2014年8月19日 vol.86
宵の南西の空で火星と土星が接近
夏も終わりに近づくと、夏の星たちも次第に西に傾いていく。先頭をきって地平線に沈もうとする夏の星座が、さそり座である。南の地平線に近い星座なので、沈むのも早い。今年は、それに先行して、ふたつの明るい星も沈んでいく。てんびん座に輝く、土星と火星である。てんびん座そのものは明るい星がないので、目立たないが、今年は惑星のせいで賑やかになっている。
どちらの惑星も衝(太陽と反対側の真夜中の方向に位置する時期)を過ぎ、日々、ほんの少しずつ東へと動いている。ちなみに惑星が東に動くのを順行と呼ぶが、どちらの惑星も、いまは順行している。ただ、火星の動きは速く、まるで日々西に沈もうとする、いわゆる年周運動に逆らっているように見える。一方の土星は遠い惑星だけあって、動きが遅く、てんびん座の中だけでじわじわと東に動くだけである。
そんな土星に対して、火星は西から接近していく。火星がおとめ座からてんびん座に入り込むのは8月10日頃。その後、日に日に土星に近づき、23日~24日の週末には、ほぼ地平線に対して縦に並んで輝く。上が土星、下が火星である。最接近は25日となり、その前後であれば、低倍率の双眼鏡などでは同じ視野にふたつの惑星を捉えることができる。その後、火星は土星を追い越して、さらに東へ向かって動いていく。その途中、31日には太くなりつつある月も近づき、火星、土星、月の競演となる(下記図参照)。月齢が6ほどなので上弦の月の前、やや太い三日月型の月が彩りを添える。月はあっという間に東へ離れていくが、火星も9月には、さそり座に入り込み、9月末には一等星アンタレスと並ぶ位置までやってくる。
8月31日午後7時30分の南西の空(東京)。傾きかけたさそり座の左側に火星、土星、そして月が揃って輝く。
(アストロアーツ・ステラナビゲータで作成)
これらの宵の南西の空で繰り広げられる競演の見所はなんといっても、その色であろう。8月末の土星と火星の接近時には、両者の色の違いに注目して欲しい。やや黄色みがかって輝く土星と、赤く輝く火星との色の対比が美しいはずだ。また、9月末になると、もともと赤いアンタレスと火星とが、その赤さを競うことになる。この時期、火星はずいぶんと地球から遠ざかるとはいえ、まだ0.8等の明るさを保っている。これは、ほぼアンタレスと同じ明るさである。通常、大接近を起こす頃の火星は、ものすごく地球に近くなるので、きわめて明るくなる。そうなるとどうしても明るい方の色が目立ってしまう。星の色の赤さを比較するには天文学的な数値で比較するが、見た目には明るさの方にだまされやすい。火星が見た目に赤く見えるのは、火星そのものが明るいための”錯覚”である事が多いのである。(vol.1「赤い星達の競演:火星とアルデバランとベテルギウスと」参照)したがって、ほぼ同じ明るさで比較するのが、対等の勝負となって、どちらが赤いか、よくわかるはずだ。
夏の終わりに繰り広げられる日没後の南西の地平線での火星、土星、そしてアンタレスの競演。色に注目しながら、日々、その位置関係を変えていく様子を眺めてみて欲しい。