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STORIES / INTERVIEW
グローバル企業の研究開発拠点やスタートアップも増え、産学公民の連携がますます活発化する街・横浜。東京近郊かつ最大の政令指定都市として約370万人が暮らし、生活者が抱える多種多様なニーズが集積するうえ、国際交流も盛んであるなど、イノベーション創出の土壌が豊かな点が大きな特徴だ。
こうした横浜を拠点に、企業や大学、行政の垣根を越えた共創の機会を提供する「横浜未来機構」。そして2025年1月、横浜・みなとみらい地区に新たな共創空間「Serendie Street Yokohama」をオープンさせた三菱電機の両者が、横浜という街で描く未来の姿とは?
オープンイノベーションを推進している三菱電機が横浜未来機構の会員であることから実現した今回の企画。横浜未来機構 事務局次長の亀若智洋氏、三菱電機 DXイノベーションセンター 戦略企画部 次長の楓仁志氏、同じく戦略企画部の花田太郎氏に話を聞いた。
  • 亀若智洋氏 Tomohiro Kamewaka
    一般社団法人 横浜みなとみらい21の職員であり、横浜未来機構事務局次長を務める。産学公民の垣根を越えた共創の仕組みづくりやネットワーク構築の推進に取り組む。
  • 楓仁志氏 Satoshi Kaede
    三菱電機 DXイノベーションセンター 戦略企画部 次長。「Serendie®」ブランドを社内外へ浸透させ、新たな価値の共創を目指す。
  • 花田太郎氏 Taro Hanada
    三菱電機 DXイノベーションセンター 戦略企画部。主に事業部間連携やパートナー企業との協業企画などを担当。Serendie Street Yokohamaの運営にも深く関わる。
オープンイノベーションのハブに。Serendie Street Yokohamaは偶発的なアイデアやコラボレーションを生み出す共創空間
  • ——まずは横浜未来機構の概要についてお聞かせください。
  • 亀若 横浜未来機構は2021年3月に横浜で設立された会員制団体です。「YOKOHAMA CROSS OVER」というキーワードのもと、企業、大学、行政などが垣根を越えてイノベーションを起こそうという動きが広がり、それを具体化する場として始まりました。現在は大小さまざまな企業、大学、各種団体など100を超える会員が在籍し、異なる業種・セクター間で連携できるコミュニティや仕組みを提供しています。
  • ——イノベーションを促進する背景には、どのような課題感があったのでしょうか?
  • 亀若 「変化が予測しづらい時代」と言われる昨今、1社や1組織の力だけでは、新規事業の創出や社会課題の解決が難しくなってきています。外部の知見や人材と連携しながら進める「オープンイノベーション」の重要性が高まっているのです。そのために、横浜未来機構がきっかけづくりや情報のハブとして機能したいと考えています。
  • ——続いて、三菱電機が推進するSerendie®およびSerendie Street Yokohamaの概要を教えてください。
  •  Serendie®は、三菱電機がこれまで培ってきたモノづくりの強みに、デジタル技術やデータ利活用を掛け合わせることで、新しい価値を共創しようというコンセプトで立ち上げたデジタル基盤です。「セレンディピティ(Serendipity)」と「デジタルエンジニアリング(DE)」を掛け合わせた造語で、社内外のパートナーとの偶発的なアイデアやコラボレーションを生み出していくことが主な目的です。

