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2024.10.21

出会いをチカラに。赤外線センサー「MelDIR」のオープンイノベーション

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出会いをチカラに。赤外線センサー「MelDIR」のオープンイノベーション 出会いをチカラに。赤外線センサー「MelDIR」のオープンイノベーション

多様化・複雑化する社会課題の解決に向け、組織の枠組みを超えてイノベーションを起こす「共創」が求められている。こうした中、三菱電機では赤外線センサー「MelDIR(メルダー)」を活用したスタートアップとの共創に乗り出した。プロジェクトに関わった社内外のメンバーに、オープンイノベーションの重要性、社会をより良くするための事業共創について語っていただいた。

左から谷本純也、相原育貴、美谷広海、宮永峻資写真左から
谷本純也(たにもと じゅんや) 三菱電機 関西支社 事業推進部 営業企画課
相原育貴(あいはら やすき) 三菱電機 高周波光デバイス製作所 赤外線センサデバイスプロジェクトグループ応用技術チーム
美谷広海(みたに ひろうみ) FutuRocket(フュ―チャーロケット)株式会社 代表取締役
宮永峻資(みやなが しゅんすけ) NTT西日本イノベーション戦略室 事業開発担当 シニアマネージャー

高度な温度検出技術で社会課題の解決を

2024年4月、三菱電機はスタートアップFutuRocketと共同で、赤外線センサー「MelDIR」を活用した「害獣・害虫検知デバイス開発」に関する実証実験を開始した。その起点となったのは、2023年7月にNTT西日本が運営するオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」で開催されたリバースピッチ(企業側からスタートアップに事業や課題を示し、共創提案を募るイベント)だ。

三菱電機高周波光デバイス製作所(以下、波光電)が開発した「MelDIR」は、人や物が放射する熱を検知し、映像で表示する赤外線センサー。高画素化、高温度分解能化により、動きの速い熱源の形状も精度高く把握できるのが特徴だ。

  • 赤外線センサ「MelDIR」MIR8060B3
  • 熱源(アイロン)と人の熱画像の例

三菱電機関西支社で新規事業創出に携わる谷本さんは、このセンサーを社会課題の解決に活用するためリバースピッチを企画し、波光電の相原さんと検討を進めていった。そして、「QUINTBRIDGE」の宮永さんに企画・運営について協力を仰ぎ、リバースピッチを実施。その後、共創事業に採択されたのが、FutuRocket の美谷さんによる「害獣・害虫検知デバイス開発」だった。

三菱電機が掲げるオープンイノベーション戦略と、京阪神エリアの「スタートアップ・エコシステム」(スタートアップ企業を支援する産業生態系)が結び付き実現に至ったという今回の事業共創とはどのようなものだったのだろう。

事業共創に向けリバースピッチを開催

谷本純也:2016年三菱電機入社。関西を中心に、シーズとニーズの両起点で新規事業開発に携わる

ー リバースピッチ開催の経緯をお聞かせください。

谷本:私は三菱電機関西支社で、自社の強みを活かした“シーズ起点”とお客様の要望を基に事業を発想する“ニーズ起点”の両輪で新規事業創出に取り組んでいます。今回のプロジェクトでは、シーズ、つまり三菱電機の技術を起点とした事業共創を目指しました。

三菱電機には素晴らしい技術がたくさんあり、さらに、京阪神エリアは内閣府の「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」に選定され、オープンイノベーションに力を入れている地域です。にもかかわらず、我々は社外との接点が少なく、技術を広く活用する機会がありませんでした。

そこで、三菱電機の技術を社外にアピールし、同じ志を持つパートナー企業とタッグを組もうと考えました。共創によって技術の価値を高め、社会課題の解決に貢献したい。こうした思いから、リバースピッチを企画しました。

