Vol.148
ボイジャー2号、星間空間を探索
人工の飛行物体として、最遠の距離を飛行しているのがボイジャー1号、そして2号である。1号は現在、太陽からの距離は147天文単位、2号は122天文単位。kmにすれば100億kmのオーダーである。
この距離になると、すでに太陽の勢力範囲を超えている。太陽風は、遠くに行くほど弱くなり、途中のどこかで星間空間を吹き荒れる風(星間風)とせめぎ合うことになる。どちらの風が強いかで、その場所が太陽風の勢力範囲か、星間風の勢力範囲かが決まるのである。ちなみに太陽風の勢力範囲を「太陽圏(ヘリオスフィア)」と呼ぶ。ボイジャー2号は、2018年11月に、このせめぎ合い地点を超えて、太陽圏を脱出し、星間風が吹き荒れる恒星間空間に到達した。ボイジャー2号は、その意味で星間空間に到達した人類史上、2番目の探査機となった。
一年後、それらの観測データの解析結果がまとめて発表された。太陽圏内のプラズマの温度の方が星間空間のプラズマよりも高いことや、太陽圏のすぐ外側での星間空間のプラズマ密度は、太陽圏のプラズマより高いことが示された。太陽圏の内部の方が高温で低密度、星間空間の方が低温で高密度のプラズマで満たされていることになる。さらに粒子計測器では、太陽圏内の粒子が星間空間へ漏れ出していることが示された。当然だが、太陽圏も太陽と一緒に宇宙空間を動いており、前方は潰され、後方は開いた形になる。いってみれば彗星のような形状だ。ボイジャー1号は進行方向で太陽圏を突っ切ったが、2号の方は進行方向に対して側方に突っ切っている。そのため、2号の場所では太陽風の粒子が太陽圏を脱出して星間空間に漏れやすいようだ。
さらに、ボイジャー1号と2号では異なる距離の場所、そして異なる時期に太陽圏を脱出している。これによって境界線の場所は、太陽活動によって変化することも示唆された。太陽活動が強く、太陽風が強い場合は太陽圏は広がり、逆に太陽活動が静かな場合には、太陽圏は縮むのである。太陽活動によって地球の気候が変化するのは、実はこのような太陽圏の膨張収縮が関連しているとも言われている。その意味で、今回の観測は、実際の太陽圏の変化を示唆しており、大変重要である。また、太陽風は磁場を伴って遠ざかるのだが、太陽圏と星間空間の境界(ヘリオポーズとも呼ぶ)を越えたところでは、星間空間の磁場の向きが太陽圏内の磁場の向きと平行であることも示されている。これはボイジャー1号の場所でも同様だった。こうした星間空間と太陽圏との相互作用については解明されていないことも多く、今後の研究に期待したいところである。
ところで、今回もそうだったが一部では「太陽系を脱出した」という表現が使われた例がある。天文学の世界では、太陽の重力が卓越する場所までが太陽系と考えるので、実際にはオールトの雲の付近、1万天文単位の範囲が太陽系と考える。一方、プラズマ研究者の場合は、重力では無く、太陽圏までが太陽系と考える節がある。その意味で「太陽系の果て」は定義されていないのである。