Project 04
高精度な位置情報サービスで
人々の生活を支える
準天頂衛星システム「みちびき」
プロジェクト
宇宙から
センチメートルレベルの
測位が可能に
世界的に注目を集める日本の宇宙開発事業。
数多くの宇宙開発プロジェクトに携わる三菱電機は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が主導する準天頂衛星システム「みちびき」の開発を担っています。位置情報サービスを実現するために、クライアントである内閣府への提案から、宇宙空間で稼働する衛星や地上設備の設計、製造、衛星打ち上げ後のサポートに至るまで、業務は多種多様。
関わるスタッフは、一人ひとりがプロフェッショナル。
三菱電機だからこそできる、国家インフラを支えるプロジェクトの核心に迫ります。
正確な位置情報サービスは、人々の生活を支える国家インフラひとつ。
最先端のテクノロジーが暮らしの「当たり前」を変えていく。
三菱電機の「みちびき」
のココがポイント!
精度の高さが特徴の日本版GPS。
センチメートル級の正確さを誇ります。
数多く手掛ける宇宙事業の1つとして、三菱電機は2000年代から日本の衛星測位システム「みちびき」の開発に携わってきました。衛星測位システムとは衛星からの電波によって位置情報を計算するシステムのことで、アメリカのGPSが有名。「みちびき」は、アメリカのGPSと互換性を持った信号を日本近辺で安定的に提供するだけでなく、さらにGPSなどの測位信号がもつ誤差を補正するデータを提供するため、より精度の高い位置情報が得られるようになります。
「みちびき」最大の特徴は正確さ。常に日本の真上から信号を送信し、誤差の原因となるビルなどで反射した信号の影響を低減できるほか、信号が受ける大気の影響などを計算して補正する仕組みによって、ずれを最小限に抑えた測位を可能にしています。GPSのみの測位では数メートルの誤差があるとされていましたが、「みちびき」との組み合わせにより、対応する受信機を用いることで誤差が数センチ単位にまで縮小されました。
Interview
社員インタビュー
日本の測位衛星システムを構築する
国家プロジェクト。
社会に価値を、子どもに夢を、三菱電機から。
「忘れられない種子島での打ち上げの瞬間。『みちびきがんばれー』という声援や、子どもたちのきらきらとした表情・眼差しを前にして、人々に夢を与える仕事だと改めて実感しました」(伊藤)
伊藤は鎌倉製作所の宇宙システム部で、人工衛星のシステム設計業務を担当。2016年から「みちびき」の設計に携わり、2017年には2・3・4号機の設計と打ち上げに貢献した。設計においては、推進系・構造系などサブシステムごとに専門家がおり、伊藤はその専門家統括する部署から「みちびき」を支えている。
一方の竹内は、本社の営業として「みちびき」に携わった。見積の作成やクライアントとの交渉、依頼内容のヒアリングなどの対外的な役割を担うとともに、社内では工場の技術者たちに顧客のビジョンや要求を共有し、社内関係者を牽引する役割を担う。
「多くの人とモノが一斉に動く大規模なプロジェクトで、価格の規模も大きなものになります。内閣府に対して、その価格の妥当性を丁寧に説明し、理解を得るのが大変でした」(竹内)
2・3・4号機を打ち上げた2017年当時を設計者の視点から振り返る。
「3機連続で、2か月おきに打ち上げていくプロジェクトは前例が無く、これまでにないタイトなスケジュール。完成した機体の試験をしながら次の機体の設計をして、さらにまた次の機体の図面を描く並行作業に苦労しました」(伊藤)
人工衛星は部品点数が約70万点と自動車の数十倍、大きさは大型バスほどと大規模なシステムであるが、衛星全体の重心位置は数mmレベルでの管理が求められるなど、効率的かつ精緻な設計が求められる。
それぞれが感じた大きなハードル。多分野のプロフェッショナルの血と汗の結晶が集まる国家的な大プロジェクトを進めるうえで、その視点の多様さと深さが、現在の位置情報サービスの精度につながっている。