相原育貴:1996年三菱電機入社。赤外線センサー「MelDIR」の応用技術を担当。リバースピッチの実施、共創先の選定、共創活動までを担う

相原:私は波光電で「MelDIR」の技術サポートや活用提案を行っています。これまで家庭用エアコンや見守りセンサーなどに活用してきた「MelDIR」ですが、独自技術を採用した新しいセンサーですので、これまでにない市場で活用して欲しいという思いがあります。しかし、思うような市場が見つからず悩んでいました。そんな折、谷本さんからオープンイノベーションの提案を受け、リバースピッチを開催することになりました。

宮永峻資:2022年NTT西日本入社。大阪市の京橋にあるオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」で、各種プログラム企画や法人会員間のビジネス共創の推進に取り組む。着用しているのはQUINTBRIDGEのロゴ入りTシャツ

ー 谷本さんが相談を持ち掛けたのが、「QUINTBRIDGE」のコミュニケーターである宮永さんだと伺いました。

宮永:「QUINTBRIDGE」は、「ウェルビーイングが実感できる社会を実現する」というパーパスを掲げ、2022年にオープンした事業共創を促進するための施設です。スタートアップから大企業まで、様々な方が一社では解決できない社会課題を持ち込み、助け合いながら課題解決に向けて事業を共創しています。

今回ご相談を受け、プログラムの企画・運営を一緒に行いました。「QUINTBRIDGE」では年間約400回のイベントを開催していますが、三菱電機様の熱量はひときわ高く、相談当初からPoC(試作品開発のための検証)のスケジュール策定や予算確保ができていたほど。是非、成功させたいと思いました。

ー リバースピッチ開催までの苦労や、当日の様子などを教えてください。

相原:初めてのリバースピッチだったため不安でしたが、プログラム内容や準備すべきアセットなどを宮永さんに相談できたので、スムーズに実施できました。「MelDIR」の熱検知性能を伝えるために、調理デモや人が倒れたときに異常を知らせる転倒検知デモも実施しました。

谷本:「濃密に事業共創できる方を少数精鋭で集めよう」と、ハードウエア系スタートアップの約10社にお越しいただきました。社会課題の解決に関心を抱く各社の皆さんとお話もでき、とても有意義な時間でした。

害獣・害虫を検知し衛生環境を守る

美谷広海:楽天、グリーで海外事業に従事し、2015年からCerevo社で海外のセールスとマーケティングを担当。2017年、スマートIoT製品の企画・開発を行うFutuRocket株式会社を設立

ー FutuRocketの美谷さんは、どのような発想から「MelDIR」の活用提案をされたのでしょうか。

美谷:「MelDIR」で何ができるのか、という技術面の特徴が明確だったので、それを起点にソリューションを考えました。

FutuRocketでは、AIカメラなどIoTデバイスの企画・開発を行っています。リバースピッチが行われた当時、沖縄のクライアント企業から「AIカメラでネズミやゴキブリを検知できないか」というご相談を受け、試作を進めていたところでした。

暗所に生息するネズミやゴキブリは、光学系センサーでは難しくても、赤外線センサーの「MelDIR」なら検知できるのではないかと考えました。そのアイデアを元にしたのが「害獣・害虫検知デバイス開発」です。
昆虫は体温が低いため工夫は必要でしたが、試作段階で可能性は十分感じました。

ー どんな利用シーンを想定していますか?

美谷:飲食店、給食センター、食品工場などを想定しています。虫やネズミの糞によるパッケージの汚損防止のため、物流センターの需要も高そうです。

ー この提案を受け、相原さんはどう感じましたか?

