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産業用ロボットに美しさを。
強い信念とレガシーを大切にする
インダストリアルデザイナー
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少子高齢化などの社会情勢や技術の進歩により、人とロボットが協働、共存する形でのオートメーション化が進む昨今。人にはできない細かく複雑な作業を可能とする産業用ロボットに対する期待は大きい。今回登場するアメリカ出身のインダストリアルデザイナー、ランダム・イアンさんは、エンジニアと協力しながらロボットをデザインする。彼がデザインをする上で大切にしていること、そして日本の企業で働く中で受け継いできた伝統、レガシーは果たしてどこに通ずるのか。
目次
来日前は米軍用プロダクトデザインの経験も
三菱電機には日本に限らず、世界各国から社員が集まっている。その一人、インダストリアルデザイナーとして働くイアンさんはアメリカ出身。アメリカの大学でアートを学び、アメリカ企業で働いた後にヘッドハンティングされる形で三菱電機に入社した。日本の知識はほぼないに等しかったという、約10年前の来日当時の思い出を振り返る。
「日本に来る前に持っていた予備知識、日本が舞台となった映画『ワイルドスピード』のイメージやアニメくらいですかね(笑)。家の中で靴を脱ぐ文化も知らず、土足のまま入ってしまい『ダメダメ』って。でも今やアメリカに帰ることが考えられないくらい日本の文化に慣れましたし、日本のことが好きになりました」
キャリアとして、日本に来る前はどんな会社で働いていたのだろう?
「アメリカの会社…日本では日曜大工のツールを作っているメーカーとして知られていますが…、そこで米軍に支給するプロダクトを作るインダストリアルデザイナーとして働いていました。米軍のお仕事というのは予算も度外視で、とにかく高性能のものを目指すので、それはそれでとても楽しかったですね」
人にはできない0.0001ミリの単位で
仕事をするロボット
現在、三菱電機の産業用ロボットや機器のデザイン・研究、未来工場技術の研究開発を行なっているイアンさん。その中でもロボットのデザインは業務の8割くらいを占めている。
「ロボットをデザインしています、と言うと、みんながガンダムみたいな? って(笑)。そうじゃなくて例えば、放電加工機という放電の熱で対象物を加工するロボットをデザインしたりしています。この機械はシリコンや金属、コンピューターのチップなど0.0001ミリの単位で正確に穴を開けたり、カットしたりできます。これはほんの一例ですが、クライアントによって求めるスペックが強度であったりスピードであったりと変わるので、それに最大限応えるロボットをデザインするのが私の仕事です」
インダストリアルデザインの実作業はどんなもので、どんな人たちと協業するのだろうか。
「一つのプロジェクトのデザインプロセスとしては、まず毎日、何枚も何枚もスケッチを描きます。その後にタブレットを使い、CADという製図ソフトで図面化し、3Dプリンターで模型を完成させます。そして私たちデザイナーにとって大事なパートナーとなるのが、エンジニアなんです」
頼もしくも手強いエンジニアと協力して
ロボットエンジニアは、ロボットがどうすれば機能的に振る舞うのか、スペックを最大限発揮できるのかを合理的な視点から考える。そのためデザインの美醜よりも機能を優先することが多い。エンジニアは、イアンさんにとっては、時に頼もしい相棒として、時に手強い議論の相手となる。
「私自身はアーティストではないので押し通すことはないですが、できる限り美しいデザインのロボットを作りたい。でも例えば、ネジの穴が全くないデザインが美しい、と私が思っても、エンジニアからすると「部品を交換するためにはネジ穴を作っておく方がいいデザインだ」となる。ロボットという山があるとしたら、エンジニアはAサイドから登って、私はBサイドから登っていくという感じで、両者の意見をまとめるために何度も議論を重ねます」
それぞれの立場でいいと思うアイデアを融合して、より良いプロダクトへと昇華する。そのためにはエンジニアとどのようなコミュニケーションを心がけているのだろうか。
「先ほどの話で言えば、ネジ穴一つでデザインを壊してしまうことというのもあれば、角度が1度違うだけでも、全体のフォルムや機能に大きな差を生み出すこともあります。つまり、小さな違いでさえもデザインやプロダクト全体に大きなインパクトを与えるので、自分の信念を簡単には諦めたくありません。その上で、エンジニアと議論してお互い納得できるところに着地することを目指しています」