    このSerendie®のコンセプトを具現化する共創空間として、2025年1月に横浜・みなとみらい地区にオープンしたのがSerendie Street Yokohamaです。イベントスペースや実証実験ゾーンを設け、さまざまな企業や大学、行政の方と共同でプロトタイピングやデモンストレーションを行える環境を整えています。
  • 花田 三菱電機は老舗の総合電機メーカーとして多様な事業を展開し、社会インフラや家電など広範囲にわたる製品・サービスを提供してきました。そのため、創業以来の長年の歴史から、モノづくりへの知見や豊富な顧客基盤を蓄積しているのです。それらを活かしながら、社内外の垣根を越えて新たなソリューションを生み出していきたい。そんな「開かれた場所」を横浜に構えたことが、大きな意味を持つと思っています。
オープンイノベーションを促進しやすい環境が整っているのが横浜の強み
  • ——三菱電機が横浜を新たな拠点に選んだ背景を教えてください。
  •  新しいことに挑戦しやすい雰囲気を感じたからです。横浜は研究開発拠点やスタートアップ、大学などが集まっているのに加え、ビジネスの観点でも刺激が多い街です。また近年は「音楽の街」としてコンサート会場が増えていますし、商業施設や観光要素での盛り上がりもあります。

    最大の政令指定都市として多くの方が暮らしているだけでなく、外からも人が集まりやすい環境、多様なニーズやデータが集積する街全体に魅力を感じました。
  • 花田 私個人としては、横浜は都市と地方の良い部分が混ざり合っていると感じます。みなとみらい地区の再開発が進む一方で、少し足を伸ばせば豊かな自然が広がるエリアや長い歴史を感じさせる街並みがある。

    ビジネスの拠点が集中しているだけでなく、住む人や遊びに来る人が交錯し、そこから新しいトレンドやニーズが生まれやすいのが横浜の強みだと思います。
  • ——横浜未来機構から見た横浜の強みは?
  • 亀若 オープンイノベーションを促進しやすい環境が整っている点だと思います。スタートアップ経営者、技術者、研究者などによる、草の根的なコミュニティが横断的に動いているのです。「組織の垣根を超えて、面白いことを仕掛けてみよう」という部活動的な盛り上がりが生まれやすい土壌は、横浜の強みですね。

    また、港町として国際的な交流拠点の歴史があるので、海外企業の進出やグローバルな人材が集っているのも特徴です。
  • ——そうした横浜で活動を続ける横浜未来機構の強みと具体的な取り組み例を教えてください。
  • 亀若 横浜未来機構の強みの1つは、横浜に根ざした人材・情報ネットワークです。そのネットワークをより強固にしていくために、「クロストーク」という交流会を月に1回開催しています。

    クロストークはただ集まって名刺交換をするような場ではなく、1つのテーマをもとにした意見交換や、新たなアイデアをざっくばらんに話し合う場として設計しています。たとえば、企業同士が「新規事業を立ち上げたいが、どこから手をつけるべきか分からない」と悩んでいるうちに意気投合し、私たちが仲介に入ってプロジェクト化が進んだというケースもあります。

    幅広い会員がいるので、自社単独では出会えなかった相手と交流できるのもメリットですね。
  • 花田 私も先日クロストークに参加したのですが、非常に刺激を受けました。会員の皆さんがとても積極的で、思いもよらないソリューションが生まれる予感がしました。
プロジェクトを継続する仕組みの有無が、共創の成功を左右する
  • ——オープンイノベーションには多種多様なプレイヤーが必要とされていますが、大企業としての意義をどう捉えていますか?
  •  三菱電機は事業部ごとに縦割りの傾向があります。だからこそ、そこに社外の方が加わると意外な化学反応が起きやすいのです。たとえばある事業部にとっては「お客様」である他社が、別の事業部にとっては「共同開発パートナー」だったりします。そうした複雑な組織に第三者が関わることで、円滑さや新たな気づきが生まれることもあるのです。

    オープンイノベーションを推し進めることで、社内でもイノベーションが起きやすくなるメリットがあると考えています。
  • ——オープンイノベーションの現場に立ち会う横浜未来機構として、実際に組織が共創を続けていくうえで大事なポイントは何だと感じますか?
  • 亀若 共創パートナーとの相互理解と信頼関係、そして組織内の推進体制がカギですね。オープンイノベーションの良さを担当者レベルだけでなく、ミドル層から経営層まで含めて理解してもらわないと、どこかで話が止まってしまうことが多いのです。大企業であればなおさら、人事異動などで担当者が定期的に入れ替わる可能性もあります。

