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星空の散歩道

2010年5月14日 vol.54

注目の金星、三日月に大接近

 西の空に、ひときわ明るく輝く星に気づいている人も多いだろう。宵の明星、金星である。今年1月、地球から見て太陽の向こう側を回り込む外合を経て、明け方の東の空から夕方の西空へと姿を現しはじめた。その後、次第に太陽から離れ、西の夕空に輝いて見えるようになった。8月には東方最大離角、つまり太陽から東側に最も離れた位置となるのだが、今回はむしろ今頃の方が、地平線からの高度が大きいので見やすい。金星のマイナス4等の輝きは、他の天体を圧倒するほどなので、晴れてさえいれば、都会の真ん中でも気づくに違いない。

参考:5月16日午後8時の西の空に輝く月と金星。(ステラナビゲーターVer.8/アストロアーツで作成しました)

参考:5月16日午後8時の西の空に輝く月と金星。(ステラナビゲーターVer.8/アストロアーツで作成しました)

 この金星に関する大きなイベントが、立て続けにある。その一つが、16日の日曜日夕刻に起きる月との大接近である。月齢2.4という、非常に細い三日月が、金星のそばを通過するのだ。最接近時刻は午後8時30分頃で、月の大きさの半分ほどの距離にまで大接近する。これだけ接近するのはなかなか珍しい。

 実は、日本では接近するだけだが、東南アジアでは月が金星を隠してしまう、金星食となる。金星食は、日本でも1989年12月の夕刻の空で見ることができた。金星の明るさ、三日月の美しさ、それに夕暮れの空のほのかな茜色の妙が組み合わせで、とても素晴らしい星景色となった。20世紀最後と言うこともあって、多くの人が眺めた。今回は、日本では、金星食とはならないが、接近したときの美しさは変わることはない。どちらも明るい天体なので、都会でも楽しめる。日没後しばらくしてから月が沈むまでの1時間から1時間半ほどの間、夕焼けをバックに美しい天体ショーが見られるはずだ。日曜の夕方なので、ぜひ家族や友人を誘って、皆さんで眺めてほしい、今年最大の天体ショーのひとつである。

参考:月と金星のクローズアップ。(ステラナビゲーターVer.8/アストロアーツで作成しました)

参考:月と金星のクローズアップ。(ステラナビゲーターVer.8/アストロアーツで作成しました)

 ちなみに日本で見られる次回の金星食は、2012年8月14日。明け方の東の空に輝く明けの明星を細い月が隠してしまう。この時には、隠れた金星が、また現れる様子が観察できるはずである。ちょうど、逆三日月形になった月の影の、ほぼ真ん中から金星が現れるので、まるでトルコやパキスタンの国旗のような姿が見られるに違いない。今回は、金星は月の上端に見えるので、月と星をかたどったペンダントのような位置関係となる。

 もうひとつのイベントが、その2日後、18日午前6時44分に予定されている、金星探査機「あかつき」の打ち上げである。「あかつき」は、H-IIAロケット17号機で、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」とともに打ち上げられる予定となっている。「あかつき」のコードネームはPLANET-C。彗星探査機「すいせい」(PLANET-A)、火星探査機「のぞみ」(PLANET-B)に続く惑星探査機で、金星の大気の謎の解明を目的にしている。

 金星は「地球の兄弟星」といわれるほど、地球に大きさが似ている。しかし、金星の大気は、高温の二酸化炭素に包まれており、また猛毒の硫酸の雲が浮かんでいる。どうして、地球と同じような大きさの惑星なのに、これほど環境が異なってしまったのか、よくわかっていない。また、金星表面には毎秒100mという猛スピードの暴風が吹く「スーパーローテーション」と呼ばれる現象が知られている。自転速度の60倍にも及ぶ風が発生する原因は、まだ気象学的にも解明され ておらず、金星最大の謎である。

 「あかつき」は、金星の周囲をめぐる軌道に投入され、謎に満ちた金星の気象現象や表面を探査する予定となっている。なんといっても、その軌道が面白い。金星に距離約300kmにまで接近するかと思えば、遠いところでは8万kmにまで離れてしまう。どうしてそんな細長い楕円軌道を描くかといえば、接近した時には細かなクローズアップ観測を、遠ざかった時には金星全体の観測を行うからだ。前者では、雲の下の大気や表面の様子を赤外線で観測する予定だ。雷の放電現象や、火山活動の有無がわかるかもしれない。期待される「あかつき」の打ち上げ成功を、宵の明星に祈ろうではないか。