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星空の散歩道

2013年11月14日 vol.77

アイソン彗星に期待しよう

65cm反射望遠鏡「絆 KIZUNA」で1分露出(提供:星の村天文台)

11月1日(下)と18日(上)を比べると、アイソン彗星が大きくなっているのがわかる。65cm反射望遠鏡「絆 KIZUNA」で1分露出(提供:星の村天文台)

 いよいよ近づいてきた。今年最大の天体ショーの主役、アイソン彗星である。11月半ばには金星軌道を横切り、太陽に向かって猛ダッシュをつづけている。11月の上旬の段階で、すでに明るさは8等となり、その姿は日に日に彗星らしくなりつつある。夜空の条件がよいとこころでは、口径10cmクラスの望遠鏡でも見え始めているようだ。

 10月はじめの段階、まだ火星の軌道を横切ったばかりの頃は、かなり淡く暗かった。筆者も福島県田村市で開催された星祭り、スターライト・フェスティバルに参加して、星の村天文台にある口径65cmという大型の天体望遠鏡「絆」でアイソン彗星を眺めた。しかし、まだそれほどの大口径でも、とらえどころが無いほど淡く、ほのかな姿であった。冬の天の川が見えるような美しい夜空のもとで、これだけ淡い姿に、ずいぶん不安になったものだ。だが、その不安を払拭するように、現在はずいぶん大きく成長している。

 もともとアイソン彗星を含めて、彗星の主成分は水が凍った雪や氷である。太陽に近づけば近づくほど、その熱によって、水が水蒸気となって融け出す量が増えていく。火星軌道のあたりでは、まだ温度が低く、氷はそれほど融けないのだが、地球の軌道を横切る頃に氷の蒸発は盛んになり始める。そして太陽に近づくほどに蒸発量が増え、それに従って水だけでなく塵や他のガスも放出量が増える。10月の段階で、まだまだ暗かったのは、それを考えれば納得なのである。

 水の蒸発が増えれば、氷に含まれる微量なガスなどの放出量も増える。それらのガスが彗星本体である核の回りで光るようになる。特に11月上旬頃に撮影されたアイソン彗星の頭部が鮮やかな緑色に包まれているのは、ガスの成分のうち、炭素原子がふたつ結合したC2という分子がたくさん存在している証拠である。このC2という分子は宇宙空間でも電気を帯びにくく、太陽から吹き付ける電気的な風である太陽風に流されることがない。一方、ガスの中にはすぐに宇宙空間で電気を帯びてしまうものもある。一酸化炭素(CO)は、電子を失ってプラスの電気を帯びて、CO+というイオンになってしまうのだ。すると、太陽風に吹き流されて、反太陽側に流れるような尾を作る。一酸化炭素は青く光るので、青い尾となる。これがガスの尾(イオンの尾)である。一方、水の蒸発とともに吹き出してくる塵も、その蒸発量に比例して増えていく。すると、太陽の光の圧力を受けて、ゆっくりと反太陽方向にたなびく。それらが太陽の光を反射して輝くのが塵の尾(ダストの尾)である。大彗星の尾は、ガスの尾と塵の尾とのふたつに別れて見えることが多い。この原稿執筆段階では、アイソン彗星の尾も、かすかにどちらの尾も成長しつつあるようだ。

 さて、このまま明るさが増していくとすると、アイソン彗星は太陽に最も接近する11月29日には、マイナス6等になる見込みである。発見当初は、マイナス13等になって、満月よりも明るくなるかも知れない、と言われていた。しかし、春から秋口まで予想通りの明るさの上昇を見せなかったため、その予想は大きく下方修正されている。それでも、マイナス6等というのは相当なものだ。なにしろ太陽への接近距離は半端ではない。その表面から約120万kmという至近距離を通過する予定だ。アイソン彗星は典型的な「太陽をかすめる彗星」なのである。

 太陽をかすめる彗星は、最接近時に強烈な太陽光にさらされるので、蒸発量も半端ではない。実際、これまで出現した太陽をかすめる彗星、たとえば1965年に出現した池谷・関彗星や、2011年のラブジョイ彗星では、どちらも太陽に接近した後、遠ざかるときに長い尾を伸ばしている。特にラブジョイ彗星は、アイソン彗星よりもずいぶんと小さい彗星だった。にもかかわらず、国際宇宙ステーションなどから長い尾が撮影されている事を考えれば、アイソン彗星で同じような尾が見えない道理はない。

 ただ、不確定要素は常にある。たとえば、上記のどちらの彗星も、太陽に接近した前後に、本体である核が分裂していることだ。核が分裂すれば、それまで太陽熱を直接浴びることがなかった核内部が露出し、一次的に膨大な量のガスや塵が放出される。太陽熱を受ける表面積も増えるために、分裂しないときよりも明るく、尾も長くなったと考えられる。アイソン彗星が、全く同じような経過を辿るとは限らない。そういった不確定要素は、実際にアイソン彗星が太陽に接近するまで、払拭することはできない。逆に言えば、実際に太陽に近づいてみないと、彗星の明るさや尾の長さは正確な予想ができないといえる。そして、そのできないところこそが、また天文現象の面白いところといえるだろう。

 アイソン彗星の見頃は12月上旬から中旬である。ぜひご自身の目で、アイソン彗星がどんな姿になっているのか、そしてどんなふうに姿を変えていくのかを確かめて欲しい。