    担当者が変わっても意志が引き継がれ、プロジェクトを継続する仕組みがあるかどうか。そこを整えておくと、共創は成功しやすいですね。
実証実験のしやすさが魅力。デジタルネイティブ世代にも期待
  • ——「DX時代」と言われながら、いまだデジタル人材確保が課題になっている企業も多い現実があります。そんな中、共創を通して、産学公民のデジタル人材と横浜の街が掛け合わさることについては、どう考えていますか?
  • 亀若 そもそも横浜は街づくりにおいて行政や企業がスムーズに連携し、実証実験なども柔軟に実施しやすい土壌が整っています。新たなデジタル技術も試行しやすいのです。
  • 花田 デジタル技術の社会実装には実証実験が不可欠ですが、たとえば、みなとみらい地区の道路は道幅も広く整備が進んでいるので、モビリティ系の取り組みに向いています。地区内ではオフィス空間のスマート化なども進んでいますよね。複数の企業が連携すれば、自動搬送ロボットでビル間の物流を効率化するような試みも可能だと思います。

    こうした実証実験を積み重ねていけば、横浜はデジタル人材にとって新たなチャレンジをしやすい街になると思います。その結果、企業も大学も行政も優秀な人材を呼び込みやすくなるのではないでしょうか。

    また、今の若い世代はスマートフォンやデジタル技術に慣れ親しんでいる、いわゆるデジタルネイティブです。彼らが持つ感覚やスピード感は、アナログな世代の我々とは異なります。そうした人材が横浜の街で、産学公民さまざまな主体と交わることで、新たなサービスや仕組みが生まれやすくなるはずです。
  • ——デジタル技術の活用を目指す三菱電機は、街づくりにはどのような形で入り込んでいけると考えていますか?
  •  三菱電機は社会インフラの製品や技術も多く手掛けているので、横浜市や外部の組織の皆さんと連携すれば、交通機関やオフィスビルなどの都市機能に、もっとデジタル技術を活かせるはずです。

    たとえば電車の運行情報やエレベーターでの人の移動状況の稼働データを組み合わせて、「帰宅途中に駅ビルでテイクアウトするのに適したフードを提案し、食品ロスを減らす」など、生活者や環境に寄り添った新サービスを生み出せるかもしれません。街の課題と企業の技術が出会えば、社会実装のスピードが一気に加速すると思います。
新しい挑戦を歓迎する街・横浜で共創の文化を根付かせる
  • ——今後、横浜未来機構と三菱電機が連携して生み出したい未来のイメージを教えてください。
  • 亀若 横浜にはもともと、何か新しいことに挑戦し続けてきた歴史があります。そんな「新しい挑戦を歓迎する街」で、産学公民がさらに一歩踏み込んで共創を続けていく文化を根付かせたいですね。

    Serendie Street Yokohamaのように、企業が「オープンに共創しよう」と拠点を構えてくださることは大歓迎です。「さまざまな組織や人が垣根を越えて挑戦している」と外部の方からも評価されるような街に育てたいです。
  •  私ども三菱電機の目標としては、将来的に「三菱電機のデジタルといえば横浜」と呼ばれるくらいに存在感を高めていきたいですね。今はSerendie Street Yokohamaがオープンしたばかりですが、徐々に社内外のプレイヤーを集め、増床しながら、5年、10年単位で発展させていきたいです。
  • 花田 横浜は国際的なイベントや大会も多いですし、世界の主要都市とも共創できるポテンシャルを持つ街だと思います。ここで生まれたイノベーションを、日本全国はもちろん海外にも広げていきたいです。そのためには、三菱電機だけでなく産学公民の連携が欠かせないので、横浜未来機構さんとも一緒に進めさせていただきたいと考えています。