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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.94

織姫星から降り注ぐ流星群を眺めよう

2015年4月4日の皆既月食は、全国的に天候に恵まれなかったところが多かったようで残念だった。国立天文台の三鷹でも、各種の中継などの準備を進めていたのだが、厚い雲は切れることなく、最後まで月の姿を眺められないうちに終わってしまった。それでもインターネット中継を眺め、晴れている東北からの映像を眺めながら、みんなで盛り上がることはできた。実に便利な時代になったものだ。

さて、4月には毎年のように起こる天文現象がもうひとつある。4月こと座流星群である。いわゆる三大流星群ほどは派手に出現しない流星群なので、その知名度はかなり低いものの、天文ファンの中では有名な部類かもしれない。流星ファンにとっては、1月上旬のしぶんぎ座流星群から、この4月こと座流星群までの期間、目立った流星群がないこともあり、待ち遠しい気持ちが先に立って、ついつい見に行ってしまう流星群である。ちょうど放射点(属する流星が、放射状に飛び出すように見える天球上の一点)が、こと座の一等星ベガ(織姫星)の近くにあるので、わかりやすい流星群といえるだろう。活動期間は4月後半で、極大日は4月22日から23日である。今年は4月23日の午前9時頃が極大とされているので、23日の明け方にもっとも多くの流星が出現すると思われる。

2015年4月23日午前1時の東の空(東京)。(アストロアーツ社ステラナビゲータで作成)

この時期には、月は三日月を過ぎたばかりで、深夜には沈んでしまうために、月明かりの影響はなく、こと座が高く上る深夜過ぎには絶好の観測条件となる。ただ、その数は三大流星群ほどは期待できない。条件が良いところでも、一時間に10個を数えられれば、良い方だろう。

この流星群は、しばしば突発的に流星数が増えるという特徴がある。いってみればかなり気まぐれな部類に属する。これまで何度か突然、たくさんの流星を降らせたことがあり、その最初の記録は1803年と言われている。この時には一時間に700個もの流星が出現したらしい。その次の出現は1922年、そして1982年には一時間に90個ほどの出現が記録されている。この例だけで考えると、約60年ごとに活発になるということになるが、そう単純でもなく、日本では1945年にも多数の出現が記録されている。また、一説には、この流星群の歴史は古く、紀元前687年に中国で雨の如く出現したという記録があるともされている。そういう意味では、通常は少ないものの、しばしば活発になる、いわば気まぐれな性格をもつ流星群といってもよいかもしれない。この流星群の母親は1861年に出現したサッチャー彗星(C/1861 G1)と言われているのだが、この母親はいわゆる長周期彗星に属する部類で、その周期は415年といわれている。これだけ長い周期の彗星で、毎年のように少なからず流星を降らすのは珍しい。

ゴールデンウィークの直前ではあるが、暖かさを増していく春の夜空に、織姫星から流れ出る、きまぐれな流星群の流れ星を探してみてはどうだろうか。