打ち上げ直前レポート
2013年10月22日
これだけは抑えておきたい 若田光一宇宙飛行士
打ち上げ直前情報!
日本人が宇宙飛行を始めてから20年あまり。待ちに待った時がやってきた。これまで米ロの宇宙大国の背中を追いかけてきた日本が、国際宇宙ステーション(ISS)で最も大きく多機能な実験室、「きぼう」日本実験棟や貨物船「こうのとり」などで対等に参加。これらの技術力を背景に、ついに日本人宇宙飛行士が船長=「コマンダー」として世界の精鋭宇宙飛行士のトップに立ち、「リーダー」の役割を果たす。その重要な任務を担うのが、日本人宇宙飛行士のエース、若田光一宇宙飛行士だ。
打ち上げ日時: | 11月7日(木)13時14分(日本時間、以下同じ) |
打ち上げ場所: | カザフスタン共和国 バイコヌール宇宙基地 第一射点 |
ドッキング : | 2013年11月7日(木)19時23分頃 |
帰還 : | 2014年5月14日(予定) |
アジア初の船長=「コマンダー」って、どれだけスゴイの?
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- 第38次/第39次長期滞在宇宙飛行士。左から若田飛行士(50)、ロシアのミハイル・チューリン飛行士(53)。元々RSCエネルギア社の技術者で今回が3回目の ISS長期滞在。右がNASAのリチャード・マストラ キオ飛行士(53)。元NASA職員で2010年に山崎直子飛行士と共に飛行。今回が4回目の宇宙飛行でISS長期滞在は初めて。(出典:NASA)
コマンダーとは一言で言えば「仲間の命を預かる」立場だ。ISSで緊急事態が発生した場合、地上と連絡をとりあいトラブルシュートの指揮をとる。だが地上と通信不能な場合もある。そんな時、コマンダーは自らの判断で指示を出す。例えばISSで火災が起こったり、デブリが衝突して空気漏れなど危機的な状況が起こった場合には、緊急帰還船に乗って「地球に帰るか否か」という究極の判断を任されるのだ。
そのため、コマンダーにはISSの隅々まで精通した知識、困難な状況でも柔軟に対処できる技量、経験、そしてベテラン宇宙飛行士たちから「命を預けられる」と全幅の信頼を得る人望が求められる。2013年10月までにISSではのべ38人のコマンダーが務めているが、米ロ以外は欧州1名、カナダ人1名でその他は米ロの宇宙飛行士。また軍出身者が7割強を占める。民間人出身で米ロ以外のコマンダーは、若田飛行士が初めてになる。
若田さんってどんな人?・・・小学生の頃から「一休さん」
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- 1992年4月、宇宙飛行士候補者に選ばれたとき。(出典:JAXA)
若田飛行士は埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれの50歳。宇宙飛行は4度目で日本人最多だ。宇宙滞在日数は159日10時間49分。今回、188日間の宇宙滞在を行うと合計347日間。1年近く宇宙に滞在することになる。
宇宙に興味を持ったのは5歳の頃。アポロ宇宙飛行士の月面着陸がきっかけだ。だが、当時は米国と旧ソ連の宇宙飛行士しか存在せず、宇宙は遠い世界に思えたという。夢中になったのは飛行機だ。若田飛行士は「夢より目標という言葉が好き」としばしば言う。少し高い目標を設定し、その目標を達成すると次の新しい目標が見えてくると。
飛行機という目標を追い大学で航空工学を学び、1989年に日本航空に入社。一つの目標を達成した数年後、「宇宙飛行士募集記事」を発見。新しい目標が見えてきた。1992年4月に宇宙飛行士候補者に選ばれると、日本人で初めてNASAの宇宙飛行士養成クラスに参加。その後は「日本人初」の快挙を次々に成し遂げていき、NASAや世界がその実力を認める「宇宙飛行士トップ」に上りつめる。
若田さんがスゴイと思うのは、どんなに偉くなっても変わらないこと。小学生の同級生も「全然変わらない」というほどだ。誰に対しても謙虚であり、楽しい時間を過ごせるよう真摯に向き合う。ちなみに、若田さんは小学生の時「一休さん」の劇で主役をつとめた。優しくて知恵がありみなを和ませる一休さんは「光ちゃんそのもの」と同級生女子はいう。
ISSコマンダーは何をするの?
