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大いなる宇宙でも大切なのは人。
夢を現実に変える若き研究者の前に進むチカラ
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家庭から宇宙まで、とは三菱電機の幅広い事業領域を象徴する言葉だが、今回登場する小仲美奈さんはまさにその“宇宙”の人。小さな頃から宇宙に憧れてきたという彼女にとって、宇宙は今や夢ではなく現実の中の仕事場。夢を夢のままで終わらせないための方法、そしてプロジェクトにおいて人とチームを大切にするようになったきっかけと思いとは?
11歳で名付けた月探査衛星が宇宙へ
宇宙に思いを馳せながら、日々地上で研究に向かう小仲さんだが、小学生の頃、すでに宇宙に足跡を残している。それは2007年に打ち上げられた月周回衛星「かぐや」を名付けたこと。公募で決まったこの名前をつけた一人が、当時11歳だった小仲さん。
「小さな頃から母がプラネタリウムや日本科学未来館に連れて行ってくれたりしていたので、宇宙に興味はありました。ただ、保育園の時に将来なりたいものを聞かれても特に何もなくて、当たり障りのない職業を答えていたんです。世間が期待しているような職業を答えている自分自身が平凡だな、他に何かないのかなと考えていた時、宇宙飛行士の野口聡一さんが乗ったスペースシャトル「ディスカバリー号」の打ち上げシーンがテレビで繰り返し流れていて、そこで「宇宙飛行士」という単語を見て、あっ、これは職業なんだと気づいて意識しはじめたんです。その後『かぐや』をきっかけにして、宇宙に行くということを現実的に考えるようになりました」
憧れをそのままうやむやにせず、目標への道筋を描き現実の中に落とし込むのが小仲さんの信条だ。宇宙飛行士になるためにどうすればいいかを考え、すぐに行動に移した。
「私にはアレルギーがあるんですが、宇宙飛行士になれますか? どうしたらなれますか? と、JAXAにメールをしたんです。そしてJAXAから、技術が進むのでアレルギーは問題ありません。今はまずコミュニケーションスキルを身につけてくださいとお返事を頂きました。それから現実的にどうやって宇宙に行けるかを調べたところ、今とは違い、当時の宇宙飛行士の募集要項では理系であることが条件だったので、まずは理系を目指すことにしました」
世界の見え方を変えた二つのこと
宇宙への情熱から、理系に行けなかったら人生終わる……くらいの意気込みで受験した国立大学に見事合格し、工学部に進学。大学時代の学業や学外を含めた様々な出会いの中で、小仲さんの世界の見え方は一変したという。
「大学では航空宇宙工学を学びましたが、エンジニアリングの世界自体が面白いんです。私たちの身近にある色々なモノの裏は全てエンジニアが計算したもので成り立っています。例えばこの机はモノを置くだけではなく、人が乗っても壊れないように計算して作っているんだろうなとか、何を見ても、どんな素材でどのような計算の上で作っているんだろう、と考えてしまいます」
大学時代に世界の見え方が変わった出来事がもう一つ。それがチームで協力して何かを成し遂げた経験だ。
「大学で人力飛行機を作って『鳥人間コンテスト』に参加したり、研究室で人工衛星をみんなと協力して作ってみたりしたら、チームで取り組む技術開発が楽しいと気づきました。技術開発は一人ではできないので、それぞれの専門を振り分けて、全員が足並みを揃えて一つのものを作ります。今の仕事での、「なんでもみんなで楽しくやろう」とすることとつながっている気がします」
地上の生活を変える宇宙の光通信
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大学・大学院時代には海外に留学し、その後は日本やフランスの公共機関で職務に励んだ。そして、2023年に三菱電機に入社。現在の仕事はどんなものだろうか?
