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読む宇宙旅行

2013年10月10日

女性初の宇宙飛行から50年。女性飛行士の割合はなぜ増えない?-山崎直子宇宙飛行士に聞く(1)

宇宙に女性4人。山崎直子さんが2010年に宇宙飛行したときは女性の数が過去最多だった。(提供:NASA)

宇宙に女性4人。山崎直子さんが2010年に宇宙飛行したときは女性の数が過去最多だった。(提供:NASA)

 2013年は女性初の宇宙飛行士、旧ソ連のワレンチナ・テレシコワさんが宇宙飛行を行ってから50周年って知ってましたか?2013年10月までに宇宙に出た人間は530人以上。そのうち女性は1割強。今も、国際宇宙ステーション(ISS)には、長髪を漂わせた美しい女性飛行士、NASAのカレン・ナイバーグさんが長期滞在中だ。彼女は3歳の男の子の母でもあり、息子のために恐竜のぬいぐるみを手作りして話題になった。

 「子どもがいてISSに長期滞在する女性宇宙飛行士は珍しくありません」というのは、山崎直子宇宙飛行士だ。宇宙での仕事や訓練自体に男女差はまったくなく、科学者か技術者か、というように個性の一つにすぎないという。「もちろん、船外活動には腕力や握力が要求されるなど体力的なハンディがありますが、女性にも船外活動の名手はいる。 男性と異なるのは妊娠、出産があること。妊娠中はできない訓練があるし、健康状態は『不適合』とされて飛行の任命はされません。ただ、出産後は早く復帰する人が多いですね」(山崎さん)

 いつ産むか、出産後も子どもが熱を出したとき、誰が駆け付けるかはワーキングマザーなら誰でも直面する問題だ。特に宇宙飛行士の場合、フライトがまだ決まらず任命を待つ身なら「妊娠はハンディ」と考えてしまいがち。だから一回目の飛行をして実績を作ってから産む選択をする人もいるし、妊娠の必要のない養子をもらう決断をする人もいた。

 ナイバーグ飛行士の場合は「実績型」だ。2008年に星出飛行士と一緒にスペースシャトルで宇宙飛行を行った。帰還後、宇宙飛行士と結婚し出産。その後、訓練に復帰し、前回の飛行からわずか5年で現場の宇宙にカムバックした。 ちなみにNASA内には保育園があるが、人気が高く入園待ちのウェイティングリストがあるという。(山崎さんは待ち時間1年以上と言われ、別の保育園を探したそう)。保育園に入れても訓練時間は不規則で出張も多いため、ベビーシッターを雇うなどして乗り切っているという。訓練は米ロが中心になるため、それ以外の外国人飛行士は大変だ。だがあるカナダ人女性飛行士は家でフランス語を話させるため、カナダ人女学生に住み込みで子どもの世話をしてもらっていたほど、教育にも妥協しない。

 山崎さんも家族の協力を得て2010年に宇宙に飛び立った。宇宙では4人の女性が滞在し、史上最多であり「女性の黄金期」と言える。「さすがに賑やかで、着替えるときも『はい、男子は向こうに行って!』と女性が市民権を得た(笑)」そうだ。

2013年5月からISSに滞在しているカレン・ナイバーグ飛行士は3歳の息子のママ。これは出発前の一コマ。(提供:NASA)

2013年5月からISSに滞在しているカレン・ナイバーグ飛行士は3歳の息子のママ。これは出発前の一コマ。(提供:NASA)

 仕事に男女差はない。それなのに女性宇宙飛行士の割合があまり増えないのはなぜだろう。「応募者が少ないですね。日本だと応募の段階で男女比が9対1。応募時の割合がそのまま実際の宇宙飛行士の男女比に反映されている。現在、日本では宇宙飛行士の応募条件に大学で理科系の学部卒とあるため、理系に進む女性が少ないことが背景にあるのでは。女性は宇宙の仕事に適性があって貢献できる人がたくさんいると思います」(山崎さん)

 NASAは女性が管理職やコマンダーも務め活躍している一方、女性が少ないのがロシアと欧州だ。古川飛行士と共に宇宙へ言ったロシアのセルゲイ・ヴォルコフ飛行士が、2011年来日時の講演会で学生から「なぜ女性宇宙飛行士が少ないのか?」と聞かれ、こう答えていた。「ロシアでは文化的に女性には仕事と同時に家庭を守ることに重きがおかれてきました。また、宇宙飛行士の仕事をするときは女性らしさを排除しなければならないという側面があることも一因かもしれません。しかしぜひ女性が活躍することを期待しています」と。

 ロシアでは実際、テレシコワさんの飛行後、次の女性の宇宙飛行士が飛ぶまで19年待たなければならなかった。サビツカヤ飛行士は1982年に宇宙飛行、84年の飛行時は船外活動を行った。3人目は94年~95年、エレーナ・コンダコワ飛行士が宇宙ステーション・ミールに長期滞在。97年にはスペースシャトルにも搭乗している。2013年までにロシア人女性が飛行したのはたった3人という少なさだ。山崎飛行士がロシアで訓練を行っていた2004年頃、ロシア人の女性飛行士ナジュエスダさんが訓練中だったが、宇宙飛行に任命されることなく、転職したという。

 だが変化の兆しは見える。ロシアは2014年、約20年ぶりに女性飛行士エレナ・セロワさんが長期滞在を行う。またイタリア人初の女性宇宙飛行士も同年、ISSに向かう。さらにNASAは2013年に新宇宙飛行士を8人選んだが、その半数である4人は女性だ。彼女たちの活躍に注目したい。

 一方、山崎直子さんは宇宙飛行後、次に自分が宇宙に行ける可能性と時期、民間でも宇宙旅行が始まろうとする状況を見て「新しい可能性にかけようと」JAXAを退職、次女を出産した。現在は内閣府の宇宙政策委員の仕事に多くの時間を割きながら、全国を講演で飛び回り、2つの大学の客員教授を務め、多忙ながら新しい出会いを楽しむ。しかし、当面は泊まりがけの出張はしない。ママの帰りを長女(小五)が寝ずに待っているからだ。「宇宙に行きたい人が行けるように、間口を広げたい」という山崎さんにじっくり伺ったお話は、次回以降紹介しますのでお楽しみに。