2010年7月 vol.01
宇宙からつくば管制室に「寿司の出前」が!―HTV成功秘話
「Golden Shining Vehicle」金色に輝く美しい宇宙船、とNASAの飛行士が大喜びしたHTV。ISSから「止まっているように見えた」が時速2万8千キロの超高速で飛行中。(提供:NASA)
2009年9月11日に打ち上げられ、9月18日に国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに成功した日本のHTV(宇宙ステーション補給機)技術実証機。「NASAも成功させたことがない」無人宇宙船のランデブー・ドッキングに初号機で成功の快挙(ランデブーとは接近すること)。開発初期にはNASAから「HTVさえなければ安全なのに」とまで言われながら「負けてたまるか」と数万の課題をクリア。ドッキング成功後には、宇宙からお祝いのお寿司の出前が管制室に届いたという。7月8日に東京都内で行われたシンポジウムでHTV秘話が次々に飛び出した。
HTVは、日本が開発した無人の貨物船で、ISSに6トンもの大量の物資を運ぶことができる「宇宙への宅急便」。HTVの特徴は1気圧の空気が満たされ宇宙飛行士が中に入って作業ができる「与圧部」と空気が入っていない「非与圧部」があること。つまり、船内用・船外用の両方の物資を運ぶことができる。またISSとの出入り口が大きく大型の実験装置を出し入れできるのも、ロシアやヨーロッパの輸送船にない特徴だ。これらの特徴からスペースシャトルが引退した後は、HTVがISSの物資輸送の鍵を握ると期待されている。
だが、日本初の「有人対応の宇宙船」であるがために、NASAからは厳しい難題が次々と突きつけられた。ISSや宇宙飛行士に危害を加えないために、HTVの機器が複数故障した場合(AとBが半々ずつ故障した場合、Aが2割×Bが7割故障した場合)どうなるかなど、審査会の度に1000枚を超える指摘事項がNASAから送られてきたという。HTVのフライトディレクター、山中浩二さんは「大変な仕事を始めてしまった」と思いながらその一つ一つと格闘し、つぶしていった。
シンポジウムで紹介された「日本独自の宇宙ステーション」(イメージ)。HTVや「きぼう」の技術で実現できるのだとか。「足りないのはお金ぐらいです」と虎野プロマネ(右端)
そして本番。HTVは打ち上げ後、近傍通信システムでISSに接近していった。ISSの飛行士達は「金色の宇宙船がやってきた」とその美しさにはしゃいでいたという。時速2万8千キロで飛行するISSとぴったり速度を合わせて、ISSの下方から徐々に接近。レーザーを「きぼう」の反射板にあてて、自分の飛行位置がずれていないかを検知するという新技術で1秒間に1ミリもずれないという高い精度を実現した。
NASAの飛行士も高官も「止まっているようにしか見えない」「どんな手品を使ったんだ」と日本の高い技術を絶賛したという。そしてNASAのニコール・ストット飛行士がHTVをつかみ、ドッキングに成功。緊張で静まりかえっていた管制室が「ウォー」と音声がわれるほどの大歓声にわいた。10年間の努力が実った瞬間だ。ストット飛行士は優秀な女性飛行士だが山中管制官曰く「お茶目な人」で、成功のお祝いに、管制室に寿司の出前が届けられたという。粋ですねぇ。
シンポジウムでは、HTVプロジェクトマネージャーの虎野吉彦氏が、将来の夢として、HTV本体を利用した日本独自の宇宙ステーションや、国産有人ロケットを披露。HTVの2号機は2011年1月20日に予定されている。次回も成功して、夢の実現にはずみをつけてもらいたいものだ。