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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.105

半影月食に挑戦してみよう

3月9日の日食は悲喜こもごもだった。日本では北海道は比較的天候が良かったが、他の地域では太陽の姿さえ拝めないところも多く、残念な結果だった。皆既日食を見にいった方々も同様である。インドネシアの同じ島でも場所によって雲が邪魔をして見えなかったグループもあれば、快晴に恵まれたところもあった。筆者が訪れたカリマンタン島でも、皆既日食が最も長く見られる皆既帯の中心付近をめざして、やや南下したグループは、皆既日食前に曇られてしまった。筆者は皆既帯の北側に近い、海岸沿いのバリクパパンというところに滞在しており、皆既食は短いが移動が大変だったので、そのまま町にとどまった。そこでは皆既食が始まる前から、ほぼ快晴となって美しい皆既日食とダイヤモンドリングを眺めることができたのは幸いだった。

この皆既日食を起こした月が、約半月後あるいは半月前は月食を起こす。月と地球が直線上に並ぶタイミングは年に2回の割合で、その前後には日食と月食が連続することが多いのである。今回も、その例に漏れず、半月後の23日には月食が起こる。ただし、条件が悪い半影月食と呼ばれる現象である。

宇宙空間における地球の影のうち、本当に太陽そのものがすっぽりと地球に隠される影を本影と呼び、太陽が部分日食に見えるような影を半影と呼ぶ。月が本影にすっぽり入り込むと皆既月食となり、本影に一部分でも入り込む場合は部分月食となる。ところが、月が本影には全く入り込まず、しかし、その外側に広がる半影に入り込む場合を半影月食と呼ぶ。当然ながら半影月食では、強烈な太陽の光が月面に差しているので、肉眼ではなかなか月食が起こっているのを認識できないのだが、写真に撮影すると月の明るさにグラデュエーションができているのがわかる。当然だが、本影に近い方が暗くなっている。

月食のしくみ(提供:国立天文台)

今回の半影月食が起こるのは3月23日の宵である。半影月食の開始は18時37分で、まだまだ月は地平線に近いので観察はしにくいだろう。食の最大は20時47分、終了が22時57分となり、この時間帯になるとかなり地平線から上っているはずで、観察しやすくなるはずだ。月面の明るさの変化、特にグラデュエーションに注意して観察してみたい。拡大して写真撮影するのがベストだが、双眼鏡でもわかるかもしれない。

実は、今年は同じ半影月食が8月18日、および9月17日の三回ある珍しい年である。条件としては、8月18日の半影月食は、月の縁がごくわずかに半影にかかるだけなので、写真撮影してもわからないだろう。9月の半影月食は今回よりも条件はよく、月は本影に近づくのだが、いかんせん明け方になるので観察しにくい。その意味では、この3月23日の半影月食は観察しやすいものといえる。なんとか晴れて欲しいものである。