コツコツと作り上げてきたレガシーを継承する
優れた産業用ロボットに必要なファクターは何だろうか。尋ねてみると意外な言葉が飛び出した。
「Form Follows Function…、日本で言えば“機能美”と訳されるこの言葉も含めて、個々のロボットにフォーカスすると、コストや安全性、スペックなど、求められるファクターは色々とあります。ただ、企業全体としてはブランディングも必要なものだと思います。例えば私は入社した時に、三菱電機のロボットデザインのアーカイブを研究しました。そこから“三菱電機らしい”デザインを学び、新しいデザインと融合させる。これまでにデザイナーがコツコツと積み上げてきたこの会社のレガシーが時代を超えて生き続ければ、それが信頼になる。ここ最近、産業用ロボットでもコピー商品を見かけることがありますが、信頼性というのは歴史やブランディングがあってこそだと感じています」
そして、失われつつある日本特有の「終身雇用」もイアンさんにとっては助けになっているようだ。
「三菱電機では、私が生まれた年から働いているくらい、社歴の長い方々がいます。例えば、昔のロボットデザインについて聞きたいことがあれば、実際に手がけた社内のデザイナーに直接聞けるという恵まれた環境があります。また、社内で言われていることとして、「悪いデザインのプロダクトを出すことは、時間をかけることよりもはるかに悪いことだ」ということ。もし理想的なプロダクトを生み出せないのであれば、より多くの時間をかけてでも理想に到達すべきだと教えられています」
「人に優しい」という新しいファクター
せっかくの機会なので、外国人としての視点から、日本と海外との仕事観の違いや三菱電機と他社との違いについても聞いてみた。
「まずは働き方が違いますね。アメリカでは終業時間の17時を超えて働く人はあまりいません。日本では残業をする人も多いけど、最近の三菱電機は変わりつつあると感じています。自分の場合、締め切りが迫っている時は、残業ではなく朝早くから来て集中して仕上げる“朝型ですね」
さらに、三菱電機と以前の会社との違いをこんな風に語ってくれた。
「職場によって求められているものが違うから当たり前ですが、アメリカの企業では、パワフルで強力な道具、ツールをデザインしていました。でも三菱電機で手がけた仕事で、人と協働するロボット『ASSISTA』をデザインしたことがあるんですが、その時は「どれだけ人に優しくできるか」という視点でデザインしました。人が怪我をしないように、エッジのない丸いフォルムにしたり、人が指を挟まないように隙間をなくしたり。ロボットの設計上の利点よりも、ユーザーの安全のために細かなところまで配慮したデザインを考案するのがとても難しくもあり、やりがいがありました」
働く上でのマイパーパスは
「試行錯誤から美しいデザインを生み出すこと」
常時2~3件のプロジェクトを抱え、同時並行で仕事をこなしていくというイアンさん。この仕事をする上で意識している思い、いわば「マイパーパス」はどのようなものなのだろうか?
「自分の手がけたロボットが実際に動いているのを見る機会はなかなかないんですが、ある時テスト工場に行った時に、そこで動いているロボットの半数以上が自分のデザインしたものだということがわかった瞬間は、誇らしい気持ちになりました。試行錯誤して、時間をたくさんかけても形にならないアイデアもたくさんあります。その中で、ちゃんとデザインとして、プロダクトとして結実したロボットが色々な国の工場で動いていることに大きな達成感を感じます」
ロボットデザインに対して確固たる信念と誇りを持っているイアンさん。この会社ならではのスケール感の仕事によって、そのやりがいはより増幅しているようだ。
「大学時代からドローンを作ったりと、元々モノづくりへと駆り立てる何かが自分の中にはあります。だからこの会社で仕事としてその欲求を満たすことができているのは幸せなこと。しかも、三菱電機という世界で活躍する会社での仕事を通じて、世界や社会に貢献できて、それが自分に返ってくることはさらにうれしい。そのうえ、日本で家族ができて幸せに生活できたら、こんな幸せなことってないと思いませんか?」
INTERVIEWEE
三菱電機統合デザイン研究所ランダム・イアン
アメリカ、ジョージア州生まれ。オハイオ州で大学時代を過ごし、アメリカ企業でインダストリアルデザイナーとして働いた後に、2014年に来日し三菱電機に入社。職場からほど近いジンギスカン店がお気に入り。
※掲載されている情報は、2023年10月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム