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Voices

2024.06.28

異国の空を守るため、まずは小さな仕事を手がかりに

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異国の空を守るため、まずは小さな仕事を手がかりに 異国の空を守るため、まずは小さな仕事を手がかりに

三菱電機の防衛事業は、日本にとどまらず、異国の“空”を守ることにも一役買っている。2023年10月に防空装備である警戒管制レーダーをフィリピンに納入したプロジェクトを推進したのが、三菱電機電子通信システム製作所の小柳智之さん。小柳さんにこれまでを振り返ってもらいながら、携わる仕事の醍醐味や難しさについて話を伺った。小柳さんのキャリアや思考の足跡をたどる中で見えてきた、大きな仕事の達成に向かうためのすべとは?

映画のスター・ウォーズが好きでこの世界へ

小柳さんが開発に携わった警戒管制レーダーは、日本から遠く離れたフィリピンで稼動している。人々の生活の安全を守る上で重要な役割を担う、社会的意義の大きいこの仕事について、ご本人はどう捉えているのだろうか?

フィリピンに納入した警戒管制レーダー初号機(固定式警戒管制レーダー)

「国を守るとか、防衛に対しての思い入れが人並み以上か? と聞かれると、そうは感じていません。納入後に行われた演習で、私たちが造ったレーダーの探知能力が問題なく機能していて、納入先の方が“素晴らしい” と褒めてくれたという話を人づてに聞き、しっかりと役立っているようで良かったなと思いました」

造って納めたものがしっかりと機能していることに安堵する小柳さんの一見冷静な視点は、まさに“仕事人”のようだ。しかし、今の仕事にも通底している「世の中に役立ちたい」という熱い想いが、小柳さんを今の仕事へと導いた。

「大学受験の時に学部を選ぶ際に、科学技術を使って何かしら世の中の役に立つようなものを、と思って工学部を選びました。当時は全くどんな仕事をしたいのか具体的に考えていなかったのですが、就職活動を始める少し前くらいから防衛・宇宙関連の分野にすごく興味が出てきました。というのも、私は映画の『スター・ウォーズ』シリーズが好きで、映画に登場する宇宙戦闘機がかっこいいな、と調べていくうちに、防衛に関する本や資料を読み漁ったりするようになりました。防衛・宇宙事業の分野で三菱電機は日本で有数の企業だと知って、入社したいと思いました」

理論から実践の場へ

晴れて三菱電機に入社した後、小柳さんを待っていたのは大学時代の研究とのギャップだった。

「入社一年目の7月に、最初の職場である情報技術総合研究所(以下、情報総研)に配属されたのですが、大学時代に比べて技術的なハードルが上がったと感じました。もちろん個人差がありますが、大学での研究は大したことをやっていなかったんだな、と思い知らされました。配属後、いきなり特許を申請できるような開発をするように言われまして、“まだ何にもやっていないのに!? ”と思いつつ、周りの人に相談しながら、なんとかネタになるものを作りました。その3週間の苦労と工夫の毎日を今でもよく覚えています」

その後、モノづくりに携わりたいと、現在所属する電子通信システム製作所に異動願いを出した。いわば理論から実践へと変わる、ドラスティックな異動だった。

「本が好きでよく読むのですが、例えばレーダーの技術にしても、 本を読めばどういう技術が使われているのかはなんとなくわかります。でも、実際に設計しようとすると、本をちょっと読んだくらいの知識では全く何もできないことが、やり始めるとよくわかってきました。情報総研で研究していたこともある意味で学術書などに書かれる理論のようなもので、研究内容を元に現実世界でものを作るとなると難しい。でも、理論を理解しながら、現実の状況とうまく折り合いをつけないと進められないので、この両方が必要なんです」

膨大で幅広い知識量で臨む

現在、小柳さんは海外向けのレーダーに関するプロジェクトを担当。システム設計や工程管理、コスト管理と、関わることは多岐にわたる。そこでまず必要となるのは、膨大で幅広い知識だ。

「今担当しているフィリピンに納入するレーダーで言えば、一人二役のような役割で設計とマネジメントを両方ともやる必要があります。モノづくりの最初のステップとしてはシステム設計から入ります。そこでこのレーダーではどんな機能や性能を実現するのか、レーダーはどういう部品で構成されるかを決めて、調達方法を含めて関係する設計部門に相談します。その上で、スケジュールや予算の管理もしなくてはいけません。つまり、技術部だけでなく、資材、営業、経理の方たちとも連携するので本当に幅広い知識が求められています」

