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2024.07.08

守りたい人がいる、守りたい社会がある

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守りたい人がいる、守りたい社会がある

三菱電機の防衛事業は、最先端の技術やまだ世に出ていない技術に目をつけ成熟させていき、そこで培われた技術を国や社会に還元することで、活力とゆとりある、安心、安全な社会につながることを目指している。今回は、2035年の開発完了を目指し、日本・イギリス・イタリアの3カ国が共同で進めているプロジェクトにおいて、システム開発に携わる3人に話を伺った。

他国とのハードな交渉による刺激と苦労

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    三菱電機鎌倉製作所原 淑貴(写真左)

    2020年入社。共同開発プロジェクトを通じた海外出張はこれまで9回。折衝の場となる会議自体は大変だが、余暇の観光は大切な息抜きに。

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    三菱電機鎌倉製作所荻野 勇人(写真中央)

    2009年入社。野球が趣味で、観るのもプレイするのもどちらも好き。阪神タイガースファン。

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    三菱電機鎌倉製作所森 京介(写真右)

    2022年入社。本格的なプロジェクト参加は2024年4月から。海外とのハードな折衝に備え語学学習に励む。趣味の料理はラーメンをイチから作るほどの腕前。

― 皆さんとこのプロジェクトとの関わり方を教えてください。

荻野:私は、パイロットの命を守るミッションシステムの一つを担当するユニットリーダーとして、海外パートナー企業との技術的な調整を行っています。また、社内においては、所内プロジェクトメンバーと意思疎通を図りながら、担当するサブシステムの開発計画を立案しつつ、設計を担当する電子通信システム製作所のエンジニアと構想検討を進めています。

原: 私は、ミッションシステムのうち、EO(電子光学装置)センサーのシステム設計に従事しています。設計作業としては、システムに関する検討、および各技術を担当する技術課との調整役を担い、また、技術検討以外に社外対応も行っています。

森: 私は本格的に参入してまだ間もないですが、日本が担う開発業務の一部を担当し、設計作業を行っています。

― 三菱電機は、共同開発プロジェクトにどのように関わっているのでしょうか?

荻野:本プロジェクトの開発は、機体、エンジン、そしてミッションシステムという大きく3つのドメイン(セクション)に分かれています。その中で、三菱電機は機体に搭載するミッションシステムを担当しています。これは文字通り、ミッションを遂行するパイロットを支援するために使われるシステムのことで、感知・発見用のセンサーや、それを味方に伝えるための通信などを取り扱います。機体そのものやパイロットを守るという意味でもセンサーは大切な役割を担っています。

原: イギリス、イタリアの各国でもそれぞれの企業が選定されていて、三菱電機はミッションシステムの代表企業として位置付けられています。イギリス、イタリア側のそれぞれのメーカーと話し合いながら、例えばどういうセンサーを作るかということを協議しています。

― 日本・イギリス・イタリアの3カ国で共同開発するのはなぜですか?

森: 共同開発することによって各国の知見を持ち寄り、より良いものを作っていくためです。センサー分野の中でも、日本・イギリス・イタリアが得意としている部分がそれぞれあるので、各国の知見や技術を集約して開発します。

原: センサーを共同で作るという意味では協力関係であり良きライバルであるといえます。より良いセンサー開発のために、この部分はこうしたい、この技術を採用してほしいという、各国それぞれの思いを話し合う交渉に臨みます。交渉の場でもお国柄が表れていて、例えばイギリスは外交が上手く、日本とイタリアどちらに対しても上手に配慮しながら話を進めます。一方イタリアは、自分たちの考えや思いをしっかりと主張することが上手です。二国に比べると、我々日本側は逆にまじめすぎるところがあるかもしれません。額面通りに言われたことをそのまま愚直に信じてしまう雰囲気があって、イギリスやイタリアの方が交渉上手だなと感じることも正直あります。

荻野:日本はどうしても和を重んじるところがあり、3カ国でうまくやっていこうという気持ちが強く出ます。でも国際開発の場では、協力しながらも自国の主張を通すために、上手に交渉することがとても重要です。国際的な共同開発の経験が少ない我々は、そのあたりは苦労をしています。加えて言語や文化の壁もありますからね。

原: 会議や資料作りはすべて英語で行われますが、会議の秘匿性が高いため電子デバイスは持ち込めません。会議中に意味を調べることも、言いたいことを機械翻訳することもできないので、終日会議の後はクタクタになります(笑)。

荻野:英語が堪能な相手に対して、一歩でも反応が遅れると、どうしても会話の主導権が握れないのです。

原: 対策として、スピーキングの苦手な我々ができるのは、会議の資料を英語でしっかり作り込むことです。最悪、その資料を見れば意図が伝わるようなものですね。資料があることで他国も「日本の資料を確認しよう」と、意見を聞く時間も作ってくれます。

― 3カ国で取り組むことによる、いい影響はなんでしょうか?

