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読む宇宙旅行

2013年11月20日

「コマンダー」若田に続け。チーム日本の戦略と実行が試される時

 2013年11月5~7日、バイコヌール宇宙基地で若田飛行士打ち上げを取材した。打ち上げ取材はアメリカや日本を含めると、これが9回目になる。なぜこんなに発射現場に惹かれるのか?リフトオフの「一点」に向かって技術や知恵を集結させていく、人間の極限の力の凄まじさを、これほど肌で感じられる体験は他にないからではないか、と思っている。

 帰国した今、改めて感じたことがいくつかある。

●「大化け」した若田さんとロシアの実力

打ち上げ約3時間前の宣誓式で。緊張感の中にも余裕を見せる若田飛行士。

打ち上げ約3時間前の宣誓式で。緊張感の中にも余裕を見せる若田飛行士。

 まずは若田さんコマンダーへの「大化け」の瞬間だ。打ち上げ当日、発射を約3時間後に控えて、家族と最後に会話をする部屋に通してもらったとき。これから宇宙に向かう人とは思えないほど、表情が「柔らかい」ことに驚いた。リラックスとは違う。最後に地上でかわすこの時間を「愛おしむ」ような、そんな気持ちが伝わってきた。

 それが数分後、「宣誓式」に向かうと表情が一変する。並んで歩く3人の飛行士の中で誰よりも引き締まった表情で、「緊張感」とやる気をみなぎらせる。緊張と弛緩。その切り替えの見事さ。そして最後まで「頑張ります」とお辞儀をしていたのが印象的だった。

 次に感じたのが「ロシア宇宙開発の底力」。こんなに間近にロケットを見られる場所が地球上で他にあるだろうか。工場から発射台に向かうときのロールアウトは、ほんの数mの場所で見られる。(過去には日本の記者で機体に触った人もいたとか)。打ち上げを見る場所も発射台からわずか1km。そして発射から6時間後には宇宙に着いてしまう。

 JAXA長谷川義幸理事は「6時間でISSにドッキングできる技術を持っているのは世界でロシアだけ。打ち上げ後、宇宙飛行士はチェック事項が膨大になり作業も大変なので当初NASAは反対していた。疲れて何か起こると困ると。でも無人貨物船で3回の試験飛行を重ね、宇宙飛行士の睡眠シフトを調整することで対応可能と判断、2013年3月の有人飛行から実現した。 部品の信頼度が非常に高いし、過去の不具合やトラブル回避の経験や技術を全部投入しているからできること。ロシアの信頼度の高さを改めて認識すると共に、日本の技術もあげていかないと、世界の中で伍していけないと感じた」と打ち上げ後に語った。

●「コマンダー」若田を次にどうつなげる?

若田飛行士が打ち上げ前に植樹した木。コスモノートホテルの宇宙飛行士並木にある。一般客の打ち上げ見学ツアーを率いた、菊地涼子さん提供。

若田飛行士が打ち上げ前に植樹した木。コスモノートホテルの宇宙飛行士並木にある。一般客の打ち上げ見学ツアーを率いた、菊地涼子さん提供。

 長谷川理事は「きぼう」の開発に長年取り組んできて「日本人がコマンダーになるなんて20年前は考えられなかった」と言う。「きぼう」日本実験棟の安定した運用や貨物便「こうのとり」の4回の定時運行の実績があると共に、日本人宇宙飛行士の活躍が評価されて、ようやくこの時を迎えたと。技術も人も育ち、「宇宙先進国」の仲間入りをしたと胸をはる。

 「若田飛行士への期待はNASA、ロシアともに高く、第二第三のコマンダーを日本から出すためにも彼の活躍が大事な分かれ目になる」という。しかし、若田飛行士一人だけでなく、チームとしての取り組みが必要なのは言うまでもない。

 船長の任命には宇宙飛行士個人の能力や技量が高いことは必須だが、「それだけで船長の椅子がとれるほど甘くない」とJAXA宇宙飛行士グループ長の野口飛行士も言っていた。日本人に船長をさせることがISS参加国にとってメリットがあると納得してもらう必要があると。まず「きぼう」「こうのとり」を日本はもちろん、世界各国に利用しつくしてもらうこと、日本の技術は優れ、他国にないメリットがあると納得してもらうこと。

 ISSに対して日本国内では今、費用に対して利用の成果が見えにくいという議論がある。様々な分野で成果をあげること、その過程を含めて発信することがいっそう求められる。同時にISSに求められる点についてJAXA奥村直樹理事長は「ISS運用は国際協力のシンボルと思っている。技術面、人的交流、政治も含めて国際交流の象徴。何らかの形でこの先も継続していくことが望ましいのではないか」とドッキング後に語った。

「国民の宇宙への夢を技術で実現したい」と語るJAXA奥村直樹理事長

「国民の宇宙への夢を技術で実現したい」と語るJAXA奥村直樹理事長

 有人宇宙開発についての国際的な議論は、もはやISS後を見据えている。来年1月には初の閣僚級会議「国際宇宙探査フォーラム」がワシントンDCで開かれる。その会議に向けての戦略を問うと長谷川理事は「国際的にISSでの日本の貢献がまだまだ認知されていない。『きぼう』には船内と船外の実験室があり、ロボットアームを持つことで船外活動なしに安全に船外の実験ができる。将来の宇宙探査に備えての試験を行うテストベッドとして使えることをアピールしたい。そしてぜひ、将来の国際宇宙探査でも日本をキーパートナーとして入れないとダメだ、と思ってもらえるようにしていきたい」と語った。

 これからの約半年間の滞在中、若田飛行士は「日本人初のコマンダー」の期待を受けて、頑張りすぎるほど頑張るに違いない。日本チームは戦略を練り、総力をあげて、その頑張りを次につなげてほしい。

 奥村理事長はドッキング成功後に「JAXAは、国民が持つ宇宙への夢を着実に実現する組織として期待されている。国民の夢とは行ったことのない遠い世界や見たことのない世界、つまり『未知への憧れに対して持つ夢』と理解している。その夢を実現するには技術力があってこそ。技術を使い宇宙を理解し身近なものにしていきたい」と言及している。その実行を期待する。