仕事の割り振り、訓練計画立案、現場の指揮官
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- 2009年、ISS長期滞在時。「夕食は必ず一緒にとること」などのルールを決めるのもコマンダーの仕事。食事の時に仕事の会話だけでなく、冗談を言い合いリラックスするのもチームワークのためには重要だ。(提供:NASA)
コマンダーの仕事は宇宙に飛び立つ約2年半前の訓練時から始まる。メンバー一人一人の仕事の割り振りを決め、訓練計画を立てる。例えば今回、若田飛行士の部下はベテラン飛行士2人。NASAのリチャード・マストラキオ飛行士は3回の宇宙飛行経験者、ロシアのミハイル・チューリン飛行士はISS長期滞在3回目。彼らがやる気を維持し、その後のキャリアにもつながるように本人だけでなく、例えばNASA管理職とも話し合いを重ねて、仕事内容を決めていく。
若田飛行士がコマンダーを務めるのは長期滞在の後半、2014年3月11日からの予定だ。第39次長期滞在クルーのコマンダーとして次の第40次クルーも含めた6人のチームの指揮をとる。全体の司令塔として宇宙飛行士メンバーの体調や仕事の負荷を見ながらスケジュール調整を行う。仕事の負担が大きいと判断した場合には、メンバーが休日を取ったり、作業を減らすようにコマンダーが指示をする。
ミッションの見どころは?
「打ち上げ後、6時間でISSへ」
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- ソユーズ宇宙船の中は非常に狭い。打ち上げ後6時間でISSに到着するのは作業的には忙しいものの、宇宙飛行士達にとっては早く目的地に着くほうが歓迎だろう。(出典:JAXA/GCTC)
これまで日本人宇宙飛行士がISSへ向かうとき、ロケット発射からISS到着までは約二日間かかっていた。しかし2013年3月のソユーズ宇宙船打ち上げから、6時間でドッキング可能になった。若田飛行士は日本人で初めて6時間ドッキングを体験する。
発射台はバイコヌール宇宙基地の第一射点。1961年に人類初の宇宙飛行を行ったガガーリンが飛び立った発射台だ。ソユーズ宇宙船は狭い。ISSまで居心地の悪い狭い宇宙船内で長時間過ごす必要がなくなり負担が減る一方、打ち上げ後も気を抜く暇もなく作業が続く。二日間の飛行時は宇宙服を脱いで、仮眠をとる時間もあったが今回はくつろぐ時間もない。「トイレ休憩はあると思うが、食事の時間があるかどうか」とJAXA関係者。座席まわりは身体を少しのばすスペースを確保できるよう調整される。それにしても新幹線なら東京―熊本間を移動する時間でISSに着いてしまうとは驚きだ。
「たくさんの実験、次々と訪れる宇宙船」
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- 2012年、星出飛行士のISS滞在時、「きぼう」から超小型衛星を放出した。今回、若田飛行士も4機の超小型衛星を放出する予定だ。(出典:JAXA/NASA)
若田飛行士はコマンダーとして全体の指揮をとるだけでなく、実験やメンテナンスなどの多数の仕事を日々行う。日本の宇宙実験だけでなく米国や欧州の実験、また米民間宇宙船「ドラゴン」や「シグナス」も滞在中に打ち上げられる予定で、若田飛行士がロボットアームを操作して捕獲する可能性は高い。
日本の実験では、洗練された実験手法で継続され、医薬品として結実するのが待ち遠しいタンパク質結晶生成実験や、超小型衛星4機の宇宙放出など様々な実験を行うが、注目はメダカの実験。宇宙で骨が減るメカニズムを調べ、骨粗鬆症の治療薬の開発に役立てるもので、宇宙にある顕微鏡で若田飛行士が観察を行う予定だ。
また、11月下旬に太陽に接近するアイソン彗星をISSから4Kカメラで撮影する。国立天文台の渡部潤一教授は「地球で同じ場所からは24時間に1度しか観測できないが、ISSからは90分に一度という高い頻度で変化を観察できる。特に太陽再接近時は地上からは見えないので期待している」という。実験以外ではロボット宇宙飛行士KIROBOとの会話も楽しみだ。
11月20日、ISS建設開始から15周年目を迎える。これまで事故なく「ミニ地球」を世界が協力して運用し続けてきたのは快挙だ。更にアウトプットを出すための節目の時期、若田コマンダーの活躍に注目しよう!