原: もし日本だけで行う場合は、開発プロジェクトに対して「絶対に失敗はできない」という強い意識が働くと思うんです。最初に決めたことを何がなんでも達成するんだと。対して、イギリスやイタリアには柔軟性を感じました。例えば、当初のプロジェクトにおいて彼らの目指すレベルが、我々の想定よりもすごく高いということがありました。彼らも高い技術力を持っているので、当然なんとか超えようとはするのですが、同時に「もしダメだったら、最終的にはそのレベルを下げればいい」という気楽さも持ち合わせているんです。この点はすごいと感じました。

荻野:今の話にかぶせると、日本はリスクを避けるところがあって、リスクがあるならもう少し確実で安全な方がいいだろうとなりがちです。イギリス、イタリアはリスクもあるけど、ポジティブにこれを行えばこんなプラスの面もあるからと、どちらもバランスよく見ようとします。リスク管理だけではなくて、ポジティブにトライすることで可能性も広がるという彼らの考え方は、我々日本のメーカーにとっては、驚きと同時に新鮮でした。

イギリス側が記念に製作し、3カ国共同開発のメンバーに配ったネックストラップ

原: 共同開発は社内にもいい影響があって、例えば技術部のエンジニアに「これはできる?」 と聞くと、最初は「難しいです」と返ってくることがあるんですが、「イギリス側がこう言っているので、まずは検討してみて欲しい」と言うと、「確かに、こうしたらできるかも」となることがあります。こうやって、我々も含めた日本側の関係者の殻を破ってくれるのは、他国との共同開発のいいところです。

荻野:原さんが言ってくれたように、国内開発だけではなかなか経験することができない他の参加国からの知見や考え方などから刺激を受けながら、それを社内にどんどん還元できるといい方向に向かうのではないかと思います。

原: 3カ国の会議に技術部のエンジニアを連れていくこともよくあります。会議に出席しないとわからない部分もあるし、海外のエンジニアに触れられる機会というのはなかなかないと思うので、是非活かしてほしいです。

様々なスケールで考える、守りたいもの

― 仕事を通して“国を守る”ということにはどのような思いをお持ちですか?

荻野:元々インフラ関係の事業に就いて、日本に貢献したいという思いがありました。配属された防衛事業は、仕事を通して安心、安全な世界に貢献できるというわかりやすい構造になっているので、やりがいを感じています。あとは個人的な話ですが、最近子供が産まれたので、未来の安全な社会にも貢献したいというのが、自分自身のモチベーションです。“国民のため”という大きなものより、家族や子供のように自分の身の周りに貢献したいという思いが強いです。

原: 自分も“日本を守る”となると、スケールが大きすぎてあまりイメージがわきにくいです。仕事上、各基地に出張して、パイロットの方から製品に関して直接ヒアリングをする機会があるのですが、最近話題になることも多いパイロットが戦闘機に乗って空に飛び立つ、スクランブル発進には常に危険があり、自分たちが作ったセンサーの性能がパイロットの安全を左右する可能性があります。自分の目の前にいるパイロットの方が無事に帰れるかどうかは、我々技術者にかかっているという強い意識を持って、仕事に取り組んでいます。この思いは、お酒の席で涙ながらに語る先輩の姿を見てから、一層強くなりました。

森: 私は中途入社で元々別の業界にいたのですが、その時には「自社がどうなるといいのか」という視点で考えることが多かったです。でも、三菱電機に入社して感じたのは、主語として「自社」だけでなく「日本」が入ることもあり、非常にスケールが大きいなと。そのため、自然と仕事を通して国や社会に意識が向いています

森: 防衛・宇宙事業で培われた技術は、車や公共事業など他の産業分野にも転用することができます。だから、技術を成熟させることにより、国や社会に還元されて、安心、安全な国につながると期待しています。

原: その一例として、ETCには防衛・宇宙事業で培った技術が活用されています。宇宙事業や防衛事業で培われた技術をフィードバックするというのも、我々が働く鎌倉製作所の役目です。

― これから先、どのようなことに取り組みたいですか?

荻野:私の場合は中堅クラスになってきているので、若手や中途入社の方々がうまく成長できる環境を作っていくことが重要だと感じています。産業の継続的な基盤として、技術を三菱電機で育んでいくためには、エンジニアという存在は非常に重要です。人と人が関わる部分も大きいので、生え抜きの社員と中途入社の経験者の方々がうまくミックスして成長していけるような土台を構築していくことを目指しています。意識するのは、チームワークを大切にすることでしょうか。自分一人の力だと、できることはたかが知れているので、原さん、森さんを含めたチームとして結束して、この国家的プロジェクトを成功に導きたいと考えています。それが結果として、安心、安全な社会に貢献することになると思います。

原: 戦闘機開発というものは、基本的には30年間に渡るプロジェクトになりますが、現在運用されているF-2戦闘機の開発を牽引した方々が、今では上のポジションに立たれています。今は技術者にとって恵まれたタイミングだと言われますし、実際そうだと思います。開発の最初期の段階から携われて、設計・製造・試験に関する技術を一通り学ぶことができますから。自分は実力的にはまだまだですが、この息の長い事業を通して培った技術をしっかりと還元して、次の事業ではリードする立場として携われるように、今はしっかりと技術を磨いていきたいです。将来的には戦闘機のセンサーといえば、三菱電機の原だと言われるくらい、お客様からも信頼される、実力のある技術者になりたいなと思います。

森: 我々のチームはプロジェクト管理者として、様々な技術を持つそれぞれのチームを統括していく、いわば全体を見る立場です。なので、各分野の高い技術力だけではなく、各チームの連携が重要になります。ですから、時には受け取ったものを分かりやすく効率的にブレイクダウンしたものを、次のチームに受け渡して管理していくことが大事になってくると考えています。そうして最大限の力が発揮できるように、各所の橋渡しになっていきたいです。2035年というのはまだ先が長いと感じると思いますが、技術などの課題はたくさんあるので、今の段階から足りない技術に対しては、部署や事業所を含めて開発を進めていかなくてはいけないなと。2035年までを長い期間とは思わずに、所々にホールドポイントを作って、技術開発を進めていきたいと考えています。

掲載されている情報は、2024年4月時点のものです。

制作: Our Stories編集チーム

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