ディスカバリーキッズ コズミックラボ2019
天文台マダムの東京会場レポート
ディスカバリーキッズ コズミックラボとは
「ディスカバリーキッズ コズミックラボ」は、未来に活躍する子どもたちのための宇宙教育イベントです。宇宙の専門家からお話を聞いたり、ワクワクがいっぱいの実験にチャレンジしながら宇宙についての知識を深めていきます。
どんな好奇心を持った子どもたちに出会えるでしょう?2019年9月21日(土)に開催された東京会場の様子を天文台マダムこと梅本真由美がレポートします。
14時。開場と同時に続々と親子が来場されています。一番乗りは山梨県から来た小学4年生の男の子。宇宙が大好きで、夏休みにはJAXAや国立天文台を見学してきたそうです。おや、さっそく展示ブースがにぎわっていますね。
多層断熱材MLI(Multi Layer Insulation)をさわってみよう!
三菱電機のブースには金銀色の素材でできた不思議なものが展示されていますが、いったい何でしょう?
「これはMLIといって人工衛星のまわりを覆っているものです。宇宙空間は、太陽の当たるところと当たらないところで約300℃も温度差があり、MLIは人工衛星内部の機器が熱でダメージを受けないようにする役割を持っています。人工衛星を軽くするために、薄い素材を重ね合わせてミシンで縫い合わせたものを、 マジックテープで人工衛星の本体にくっつけて使います」
これらのMLIは人工衛星の複雑な形に合わせるため、ひとつひとつ手づくりなのだそうです。マジックテープが宇宙ではがれる心配はないのでしょうか?
「大丈夫です。宇宙空間は真空なので風ではがれることはありません」
なるほど~。
近くにいた男の子2人に、さわった感想を聞いてみると...
「ペラペラで軽かった。マジックテープでくっつけるなんてびっくり」
「宇宙でマジックテープがはがれないのがすごい」
2人ともマジックテープという身近な素材が宇宙空間で活用されていることにおどろいたようです。
コズミックラボ2019のテーマは「見えない力を見る!」
14時30分、いよいよ開演です。オープニング映像が流れ、講師の湯本博文先生が登場しました。
「みなさん、ガリレオ・ガリレイを知っていますか? 昔は地球のまわりを太陽がまわっているというのが当たり前でした。でも、それは違うとガリレオは言いました。実際に望遠鏡で見ればわかると。しかし、皆は見ようとしませんでした。その時にガリレオは、見えないと始まらない、見ようとしないと始まらない、という言葉を残しました。さあ、みなさんも今日は一緒に見えない力を見ようとしてみましょう!」
見えない力「電磁気力」
見えない力を見るために実験をします。立てたアルミ管の下にお皿を置いて、管の中に鉄球を落とすとどうなるでしょうか。
パリーン! あらら…勢いよく球が落ちてお皿は割れてしまいました。
もう一度やってみます。今度は…球はゆっくり落ちて、お皿を割ってしまう前に手で受け止めることができました。どんな仕組みでしょう?
じつは、2回目は鉄球ではなく磁石を落としていたのです。磁石が動くと電流が発生します。電気が流れるとまわりに磁界が生まれます。この仕組みによってアルミ管が電磁石になり、磁石を落とすまいとする力が働いたのでゆっくり落ちてきた、というわけ。これが「電磁気力」という見えない力です。
全員で釘モーターの実験
さらに実験をしてみましょう。実験に使う道具は、ネオジム磁石、ネジ、細く切ったアルミホイル、乾電池の4つ。まずネジの頭にネオジム磁石をくっつけます。電池をプラスが上になるように持ち、マイナス側にネジをぶら下げます。アルミホイルの片側の先端を電池のプラス極にあてて指でおさえ、もう片方の先をネオジム磁石に触れると、ネジが勢い良く回転をはじめました。
「回った!」「すごい」「めっちゃ回る」「早い!」
子どもたちから歓声があがります。
「回転すると不思議でしょ。ここで、おもしろいと思うだけで終わらずに、なぜ? どうして? と思うと科学の扉を開けることになるよ」と湯本先生。回転運動を起こした「見えない力」の秘密、みなさんも考えてみてくださいね。
(答え:乾電池からアルミホイルに電気を流す。電気が流れると磁界が生まれる。アルミホイルが電磁石となり、ネオジム磁石と作用しあってネジが回転する)
三菱電機が挑む!月面着陸
三菱電機からは、宇宙お姉さんと宇宙お兄さんが登場しました。
「こんにちは~!」
