心にして動くようになり、従来よりも高いレベルでの自動化と最適化、高い生産性や柔軟な生産対応などが実現するはずです。

こうした中で、中堅・中小製造業は自らの業務内容や経営環境に応じたスマート化を目指すことが求められます。システムやデータ分析の専門部署がある大企業であれば、一気に最先端のスマート工場を作るアプローチも考えられます。しかし、経営リソースの限られた中堅・中小製造業では、外部の専門家のサポートを受けながら、データ活用の目的を明確にしたうえで、効果が分かりやすいポイントから取り組むことが成功の近道です。

  • 本記事は、株式会社三菱電機ビジネスシステム(現社名:三菱電機ITソリューションズ株式会社)の清水弘氏への取材に基づいて構成しています。

株式会社三菱電機ビジネスシステム
第二事業本部 SE統括部長
清水 弘 氏

1984年 同社(MB)に入社。中堅・中小製造業が多い東海地区を商圏とする中部支社に配属後、生産管理システムの設計・構築を担当。入社当時からオフィスサーバでの生産管理システム構築に従事。2004年より「Factory-ONE 電脳工場」の取扱いを始め、以降は同パッケージをベースとしたITソリューションの提供に従事。

株式会社三菱電機ビジネスシステム
  • 株式会社三菱電機ビジネスシステム(現社名:三菱電機ITソリューションズ株式会社)