相原:思いもよらない斬新なアイデアに驚きました。採択の決め手になったのは、ユニークさ。食品工場などでは害虫混入により大規模な製品回収に至ることがあるため、社会課題の解決につながると感じました。

ー リバースピッチからPoC実施まで、スピード感のあるプロジェクトだったのではないでしょうか。

美谷:今回はリバースピッチの段階で予算とスケジュールが決まっていたので、進行がスムーズでした。ご提供いただいたデモキットの完成度も高く、開発において非常に助かりました。

  • 赤外線センサー「MelDIR」を搭載したデモキット

ー このプロジェクトは「QUINTBRIDGE」事務局から共創活動に大きく貢献した事例として、「We Aword2023」最優秀賞を受賞されたんですね。

宮永:三菱電機様が初のリバースピッチを開催し、様々なハードルを乗り越えて事業共創を行った点を高く評価しました。オープンイノベーションに対する挑戦心が授賞の決め手でしたね。

オープンイノベーションで広がる“Changes for the Better”の精神

ー 今回のプロジェクトでどのような社会課題を解決し、より良い社会をつくるためにどのような価値を提供できると思いますか?

相原:「MelDIR」による社会課題の解決は部署全体の目標でした。とはいえ、「MelDIR」は製品に組み込まれる部品の一つにすぎません。開発者がエンドユーザーと直接やりとりする機会もなく、本当に課題解決に貢献できているのか実感しづらいという悩みがありました。

その点、今回のプロジェクトは、まず社会課題ありき。FutuRocket様や同じ部署のメンバーと共に、当事者意識を持って課題解決に向けて前進できていると思います。

美谷:今後は、事業化・製品化を海外にも広げ、より大きな課題解決にも結び付けたいと考えています。今回のプログラム後、香港でも害獣・害虫駆除に関するプランが採択されました。東南アジアは人口増加が著しい反面、衛生環境は十分とは言えません。今後の経済成長も見込まれるため、環境改善や社会貢献ができたらと思います。

ー 三菱電機グループの大切にしている姿勢に、“Changes for the Better”が挙げられます。今回のプロジェクトで、この精神を感じることはありましたか?

谷本:まず、相原さんとリバースピッチを構想し、宮永さんとブラッシュアップした過程で“Changes for the Better”を感じました。美谷さんと出会い、新たな価値を創出できたことも“Changes for the Better”です

また、今回の取り組みを社内で情報共有したところ、「私も挑戦したい」という従業員が数多くいました。成功事例を作ったことで、社内にも“Changes for the Better”の精神が広がったのではないかと思います。

相原:波光電としても前例のない取り組みであり、後に続きたいという従業員が次々と手を挙げています。これこそが“Changes for the Better”ですし、今後も多くのメンバーと共に事業共創をしていきたいと考えています

ー 美谷さん、宮永さんはこれからどのようなことに取り組んでいきたいですか?

美谷:私は日本企業が盛んに海外進出していたころに海外で育ちましたが、日本の技術は素晴らしく、可能性を秘めていると思います。スタートアップとして、微力ながら日本の技術の海外展開を推進したいです。

宮永:「QUINTBRIDGE」には、自治体や企業から大小様々な課題が日々持ち込まれています。こうした社会課題を解決することで、マネタイズや、海外展開のチャンスが生まれるはず。「QUINTBRIDGE」は、その最初の一歩を踏み出す場です。チャレンジする方が増えていろいろな共創が生まれ、社会課題が解決されていく。そんな未来を創りたいと思います。

ー 三菱電機のオープンイノベーションについて、今後の展望をお聞かせください。

谷本:今回の取り組みを通じて、社内外を問わず同じ志を抱く人々であれば、社会課題の解決に向けて一緒に困難を突破できると実感しました。今後は、シーズ起点での事業共創を継続しつつ、ニーズ起点の新規事業創出も進めたいと考えています。お客様の困りごとを聴き取り、ソリューションを生みだすモノづくりは、三菱電機の原点。今後も新たな価値を生み出すオープンイノベーションを興し、より良い未来につなげていきたいです。

美谷さんが着用しているのはFutuRocketのロゴ入りTシャツ
宮永さんが持っているのは「QUINTBRIDGE」のロゴマーク

掲載されている情報は、2024年7月時点のものです。

制作: Our Stories編集チーム

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