世界的に脱炭素化が推進される中、国内企業でもCO2をはじめとしたGHG(GreenhouseGas:温室効果ガス)排出量削減の動きが加速しています。製造業においては顧客企業からの要請や輸出先の法規制などにより、経営レベルはもちろん、製品レベルにおいてもGHG排出量の管理やレポーティングが求められています。三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(MDIS)は、GHG排出量データ一元管理ソリューション「cocono(ココノ)」を開発し、提供を開始しました。ERP、MES、PLMなどの各種システムとのデータ連携により集計業務の負担を軽減し、エネルギーダッシュボードとして多角的に分析することが可能になります。
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カーボンニュートラルは自社だけではなく、サプライチェーン全体で取り組む経営課題
2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みを定めたパリ協定以降、世界の多くの国が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しています。日本も2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言し、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%減する中期目標を打ち出しました。産業界においては自動車メーカーを中心に脱炭素化の動きが加速しており、2023年度は産業界全体でカーボンニュートラルへの取り組みが本格化すると予想されます。
GHG排出量の削減においては、事実上の国際基準となりつつあるGHGプロトコルにおける「Scope3」への取り組みが重要になります。サプライチェーン排出量のうち自社の活動に起因するものを「Scope1」「Scope2」、自社以外に起因するものを「Scope3」と定義されています。製造業においては、サプライチェーンの上流に位置する原材料メーカーや部品メーカーと、下流に位置する物流メーカー、加工メーカーなどを含めて責任を持つべきというのが時代の流れで、様々なステークホルダーとの協働が欠かせません。
一方で企業の環境管理部門では、業務の改善が課題となっています。カーボンニュートラルが注目される以前から、企業は地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)といった、各種環境関連の法対応を中心に環境への取り組みを進めてきました。そこへ、国際的な非営利団体CDPの気候変動認証対応、株主総会を通した積極的な情報発信、企業としての戦略策定なども求められるようになり、業務負荷は格段に増加しています。産業第一事業部製造DX推進グループの仁平百合菜氏は次のように語ります。
「従来の法対応は引き続き需要な業務であることに加えて、さらにこれからは経営戦略のひとつとしてGHG排出量のデータ収集や分析、具体的な省エネ対策の計画などに取り組む必要があります。カーボンニュートラルは単なる一時的な流行でなく、息の長い継続的活動となっています」
コンセプトはエネルギー版IoT、ゼロボードとの協働で排出量データの収集・管理をさらに容易に
こうした背景を踏まえて、MDISはGHG排出量データ一元管理ソリューション「cocono」を2023年3月にリリースしました。coconoはデータを幅広く、ダイレクトに集めて、GHG排出削減に活かせるインテリジェンス(気づき)を提供することをコンセプトに開発されました。
GHG排出量は、部品をいくら購入した、燃料をいくら使ったといった排出につながる企業活動の量を示す活動量に、排出係数を掛け合わせて算定します。現状、こうした計算は人手で行われることが多いですが、サプライチェーン上の活動量に関するデータのほとんどは、企業内で使われている各システムにすでに格納されています。製造業の場合は、ERP(調達データ/販売データ)、MES/SCADA(製造データ/電力データ)、PLM/PDM(設計データ)、シーケンサ(稼働データ)などが対象となります。
そこでGHG排出量につながるデータを、人手を介することなく収集・管理する中核基盤としてcoconoは開発されました。産業第一事業部製造DX推進グループグループマネージャーの中松幸治氏は次のように語ります。
「各システムから直接データを集めるというコンセプトは、エネルギー版のIoTともいえます。MDISは2022年初頭から、ウェビナーなどでプロモーションしてきましたが、2023年に企業のカーボンニュートラル対応の検討が本格化するとみて製品化しました」
coconoは、BIツールや様々なエネルギーマネジメント製品と連携することで、エネルギーダッシュボードとして多角的な分析を可能とするエネルギーダッシュボードを提供できます。対象別の数値や変動などをグラフなどで視覚的に分かりやすく確認できるようになります。
「MDISは、2022年にGHG排出量算定・可視化クラウドサービスを提供する株式会社ゼロボードとの協業を発表しました。ゼロボードは、スタートアップならではの迅速な開発力を持っており、次々に新機能をリリースすることで、サービスを常に進化させています。coconoとの連携によって、ユーザー様の導入や運用をより容易にできるものと考えます」(仁平氏)
シンプルにデータ収集、三菱電機グループ内外の製品との連携を順次拡充
coconoは、MDISがこれまでお客様への対応で培った経験や、三菱電機グループ内での蓄積されたノウハウを活かしています。「三菱電機グループ内の各部門や関係会社と緊密に連携しており、机上の議論だけでなく、実践で得られたノウハウをcoconoの開発に反映させています」(中松氏)
その中でポイントになったのは、ERP、MES/SCADA、PDM/PLM、シーケンサのデータを、coconoのクラウド基盤に吸い上げる仕組みです。三菱電機インフォメーションシステム統括事業部基盤部開発課に所属しMDISと兼務する岩谷俊輔氏は次のように語ります。
「データを幅広く、ダイレクトに集めるcoconoのコンセプトに添う形で、シンプルな方法とファイル形式でデータを収集できるように工夫しました。これにより、開発・運用の工数を抑えることができ、さらにデータのメンテナンスがしやすくなるため、タイムリーかつ低コストでサービスを提供することが可能になります。ユーザー様にとってもシステム連携における仕様調整の負担を軽減できます」
MDISは、工場の設備制御機器との連携についても得意領域としています。coconoの開発においてもそのノウハウを駆使し、シーケンサ等の制御機器を経由することで、粒度の細かいデータをクラウド基盤上に吸い上げられるようにしました。
「MDISの強みは、マルチベンダー対応、ベンダーフリーにあり、データ連携の部分はシンプルにして柔軟性を持たせており、三菱電機グループ外の製品とも連携することが可能です。連携対象は順次広げていく計画です」(中松氏)
収集対象のデータを拡張し、高度なシミュレーション機能の提供へ
coconoの利用により、集計業務の負担を削減し、併せてデータの精度と鮮度の向上、改ざん防止などを図ることが可能になります。
「表計算ソフトなどでデータを集計していると、人が介在しているために工数がかかり、データの整合性にも不安が残ります。coconoであれば、手間のかかる集計業務は自動化されているため、環境管理部門の担当者はインテリジェンスが求められる付加価値の高い業務に集中することができます」(仁平氏)
coconoは、今後も収集対象のデータを拡張していく予定で、様々なシステムや設備機器との連携を計画しています。将来的にはデータシミュレーションによる予測サービスやデータ分析機能を提供する構想もあります。
「企業の環境活動は、環境変動の要素も複雑に絡み合って、今後さらに多岐にわたると考えられます。これからも様々なサービスの提供を検討していきます」(中松氏)