「人工衛星の光通信に携わっていて、宇宙での光通信を実現しようとしています。現在使われているのは電波ですが、光になれば通信速度が10倍以上になる。例えば、皆さんも自宅のネット環境が光通信に変わることで動画などを快適に楽しめるようになりましたが、宇宙も同じで、人工衛星にある大量の情報を地上とスピーディに送受信できるようになります」
そして三菱電機に入社して、驚いたのがスケールの大きさだという。それは世界中で経験を積んできた小仲さんが今まで見たどの景色とも違うそうだ。
「三菱電機が初めての民間企業ですが、スピード感も予算の規模も違っていて、衝撃を受けました。三菱電機はなんだか、生き生きしている感じがする。開発もプロジェクトもすごい勢いで進んでいます。小型月着陸実証機SLIMも三菱電機が関わっているし、日本の宇宙産業だけでなく世界に対しても影響力がある。それは単純にすごいなと」
とりあえずやってみる、の先へ
小学生の頃に思い描いた宇宙への憧れを一つずつ現実にしてきた小仲さん。さぞや目標に向かってコツコツと進むタイプなのかなと思い聞いてみると、自己分析では全く違うようだ。
「コツコツというよりバンバンいくタイプだと思っています。これまでの私のモットーは、『とりあえずやってみる』でしたが、最近はそれに何かを付け足した方がいいのかなと。一つの目標を達成するために、一直線に進んでもいいけど、色々なところに寄り道してもいいし、目標が変わってもいいと最近思います。それを表現した英語のことわざがあって、『月を目指せば星にたどり着ける』だったと思いますが、どこかを目指して進んでいたら、どこかしらにたどり着いていると。私は、高みを目指して努力していたら思いがけない素晴らしい場所にたどり着いているよ、という意味合いだと捉えています」
『人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ』とは、人類で初めて月に降り立った宇宙飛行士・アームストロングの言葉だが、小仲さんは日々どんな一歩を歩んでいるのだろうか。その手がかりとなる仕事の達成感について、ある感動を教えてくれた。
「光学設計を行いシミュレーションと観測を繰り返しますが、いつもトライ&エラーです。だからこそ設計通りにうまくいった時には幸福を感じます。例えば、今届いているこの光の量を計算してみて、実際の数値と合致すれば計算が合っているとなる。こうやって世の中の事象全部を計算式で説明できてしまう。これはすごいことで、その度に毎回感動するんです。この気持ちは忘れたくないですね」
人こそ全て
豊富な経験を持つからこそ小仲さんが注目を集める存在なのは確かだ。しかし、仕事をする上で大切にするのは、一緒にいるチームの仲間なのだ。
「チームで助け合うことが大事です。私が気付けば率先して手伝うし、困った時には私も助けてもらいます。結局は、人が全てです。アメリカに留学していた時に、数あるプロジェクトの中からどれを研究したらいいかと教授に尋ねたら、「どのプロジェクトでも構わないけど人で選びなさい」と言われました。当時の私は、「だって自分のやりたいことに集中したら他の人は関係ないでしょ」とその意味が分かりませんでした。でもその後色々なチームでの活動を経験するうちに、確かに人こそが一番大事だと気づいたんです」
宇宙を舞台にした大いなるプロジェクトでも最終的には人で決まる。まるで宇宙の真理のような結論だ。ではチームメート同士で助け合いながら、向かう先は?
「今色々な国の企業が宇宙での光通信を実現させようと必死に取り組んでいますが、私たちもそう。現在地上ではGPSや地図アプリを見るのが当たり前ですが、宇宙からの情報は地上の生活を革新するくらい大事な分野なんです。そして、将来人類が月に住むことを想定すると、光通信でないと月と通信ができません。それくらいこれからの社会の行く末を変えるかもしれないのがこの分野です」
心に色を残すような、誰かのロールモデルに
大学時代には60歳までのプランが決まっていたという小仲さん。もちろんその時思い描いた道筋とは違うことも多いそうだが、果たしてこれからどんな未来を目指すのか。
「誰かのロールモデル……、特に女性にとってのロールモデルになれたらと思っています。あとは、こういう道もあるんだと、私の知らない誰かに少しでも影響を与えられたらいいですね。以前言っていたのは、ただすれ違ったり、一度だけ会ったりしたような人でも、相手の心に絵の具をつけるように、カラフルな、ポジティブな色を残せたらいいなと」
小仲さんはどんな困難があろうとうつむかずに、常に視線を上げ続けるに違いない。見上げるその先にあるのは、宇宙という小さな頃からの目標だ。
「私にとって宇宙という存在は、まだ行けていないけど、いつもその場にいることを想定してシミュレーションする場所です。最近は宇宙飛行士を見ると、憧れよりも、「悔しい」という気持ちの方が大きい(笑)。今でもやっぱり宇宙には行きたいし、そのためにも光通信をもっと理解したい。それに、自分が関わったモノがまた宇宙に行ってほしいし、それが世界が変わる何かのきっかけになったらエンジニアとしてうれしい。本当は私が宇宙に行ってその技術を使いたいですけどね(笑)」
INTERVIEWEE
三菱電機情報技術総合研究所小仲 美奈
大学院卒業後、日本やフランスの公共機関を経て、2023年三菱電機入社。2007年打ち上げの月周回衛星「かぐや」の名付け親の一人になったことから宇宙に行くことを具体的に考えるようになり宇宙飛行士を志す。宇宙だけでなく、海も好きでやりたいことは山ほどある。
※掲載されている情報は、2024年1月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム