1キロ=120万ドル。
ハクトを月に届ける「月への運び屋」って?
12月のコラムで紹介した、民間月面レースに参戦する日本唯一のチームHAKUTO(ハクト)の打ち上げ時期が決まった!離陸は2016年後半。いよいよ月へ発進する。楽しみだ。しかし月は約38万km彼方にあり、ローバーだけではたどりつけない。では、どうやって?
「私達は『月へのデリバリーサービス』を行います。月面版DHLやFedEx(国際宅配便)のようなものです」とハクト打ち上げ会見でユニークな表現をしたのが、米アストロボティック・テクノロジー社のCEOジョン・ソーントン氏。「月への運び屋」ってこと?
具体的に月にハクトのような荷物を運ぶには、まず地上からのロケットが必要だ。さらにロケットから月遷移軌道で切り離された後、月に向かい、月面に荷物を下ろす「運び屋=着陸船」が必要なのだ。
米ベンチャーアストロボテイック・テクノロジー社(以下アストロボティック社)は月への運送を請け負い、ロケットを調達して月に届ける。今回はスペースX社のロケット「ファルコン9」を調達した。そして月に着陸する着陸船(ランダー)はアストロボティック社が開発中のグリフィン。グリフィンはハクトだけでなく、たくさんの荷物を運ぶ。その中には、大塚製薬のポカリ缶もあれば、ハクトの強敵ローバー、「アンディ」(アストロボティック社が開発)、さらに、世界初の試みとして個人の記念品も運ぶ予定だという。
同社のウェブサイトのトップページには「BUY SPACE(宇宙を買いましょう)─1キロ120万ドル」と大きく書かれている。「荷物」には科学機器や人工衛星、月面車、データ、ブランドプロモーション、研究開発、アートや教育目的など、なんでもあり。「目的地」は月への軌道、月周回軌道、月着陸、月面ローバー上と様々なメニューが用意されている。
ソーントン氏とは、実は昨年のポカリ缶の会見でも会った。今回も挨拶すると「また会ったね!」と気さくに話してくれる「お兄ちゃんぽさ」がベンチャーCEOならでは。しかし、なかなかのやり手だ。同社はカーネギーメロン大学の著名なロボット博士が2008年に起こしたロボットベンチャーで、NASAと17もの契約を結んでいる。そのうちの一つが、月に荷物を軟着陸させるための技術開発(LUNAR CATALYST)で、NASAの着陸や宇宙船の専門家が技術支援をしているという。社員は20名+大学生と教員で50名、NASAから5~30名が関わり、「全部集めると大きなチームだよ」とソーントン氏。
着陸船グリフィンの特徴は、ステレオカメラとレーザーを使って安全な着陸地点を探してソフトに着陸する自動着陸システム。高い高度ではカメラで地形を見て、搭載している地図と照合し自分の位置を知る。高度約200mからはレーザーを使い、着陸地点に岩などの障害物があれば検知して避け、平らな場所に着陸する。米国のモハベ砂漠で250mほどの高さに実験機を上げ着地する実験を既に3回行ったそうだ。着陸の精度は約100メートル。現在は推進システムの試験を行っている。「着陸機は大きくて複雑な技術がいっぱいあるから開発に時間がかかる」そうだ。
同社はハクトも受賞したグーグルルナXプライズの中間賞を3部門で受賞した優良チーム。つまり、ハクトとアンディ、優勝候補2つが手を組んだからには月面レースの優勝は確実ではないだろうか?どちらかが優勝した場合、賞金は二チームで分け合うとのこと。さらに「他のチームからもコンタクトが来ている。レースに参加する約半分のチームは一緒に行くことになるかも」とソーントン氏はほくそ笑む。
「じゃあ、レースはどうやってやるの?」とたずねると、「まずは我々のローバー、アンディが月面におりて、着陸船の周りをぐるりと一回りして安全性を確認して動画を撮る。それから他のローバーがおりて、一列に並んでスタートだよ」。レースの様子は地上から見られるから、「月面のF1レースのようなもの」と嬉しそう。
「ぼくたちは月へのアクセスのしやすさを提供したい。フライトが増えれば月はオープンになって、新しい大陸になる」。月にあなたは何を運びますか?