幅広い知識と最新技術を総動員することでようやく形になる。その瞬間に達成感を感じる、と小柳さんは言う。

「製作所内で組み上がったものを実際に見た時や、現地で製品が設計通りに動いているのを見た時に、やりがいを感じます。現在担当しているものが物理的に大きいことも関係していますが、フィリピンのレーダー1基目が初めて出来上がったのを見た時は、ついに! と感慨深かったです」

仕事としてやるしかない、という覚悟

完成した時の喜びもひとしおだったというフィリピンの警戒管制レーダー。それもそのはずで、プロジェクトがスタートした4年前に時計の針を戻すとその前途多難ぶりが伝わってくる。

「私自身、設計から始めて、造って、納める、という一連の流れ全てに携わるのは、このフィリピンのプロジェクトが初めてでした。専門用語も多く、最初の数ヶ月は、関係者が何を話しているのかさっぱりわからず、本当に困り果てました。しかしすぐになんとかなるわけではなく、少しずつ話を聞きながら、できる範囲で勉強しながら、少しずつ色々なことを知っていくしか手はありませんでした。自分で勉強した時に頼りにしたのは、主に本でした。読書が好きで、仕事に関係するもの、しないものもどちらも読みます。何かを知りたい、学びたいと思って本を読むことには抵抗がないですね」

話を聞いて想像するだけでも、とてつもない勉強時間が必要なのは確かで、気が遠くなるほどの量に震えてしまう。小柳さんは、どうして続けられるのだろうか?

「モチベーションですか? 単純に“自分の仕事としてやるしかない”という覚悟だけです。周りに相談する、自分で考える、調べる、ということを少しずつでも徹底的にやっていくしかありません。あとはゴールまで年数もかかるので、その間に色々な仕事が都度発生します。そのため、細かい単位でホールドポイントを自分で作って、一つずつ進めるように心がけています」

仕事を早めに進めることが、製品の質につながる

加えて小柳さんが仕事を進める上で心がけているのが、早め早めに仕事を進めること。誰もがわかっているが実際に行うのはなかなか難しい。

少しでも早めに進めて、他の人に渡す。その積み重ねが、結果的にその製品の質に関わってくるのかなと思います。仕事が多くなってくると、周りの人のスケジュールにも関係してくるので、自分一人だけの問題ではありません。私の場合、難しそうな作業であれば、どうしたら早く終わるかを事前に考えてから着手する癖があります。がむしゃらに手を動かせばいいという時は、それだけなのですが(笑)」

このような周りのメンバーへの配慮が、プロジェクトの質向上につながっていると小柳さんは考えている。その大局的な視点は、どうやら今のポジションとも関係しているようだ。

「2024年4月からはグループリーダーという役割を与えられました。私より上の方が異動されて、気がついたらそういうことになっていたという、いわば成り行きですが(笑)、責任感が芽生えた気がします。よく考えているのは、関係者とのコミュニケーションですね。難しいのは、関係部門の中でどれくらいの情報を共有すべきか。例えば、最初は自分と特定の誰かだけで終わるつもりが、後になって他の人にも伝わっていないとまずかったとか、経験しながらわかってくることも多いです。どうしていくのがいいかというのは、おそらく今後もずっと課題であり続ける気がします」

遠くを見据えて目の前のことを

フィリピンの警戒管制レーダーのプロジェクトはまだ道半ばで、今後も残りのレーダーの納入が続く予定だ。1基目の製作過程を振り返りながらも、小柳さんの目は未来と足元を同時に見ている。

「今回初めて一連の工程を経験して納入までこぎ着けましたが、振り返るとこうすればよかったという反省や教訓が色々と出てきました。製品が設計通りに出来上がってきても、いざ動かしてテストしてみると改良点が見えてきます。でもそのタイミングでは劇的には変えることはできないので、次に活かしていこうとメモに残しました。次はその辺りを意識して、より良いものを作っていきたいです。全てのレーダーの納入が終わるのは数年後かもしれません。それくらい長丁場のプロジェクトですが、自分は“今を生きる”タイプなので、将来に目を向けつつも、今目の前にある仕事を一つずつやっていこうと考えています」

小柳 智之
INTERVIEWEE

三菱電機電子通信システム製作所小柳 智之

2012年入社。大学卒業後、三菱電機に入社し、4年間情報総研でアンテナ・電波伝搬に関する研究開発を行う。異動後は各種レーダーに関するプロジェクト業務を推進し、現在はプロジェクトマネージャーとして従事。家で何もしない時間が、リラックスできる至福の時間。

掲載されている情報は、2024年4月時点のものです。

制作: Our Stories編集チーム

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