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読む宇宙旅行

2010年11月 vol.01

太陽がなくても生きられる?ー地下生物圏と宇宙生命

長沼毅(ながぬまたけし)さん。海洋研究開発機構などを経て、1994年から広島大学大学院生物圏科学研究科准教授。

長沼毅(ながぬまたけし)さん。海洋研究開発機構などを経て、1994年から広島大学大学院生物圏科学研究科准教授

 前回のコラムでは、星などの物質は宇宙全体の4%にすぎず、残りの96%は正体のよくわからないダークマター(暗黒物質)やダークエネルギーで占められているという話を書いた。そして今回は生物に関する「常識破り」のお話し。地球には光も届かず酸素もほとんどない海底に生きる生物が存在し、最近の研究では地下深くの生物量は地上・海洋の生物を合わせた量より10倍も多いことがわかってきたという。つまり、私たちの足元深くに豊かな「地下生物圏」が広がっているというのだ。そして宇宙の他の星にも同様の生物がいるかもしれない。

 10月上旬、広島大学準教授で「辺境生物学者」又は「科学界のインディージョーンズ」の異名を持つ長沼毅さんのお話を聞いた。彼は1961年4月12日、人類が初めて宇宙に飛び出した日に生まれ、自らも宇宙飛行士選抜試験を受けて準決勝まで残るものの、涙をのんだ(その時選ばれたのは野口飛行士)。その後、彼は幼稚園の滑り台で浮かんだ疑問「自分はどこから来てどこへ行くのか」を追求する旅に出る。海底、砂漠、極、地下、火山・・辺境の地に共通して見つかる生物にこそ、「生命の本質」があると考えるからだ。

低温海水が進入し高温になるまでの間に「地下生物圏」(図中黄色部分)があると考えられている

低温海水が進入し高温になるまでの間に「地下生物圏」(図中黄色部分)があると考えられている

 長沼さんが辺境生物に興味をもったのは高校生の頃。1977年にガラパゴス諸島沖の水深2700m、熱水が噴きだす海底で発見された生物、チューブワームがきっかけだった。チューブワームは口も消化器官もない動物で微生物と共生している。微生物に熱水中の硫黄を送ると酸化・燃焼してエネルギーを作る。そのエネルギーで二酸化炭素を原料に身体と栄養を作っているのだ。「暗黒の深海で光合成と同じことをして生きている」というわけだ。

 そして今、「本当に面白いのは、海底火山の下です」と彼は言う。海底から吹き出す400度近い熱水の中に微生物の細胞があった。生物が生きられる最高温度は122度と考えられているから、熱水噴出孔の下に「微生物の巣」があるはずだ。深海水の温度は通常2~3度。その深海水が海底深くにある熱い岩盤に接して400度近い熱水になるが、3度から400度の間に微生物に適した40度前後の温度帯があって、地球を取り囲んでいるはずだという。

 その後の掘削や研究の結果、地下生物圏は厚さ5kmで地球全体に広がっていて、陸上・海洋の微生物量3000億トンに対して、少なめに見積もっても3~5兆トンの微生物がいると考えられている。「そうなると地球は誰の星? ということになるよね」と長沼さんは笑う。太陽光を謳歌して生きる私たちが主流ではないのかもしれない。長沼さんが言うには生物誕生に必要なのは太陽光でなく「水」と「熱」。ならば他の星にもその条件を満たす場所がある。

しんかい6500はスペースシャトルの貨物室に搭載できる。実現できたらオモシロイ。エウロパの海にチューブワームを発見したりして!?

しんかい6500はスペースシャトルの貨物室に搭載できる。実現できたらオモシロイ。エウロパの海にチューブワームを発見したりして!?

 長沼さん一押しは火星の衛星イオと木星の衛星エウロパだ。イオは活発な火山活動を今も続けているし、エウロパには厚い氷の下に豊かな海がある。そして彼がユニークなのは「エウロパを海洋研究開発機構の有人潜水調査船『しんかい6500』で探査できる」と考え、スペースシャトルの貨物室に「しんかい6500」が搭載できることまで確認していることだ。問題はエウロパ表面を数km~数十kmで覆う厚い氷の層だが、現在南極でも氷の下約3700mに眠るボストーク湖に残り100mのところまで氷を掘り進んでいて、エウロパで氷を掘ることも「実現可能」という。もちろんジョークだけれど、大真面目にそんな絵を見せてくれるところがオモシロイ。

 幼稚園の時の問いの答えを求めて、今も旅を続ける長沼さん。日本国内でも地下500m~1000mに潜って生物を調べているし、この11月からは南極だという。長沼さんには申し訳ないけど、宇宙飛行士にならなかったおかげで私たちは「地下生物圏」という刺激的な世界を知ることができた。ぜひ、宇宙のどこにでも生きる生物「コスモポリタン」を発見して下さい。