センチメートル単位の正確さを誇る
「CLAS」を実現。
「DS2000」による信頼感も
強みになっています。
「みちびき」はなぜ、センチメートルレベルの高い精度で測位できるのか。そのカギを握っているのが「CLAS※」というサービスだ。衛星測位では4機以上の衛星からの信号を受信し、これら衛星との距離の計測値を用いて現在位置や時刻を算出する。この距離には、衛星の軌道・時計誤差に起因する誤差、電離層・対流圏における伝搬遅延に起因する誤差が含まれており、測位精度劣化の要因となっている。CLASは国土地理院が全国に整備する「電子基準点※」のデータを活用し、この距離に含まれるこれらの誤差をそれぞれの成分ごとに算出し、「みちびき」から配信可能なサイズの測位補強情報とすることにより、衛星信号の受信のみで利用可能なセンチメートルレベルの測位サービスを提供している。
「個別の基準点を立てるなどせずとも、センチメートルレベルの測位が可能になったこともメリットの一つです」(伊藤)
また、「みちびき」の機能的な特徴としてもう一点、標準衛星プラットフォーム「DS2000」の導入が挙げられる。これは三菱電機が長年にわたる多数の衛星開発の経験を活かし、開発・標準化したものだ。衛星は、通信や放送、気象など、それぞれ目的とするミッションは多様な一方で、軌道までの移動や太陽電池の展開など、共通する機能もある。それらの機能を実現するプラットフォームとしてパッケージにしたものが、DS2000だ。衛星に必要な基本的機能を備えたDS2000に、固有のミッションを実現するための機器を搭載することで、目的に応じた衛星をつくることができるという仕組みである。三菱電機は国内外を問わず数々の衛星でこのプラットフォームを採用しており、累計の軌道上での運用年数は120年を超え、国内トップの実績を誇る。
「DS2000の活用によって、製造コスト低減や工期短縮を実現できるだけでなく、過去の衛星の『お墨付き』により信頼を積み重ねています」(竹内)
「みちびき」には数多くの高度な技術と過去の知見の蓄積が凝縮されている。
※Centimeter Level Augmentation Service:センチメータ級測位補強サービス
※電子基準点:測位衛星からの電波を連続的に受信する、地球上の位置や海面からの高さが正確に測定された点
5・6・7号機の打ち上げにより、自律測位へ。
「なくてはならないもの」となる
開発を目指しています。
2010年に初号機を打ち上げ、2018年に4機体制を確立。次なる7機体制を目指して、地上設備と衛星を整備中だ。4機体制の現在は、日本上空にいる「みちびき」と他国の衛星の情報を組み合わせることで測位を可能にしている。7機体制が実現すれば常に日本上空に「みちびき」4機がそろう状態になり、他国に頼らない衛星測位が可能になる。
「とにかくまずは5・6・7号機の打ち上げを成功させたいです」(伊藤)
「CLASに代表されるように、「みちびき」のプロジェクトには地上設備も非常に重要です。衛星だけではなく、地上設備を担当するメンバーの活躍にも注目してほしいですね」(竹内)
多くの場面で人々の生活を支える「みちびき」。その高精度な測位情報は、地図やカーナビのほか、通学時の子どもの見守りにも活用されている。
「僕の親戚の子どもも、見守り機能がついたキーホルダーを身に付けています」(伊藤)
自身の仕事が実際に人々の暮らしを支えているという実感が、モチベーションの源だ。竹内は、「みちびき」の高精度な測位を活用した新たなビジネスの可能性に期待する。
「センチメートル単位での正確さがあれば、ドローンを使った自宅への宅配…といったようなサービスも夢ではなくなるかもしれません。自動運転の支援や農業への活用などに向けた様々な実証・実装が進められています」(竹内)
「あって便利なもの」から、「なくてはならないもの」へ。サービスの実用化・拡充を通じて、国家インフラとしての「みちびき」の存在感は増す一方だ。
※記事、所属・役職及び写真は取材当時のものです。