三菱電機は、これまで多くの人工衛星を製造し、宇宙に挑戦し続けてきた会社です。南米チリの標高約5000メートルに設置された「アルマ望遠鏡」などの大型望遠鏡や、天気予報でおなじみの気象衛星「ひまわり8号」などの人工衛星も作っています。
「三菱電機では現在、JAXAと一緒に月面着陸に挑戦しています。今日はみなさんに月のお勉強をしてもらおうと思います」
「わかりますか~?」「ハーイ!」会場の子どもたちとクイズ形式で楽しいかけあいが進みます。
現在、JAXAとともに三菱電機が開発しているのは、2021年度に打ち上げ予定の小型月着陸実証機「SLIM」です。
「スリム? 痩せるんですか!?」
宇宙お姉さんのギャグで会場が笑いに包まれたところで、宇宙お兄さんが
「SLIMというのは、Smart Lander for Investigating Moonの略で、賢い月面着陸機という意味なんですよ!ピンポイントに着陸できるのが特徴です!」
と解説。楽しいかけあいで、「SLIM」の名前がバッチリ頭に入りました。
ところで、月はどのようにしてできたのでしょう。有力な説はありますが、解明のカギは月の内部にあるカンラン石です。そのカンラン石、実は表面に露出しているポイントもあるのですが、そこはクレーターの端の斜面という難所。SLIMは、自ら降りたい地点を見つけ、100mの精度で目標地点に降りられるように開発されているので、そんな難しい場所にも着陸し、調査することができます。SLIMが成功すれば、月の成り立ちの謎が解けるかもしれません。
ストレスと乳酸菌
JAXAと一緒に宇宙飛行士の健康に関わる「宇宙医学」を研究しているのがヤクルト。これまでの研究で、宇宙に行くとお腹の中の良い菌(ビフィズス菌など)が極端に減ってしまうことがわかっています。反対に地球にいる時には少なかった悪い菌が増えてしまうことも。こうした腸内環境の変化には、ストレスが影響しているそう。
タフな宇宙飛行士であってもストレスと無縁ではありません。宇宙の特殊な環境がストレスとなって、お腹の中の菌のバランスが崩れやすくなり、免疫力が低くなってしまうそうです。
そこで有効なのが乳酸菌。乳酸菌の摂取とストレス軽減が関係する研究結果が示されました。
チームスピリット!電磁誘導100人おどし
ふたたび湯本先生が登場。最後の実験は、全員参加の「電磁誘導100人おどし!」お父さん、お母さんたちも参加して、みんなで手をつないで大きな輪を作ります。そして湯本先生が電磁誘導によって発生させた電流をみんなで体験しましょう! つまり、感電ですね(笑)
みんなで手を繋いで、せーの!
「うわっ!」「ビリっときた」「びっくりしたぁ」
みんな腕や指、手首のあたりを押さえて口々に感想をもらします。
「バチっと何かがあたった」「親指が弾かれた」「痛くはなかった」
驚きの表情で興奮気味の子どもたち。そんなディスカバリーキッズのみなさんに湯本先生からメッセージです。
「子どもの時にどんどん実験をして欲しい。たくさん実験をしてたくさん失敗もしてください。失敗の中に成功のためのヒントが必ず見えてきます。大人になるとね、先生や教科書がなくても自分で解決しなきゃいけないことがたくさんあるんだよ。でも子どもの時に実験をやって解決する能力を持った人は、無敵です。ぜひたくさん実験をして、解決方法を見出すワクワク感を味わってください」
今日一日でたくさんの子どもたちと出会いました。終了後、何人かに声をかけて今日の感想や将来の夢などをインタビューしてみました。「今日は知らないことをたくさん学べて楽しかったです。来てよかったと思います」「ブラックホールとダークマターが好きです。将来は天文学者になりたい!」「私ははやぶさが好き。宇宙探査に興味があるので将来はJAXAで働きたいです」「私は空が好きなので、飛行機のパイロットになりたいです」「電磁誘導の実験がおもしろかった。将来の夢はプロ野球選手です」「僕はサッカー選手になりたい」
宇宙の仕事を目指す人はもちろん、スポーツ選手を目指したり、宇宙関連以外の仕事を夢見る子どもたちが、宇宙のラボに来て真剣に取り組んでいることがすごく大事だなあ、と私は思いました。
宇宙のノウハウは裾野が広く、生きる上で誰にとっても必要なことだと思います。子どもたちがそれぞれの夢に向かっていくとき、この体験はきっと心の栄養となって成長を促してくれることでしょう。そんなことを、あらためて感じさせてくれたコズミックラボでした。
インタビューに答えてくれたみなさん、ありがとうございました。