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2024.08.28
世界の半分はモーターでできている。チャレンジ精神で達成したギネス世界記録™
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三菱電機は、2024年5月に兵庫県のコンポーネント製造技術センターで、「パズルキューブを最速で解くロボット」ギネス世界記録™に挑戦し、世界最速となる0.305秒を達成。ギネス世界記録™に認定され、関連動画はネットを中心に大きな話題となった。今回は、予想以上の反響に驚いたというプロジェクトメンバーの方々に挑戦を振り返っていただき、それぞれの思いを語ってもらった。
始まりは偶然見つけたギネス世界記録™の動画から
ー ギネス世界記録™達成、おめでとうございます! 率直な感想をお願いします。
徳井:“ほっとした”のが半分、もう半分は、信じていたモーターの性能通りだった、という気持ちです。
糸瀬:私も“ほっとした”のが一番です。嬉しかったのも当然ですが、終盤には失敗も続き、本当にこのままいけるかなという思いもあったので。
三浦:私も同じくです。ギネス世界記録™の挑戦は3回まで許されていて、1回目の挑戦で部品が壊れて失敗したので、2回目で成功してほっとしました。
中上:私は必ずできると思っていたので、「できて当然なことができて“ほっとした”」という感覚です。本業で作っている製品を納入先に引き渡した時の気持ちに近いですね。
ー “ほっとした”という安心感も十人十色ですね。パズルキューブを使ってギネス世界記録™に挑戦するというアイデアは、どのように思いついたのですか?
徳井:私たちが開発している「速く正確なモーター」を作るには、モーターのコイルを巻く巻線機(まきせんき)という設備が重要です。三菱電機の巻線機のレベルは世界一だと思っていたのですが、巻線機のすごさを多くの人に伝えるのは難しく、なんとか分かりやすく伝えたいなと。そんな時に、当時の上長だった坂上さんとマサチューセッツ工科大学(以下MIT)がギネス世界記録™に挑戦した動画を見つけました。よく見てみると、その時のパズルキューブは回転し過ぎで少し戻って止まっていた。つまり無駄がある。それで「これは勝てるな」と思いました。
坂上:すぐに動作時間を計算した結果、これなら記録を塗り替えられるはずだとなり、すぐに当時の上司に「挑戦してみたい」と相談しました。
ー プロジェクトが成功したポイントは何でしょうか?
徳井:9割方はモーターの性能です。私たちのモーターは速いのにピタッと止まる。これは惚れ惚れするくらいすごいことで(笑)、本当に美しい動きだと思います。弊社の優れた制御技術のおかげですね。モーターの性能以外で一番大きいのは、セレンディピティ(思いもよらなかった偶然がもたらす幸運)なのかなと。モーターの性能を伝えるためにパズルキューブを世界最速で解くという挑戦を思いついた偶然が、優秀な人たちが集まって協力してくれたという幸運をもたらしてくれました。
チームとして、総力をあげた挑戦
ー 坂上さんと徳井さんがプロジェクトを立ち上げられた時は、どのような思いでしたか?
坂上:様々なメンバーに取り組んでもらうことで、メンバーのモチベーションやスキルアップにつながること、三菱電機全体としても製品のアピールにつながること、また個人としてもこれまで何かの世界一になったことはなかったので、ワクワクしました。
徳井:とにかく面白そうだからやってみようというのが一番でした。
ー 途中から参加されたお三方は、どのような領域を担当されたのですか?
