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事業領域を超えたデータ活用によって
イノベーションを推進する
三菱電機のデジタル基盤「Serendie®」

2024年12月 | SPECIAL FOCUS

三菱電機株式会社の「Serendie®(セレンディ)」は、同社が展開する様々なコンポーネントやシステム、サービスのデータを集約・分析し、従来の事業領域の枠を超えたサービスやソリューションを創出するための新しいデジタル基盤です。データプールや分析ツールを備えた技術基盤に加え、人財の交流や育成、プロジェクト推進なども含めた総合的な基盤となっています。三菱電機では、すでにSerendieを活用した価値共創プログラムを開始しています。ここではSerendieの概要と何ができるのか、期待される応用などについて解説します。

“循環型デジタル・エンジニアリング”を
加速する新しいデジタル基盤

Serendieとは、Serendipity(偶然の巡り合いがもたらすひらめき)と、Digital Engineeringを掛け合わせた造語で、三菱電機がありたい姿として掲げる「循環型デジタル・エンジニアリング企業」への変革をさらに加速するために構築されたデジタル基盤です。

「循環型デジタル・エンジニアリング企業」とは、コンポーネントやシステム、サービスから得られたデータをデジタル空間に集約・分析し、三菱電機グループ各社が事業領域を超えて知恵を出し合うことで新たな価値を生み出し、顧客や社会の課題解決に還元しながら成長していく企業を意味します。

具体的には【多様なデータの集約】→【顧客の潜在課題・ニーズの把握】→【事業領域の垣根を越えて新たな価値を創出】→【顧客や社会への価値の還元】というサイクルを繰り返すことで実現します。

三菱電機はこれまで事業本部ごとに、それぞれの業界に最適化したソリューションを構築してきました。例えば電力機器ではBLEnDer®、昇降機やビル管理システムではVille-feuille®、空調機器や家電、住設機器ではLinova®、鉄道電機品ではINFOPRISM®、FA機器ではe-F@ctoryなどを展開していますが、ソリューションを跨る連携は難しい状況にありました。

Serendieは、これらのソリューションが個別に収集してきたデータを一か所に集約し、事業領域を横断した分析を可能にします。

さらにSerendieでは、デジタル空間上の技術基盤に加えて、イノベーション創出に欠かせない人財の交流を生み出すリアルな場や、DX人財の育成、実験から実運用に至るまでのプロジェクトの推進なども含めた総合的なイノベーション創出の基盤となっています。

Serendieを構成する4つの基盤
「技術」「共創」「人財」「プロジェクト推進」

Serendieは、「技術基盤」「共創基盤」「人財基盤」「プロジェクト推進基盤」から構成されています。

「技術基盤」は、様々なコンポーネントやシステム、サービスから収集したデータを一か所に集約し、横断的な分析を行い、新しいサービスやソリューションの開発を可能にする文字通りのデジタルな基盤です。

技術基盤は、データ分析基盤、WebAPI連携基盤、お客様情報基盤、サブスクリプション管理基盤で構成されています。データ分析基盤は各種データを一つの場所に集約し、高機能な分析ツールを使って横断的な分析を行えます。WebAPI連携基盤は、WebAPIによりシステム間の連携を可能にするための基盤です。

APIが一か所に集約されることで、情報へのアクセスやアプリケーション開発が容易になります。お客様情報基盤は、お客様の情報を活用し、ニーズにあった提案や新たな価値創出につなげていきます。サブスクリプション管理基盤は、サブスクリプション型ビジネスで課題となる請求・回収などのバックヤード業務を効率化します。

Serendieの4つの基盤

Serendieは技術基盤、共創基盤、人財基盤、プロジェクト推進基盤の4つからなる。
事業領域を超えたデータ活用を促進し、新たなサービス・ソリューションを産み出す基盤となる。

イノベーション創出のための
リアルな人財の交流を重視

「共創基盤」は、異なる領域の人々が実際に顔を合わせてアイデアや意見を交換し、新たな発想や価値を創出する場を提供します。

その中心となるのは共創空間「Serendie Street」です。

2024年3月にオープンしたSerendie Street YDB(横浜ダイヤビルディング)にはDX人財約150名(2024年12月時点)が在籍して活動しています。ここには様々な分野の人々が集い、Serendieに集約されたデータを囲んで、アイデアを検討・試行できる環境が整っています。

顧客やパートナーとスクラムを組み、Serendieを通じて多様なデータを掛け合わせることで、新しい価値を共創しイノベーションを加速させます。2025年にはDX人財約350名が集結するSerendie Street YIMP(横浜アイマークプレイス)もオープンします。将来的にはSerendie Streetのグローバル展開も視野に入れています。

「人財基盤」では、リスキリングやM&AなどによりDX人財を三菱電機グループ全体で2万人に拡充します。顧客に近いフロントサイドから開発側のバックサイドまでDXのスキルセットを定義し、適切な人財を確保します。

「プロジェクト推進基盤」は、Serendieを使った新しいサービスやソリューションの企画から事業化までを加速する仕組みを構築します。DXイノベーションセンターが各事業本部に伴走するスクラム活動により、アジャイルなスタイルで迅速にサービスやソリューションを開発します。

Serendieで実現した
鉄道向け向けデータ分析サービスの提供を開始

2024年7月には、Serendieで実現した最初のサービスとして「鉄道向けデータ分析サービス」の提供が始まっています。これは鉄道事業に関わるエネルギーの最適利用や鉄道アセットの最適配置・運用のためのサービスです。

鉄道業界では、カーボンニュートラル・脱炭素化の実現に向けて再生可能エネルギーの活用をはじめ様々な施策に取り組んでいます。この取り組みの効果を最大限に発揮するためには、鉄道だけでなく関連する様々なデータを収集・分析し、エネルギーの全体最適化を行う必要があります。

「鉄道向けデータ分析サービス」では、車両・変電所・駅の電力使用量や列車運行状況などのデータを集約して分析することで、潜在課題を捉え、最適な解決策や活用方法を提案します。例えば、鉄道車両のブレーキ時に発生する回生エネルギーのデータをもとに補助電源装置の適切な配置場所を提案する、あるいは駅の混雑度・運行ダイヤ・運行状況に応じた鉄道アセットの最適な運用方法を提案するといったことができます。さらに、沿線地域の電力システムと連携することで、沿線地域全体のエネルギー最適化にも貢献します。

この他にもSerendieを活用した多様なプロジェクトが進行中です。異なる領域のデータと人財が出会い、共創する基盤ができたことで今までにない新しいサービスやソリューションの創出が期待されます。

  • 本記事は三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター プラットフォーム設計開発部 部長 水口 武尚 氏へのインタビューを基に構成しています。

三菱電機株式会社
DXイノベーションセンター プラットフォーム設計開発部 部長
水口 武尚 氏

三菱電機 DXイノベーションセンター プラットフォーム設計開発部 部長。東京工業大学卒業、同大学院総合理工学研究科知能科学専攻修士課程修了。1993年三菱電機(株)入社。モバイル端末やカーマルチメディアシステムの新製品・新機能開発において、データ処理の高速化などのソフトウエア開発を経験。情報技術総合研究所 IoTシステム基盤技術部グループマネージャーとして、IoT/組込みシステム向け基盤ソフトウエアに関する研究を牽引。2023年より現職、Serendie技術基盤の開発・活用を推進。

三菱電機株式会社