今、世界中で実現に向けた努力が続けられている国際目標が「SDGs」(エス・ディー・ジーズ:持続可能な開発目標)です。SDGsは「誰一人取り残さない」というコンセプトのもと、2030年までに持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現することを目指しています。非常に広範で普遍性のあるテーマを対象としており、途上国から先進国まであらゆる人々が対象となります。SDGsでは、国際機関や各国政府だけでなく企業にも大きな役割を担うことが期待されています。本特集では、現時点で理解しておくべきSDGsの基礎知識と、それに取り組むためのポイントについて解説します。
国連加盟国の全会一致で採択した持続可能な未来のための目標
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれています。SDGsは、2015年の国連総会で加盟国163カ国の全会一致で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030 アジェンダ」の中で掲げられている目標です。
このアジェンダは、”誰一人取り残さない”というコンセプトに基づき、2030年までに貧困に終止符を打ち、持続可能な未来を追求しようとするものです。国連に加盟するすべての国は、このアジェンダを共通言語として2015年から2030年までの15年間で、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のための目標を達成すべく様々な取り組みを行っています。
“持続可能な開発”とは、将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発を意味します。地球資源の限界が見えてきた中で持続可能な開発を達成するためには、経済、社会、環境の3つの主要素をバランス良く調和させることが不可欠となります。例えば、どれか1つの要素だけを改善しても、他の要素にしわ寄せが来て、取り残される人や犠牲になる人が出てしまっては意味がありません。
アジェンダの採択から5年が経過した2020年からは、SDGs達成のための「行動の10年(Decade of Action)」として、取り組みのスピードアップや規模の拡大が行われようとしています。
広範な課題をカバーする17の目標と169のターゲット
SDGsが掲げている目標(ゴール)は、以下の17項目となります(図1)。
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目標1.
貧困をなくそう
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目標2.
飢餓をゼロに
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目標3.
すべての人に健康と福祉を
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目標4.
質の高い教育をみんなに
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目標5.
ジェンダー平等を実現しよう
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目標6.
安全な水とトイレを世界中に
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目標7.
エネルギーをみんなに
そしてクリーンに
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目標8.
働きがいも経済成長も
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目標9.
産業と技術革新の基盤を
つくろう
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目標10.
人や国の不平等をなくそう
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目標11.
住み続けられるまちづくりを
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目標12.
つくる責任 つかう責任
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目標13.
気候変動に具体的な対策を
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目標14.
海の豊かさを守ろう
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目標15.
陸の豊かさも守ろう
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目標16.
平和と公正をすべての人に
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目標17.
パートナーシップで目標を
達成しよう
広範な課題をカバーしているSDGsの全体像を把握するために便利なのが「5つのP」と呼ばれる分類です。「5つのP」は、人間 (People)、地球 (Planet)、豊かさ (Prosperity)、平和 (Peace)、パートナーシップ (Partnership)です。17の目標はこの5つのPに分類することができます。すなわち、人間、地球(環境)、豊かさ、平和という、人間が幸福な生活を送るために必要な要素を、世界中の人々の協力のもとに実現しようとするのがSDGsです。
17の目標には、より具体的な「ターゲット」が用意されています。例えば、目標1「貧困をなくそう」には「2030年までに、極度の貧困(現在 1日 1.25ドル未満で生活する人々)をあらゆる場所で終わらせる」「2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる」など、7つのターゲットが設定されています。ターゲットはSDGsのTo Doリストのようなもので、SDGsに取り組む組織にとっては具体的な行動の指針となっています。
図1:SDGsの17の目標。各目標にはより具体的な複数のターゲットが設定されている
図2:SDGsを大きな枠組みで捉える「5つのP」
政府やNGOだけでなく、企業の果たす役割に大きな期待が寄せられている
SDGsの特徴としては、まず途上国と先進国の区別なく取り組む目標だという点が挙げられます。従来の国際社会における貧困の撲滅や環境保護、経済格差の是正を目指す活動は、主に先進国が途上国の開発を手助けする形で行われてきました。しかし、SDGsでは途上国支援だけでなく、先進国自身が取り組む包括的で普遍的な目標となっています。
2つ目の特徴は、SDGsが法的拘束力を伴う「ハード・ロー(Hard Law)」ではなく、参加者の自発的・自主的な取り組みを促す「ソフト・ロー(Soft Law)」であることです。ハード・ローは目標達成のために強い強制力を持つ一方で、利害の異なる多国間での合意が難しいという難点があります。一方、ソフト・ローは、自主性を尊重することで、合意が容易になり、能力のある人や組織のより積極的な取り組みを促す効果があります。ITの世界では法的拘束力のないデファクトスタンダードが効果的に機能しています。SDGsのソフト・ロー化は極めて現代的な流れといえるでしょう。
ソフト・ローと並ぶSDGsの大きな特徴といえるのが、企業の役割を重視し、その創造性とイノベーションに大きな期待が寄せられている点です。この十数年間のITの普及や経済成長、グローバル化によって、資金・情報・人材・技術などのあらゆる面で企業の持つ能力は大きく高まりました。高い課題解決力を持つ企業が自主的に取り組むことでイノベーションが起きることが期待できます。すでに、先進的な企業の多くは、従来のCSRの範疇に留まらず、自社の経営戦略に積極的にSDGsを取り込んでいます。こうした企業では、SDGsに直接貢献するような製品やサービスの開発を行うだけでなく、社内の体制やサプライチェーンのSDGs対応を進めており、取引先や関連企業のSDGs化も進んでいます。
資本市場も企業のSDGs化を後押ししています。近年、投資判断において、環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)の3つの要素を重視する「ESG投資」が増加しています。これにより、環境保護や社会貢献、企業統治に優れた企業が資金調達や株価の面で有利な環境ができあがっています。このESG投資における企業価値のチェックリストとして、SDGsの目標とターゲットが活用されています。
このように、SDGsをうまく経営に取り込むことは、これからの企業の健全な成長のために欠かせないものとなっています。
- 本記事は、CSR/SDGsコンサルタント笹谷秀光氏への取材に基づいて構成しています。
CSR/SDGsコンサルタント笹谷 秀光 氏
東京大学法学部卒。1977年農林省(現農林水産)入省。フランス留学、外務省出向(在米国日本大使館一等書記官)。環境省大臣官房審議官、農林水産省大臣官房審議官、関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年伊藤園入社、取締役などを経て2019年4月退職。2019年4月より社会情報大学院大学客員教授。PwC Japan グループ顧問。著書『Q&A SDGs経営』(日本経済出版社)、『「SDGs経営」入門―現代版「三方良し経営」のすすめ』(SMBC経営懇話会)など多数。