糸瀬:私が担当したのは、ロボットの目となるカメラです。正確な画像認識のために、光の反射でパズルキューブの色を誤認識しないように照明の調整なども行いました。
三浦:私はモーターとパズルキューブをつなぐ部分、いわゆるロボットの手や指に相当する部分を担当しました。
中上:私の担当は、パズルキューブを解くためのプログラムから始まり、プログラムとロボットをつなぐ通信手段の確立など、徐々に広がっていきました。坂上さんの異動後は、プロジェクト全体のマネジメントも引き継ぎました。
ー 今回は部品の生産から組み立てまでの、高速化の鍵となる部品は全て内製したそうですね。
徳井:内製化できることは弊社の強みだと捉えています。最近では、利益率確保のためなどで工場を持たないメーカーが台頭していて全て外注しているところもあります。でも、それでは技術や知見を蓄積できません。
どんな壁にぶつかっても、できることは残されている
ー プロジェクトを進める上でどのような苦労があり、どう乗り越えましたか? また、今回の挑戦は通常の業務時間外に取り組まれた、ということですが、通常の業務にどんな影響があったのかも伺いたいです。
糸瀬:私が痛感したのは、知識不足です。普段関わることのない通信関係のキーワードがチームで話題に出た時にはよくわからず、裏では必死に調べていました。乗り越えた原動力は、技術への興味に尽きます。おかげで本業であるモーターの開発においても、知らないことに対する抵抗がすごく小さくなりました。
三浦:私がこのプロジェクトに参加したのは、細かなところを変えては試すような追い込み時期でした。その変更を今日か明日に、ということが頻発し、とにかく迅速に作ることに苦労しました。しかし、皆さんからの的確なフィードバックのおかげでスムーズに作り直すことができました。この経験を通じて、本業においても、早く効率よく作るやり方を学ぶことができました。
中上:特に頭を使ったのは、挑戦する時期が迫る中、チームの稼働時間の上限を守りつつ、確実に成功するための方法についてです。過去の経験から、こうするといいと思うことを試して乗り越えました。通常の業務への影響は2つ。1つは若手の皆さんの成長を再確認できたことで、この先も安心して仕事を任せたいと改めて思ったこと。もう1つは、今回のプロジェクトを通じて社内のいろいろな部署からお声がけをいただき、つながることができなかった部署と意見交換する場ができたのは非常に喜ばしいことです。
徳井:私の場合、もちろん実際の苦労はあったものの、終わってみると世界一への挑戦というワクワクが勝っていたので、正直苦労したという思いがありません。とにかく“絶対にできる”というポジティブシンキングで進めました。壁にぶち当たっても何かできることは絶対にある。とはいえ、好きじゃないとできません。やっぱりモーターへの愛と情熱に尽きます。モーターの開発業務への影響としては、スケジュールを組むことを含めて、マネジメントが上手くなったと思います。
この世界の半分は、モーターで成り立っている
ー 三菱電機グループのコミットメントである「Changes for the Better」を、1年半というプロジェクト期間中に感じたことはありますか?
徳井:いい言葉だな、と入社以来感じています。世の中も仕事も全てそうですが、より良くすることの連続で、トライアンドエラーをひたすら繰り返して、いい方向に持っていくしかないですから。
ー 皆さんが所属されているコンポーネント製造技術センターでは、「社会を良くする」ことや挑戦することの重要性をどう捉えていますか?
徳井:今は産業の変革期で、あらゆる技術がスピーディに進化しています。その動きに周りもついていけず、世の中全体のモチベーションが下がっている気がします。そういった環境下では挑戦が必要ですし、それにより皆さんのモチベーションが上がり、会社全体を盛り上げることにつながる。そうなることで、多様な製品開発が進み、多くの社会課題を解決できる製品も生み出されていくと考えています。
ー なるほど。同じく「社会を良くする」ことについて、皆さんの普段の仕事や今回の挑戦がどのようにつながっていると思いますか?
糸瀬:以前中上さんが、「今回の達成は私たちだけではなく、これまで製品を作り続けてきた弊社のエンジニアがいた結果だ」とおっしゃっていました。これからは、皆さんが積み重ねてきた技術を次に橋渡しできる技術者を目指したいと改めて思いました。
三浦:モーターというのは様々な製品や、その製品を作る過程で使われているので、その技術をより高めていくことが、巡り巡って社会に還元できるのではと思いました。
中上:私はモノづくりを通して、世の中の皆さんがより便利に楽になるものを届けることが、社会が良くなることにつながると考えています。そうなれば皆さんの心に余裕ができて、周りに優しくできるはずです。そうして生活を少しずつ良くしていくことが、結果的に世界平和にもつながるのでは、と思います。
徳井:世界をより良くするためには何が一番近道かというと、会社に入って社会貢献することだと思っています。会社というのはそもそも社会貢献するという側面を持つ組織なので、会社での仕事を通じて世界はより良くなっていく。全世界の消費電力の50%をモーターが占めていると言われており、世界の半分はモーターで成り立っている、とも言えます。つまり、モーターを高効率化、小型化していけば、おのずと世界はより良くなると考えています。最近は日本の衰退といったことがニュースで取り上げられていますが、今回の挑戦が少しでも勇気を与えられたのかもしれないし、社会全体の活力アップにもつながったのかなと感じました。
ー 日本には技術はあるものの、見せ方が上手くない、と言われます。このプロジェクトがその解決策の一つになっていると感じました。
徳井:まさにその考えはありますね。例えば坂上さん、中上さんはすごいエンジニアです。他にも優秀なエンジニアが弊社には大勢います。でも、私が言うのもおこがましいのですが、アピールが下手だと感じる場面もあるので、私のようなアピール好き(笑)を配置して、どんどんアピールできるといいなと思います。
※掲載されている情報は、2024年7月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム