2016年11月2日
みんなの夢乗せ宇宙へ。
「ひまわり9号」打ち上げレポート from種子島
11月2日、気象衛星「ひまわり9号」が打ち上がりましたね!今や天気予報に欠かせない気象衛星。どうか無事に打ち上がってほしいという願いを込めて、急きょ種子島に駆けつけました!私にとって約6年ぶりとなる種子島での打ち上げ見学。しかも今回はプレス席でなく、一般見学場所「長谷公園」で約1000人の宇宙ファンと打ち上げのスリルと感動を共有。宇宙愛にあふれ、ユニークな方たちとたくさんの出会いがあり、今回も忘れられない旅に。現地に行けなかった方にも現場の雰囲気をお届けしましょう!
宇宙好きが集結!長谷展望公園
今回、ロケット打ち上げ見学に訪れる長谷公園はJAXA種子島宇宙センターの発射台から北西の方向に約6km。島南部の南種子町に4つある見学場所の中でもっとも規模が大きく、JAXA放送が生中継され発射のカウントダウンも聞こえるため、人気の高い見学場所だ。前日からテントを張って場所取りをするツワモノも多いと聞く。
さらに今回のロケット打ち上げは、「特別仕様」であり、注目度が高い。漫画「宇宙兄弟」の作者、小山宙哉さんが描いた原画を、「夢」をテーマに全国から寄せられた約3万枚の写真や絵で「モザイクアート」にし、ロケットにペイントされているからだ。これは前代未聞、モザイクアートという点では「世界初」の試みだ。長谷公園では小山さんを招いてカウントダウンイベントが催されるというから、期待が高まる。
「ひまわり9号」の打ち上げ予定時刻は11月2日15時20分。私たちは13時過ぎに長谷公園に到着したが、公園の前方はすでに場所取り終了!シートで埋め尽くされていた。その最前列には、キャンプ用の椅子やクーラーボックスを並べ、あたかもデイキャンプのように楽しそうに過ごすご家族が。聞けば宮崎から前日、現地入りしたという。「それでも端のほうしかとれなかった」とお父さんは少し悔しそう・・・。
見学客が見つめる視線の先には、静かに打ち上げを待つH2Aが。その先端には「ひまわり9号」が搭載されているはず。雲が多いのがやや気になる・・・。
打ち上げまでの時間に長谷公園内をふらふら歩いていると、H2Aロケットの超精巧なペーパークラフトを発見!誰が作ったんだろう・・・と訪ねて出会ったのがマゲシマンfrom種子島さん(@mageshian1025)こと崎田善昭さんだ。崎田さんはツイッターで地元ならではのロケット打ち上げ情報や種子島の星空画像をアップされていて、私もフォローさせて頂いていた。どんな方だろうと興味津々だったのだ。ついにお会いできました!
崎田さんの本業は農業。からいもやサトウキビを育てているそうだ。日本宇宙少年団のリーダーさんでもある。3~4年前から100分の一のペーパークラフトを作り始めたそうで、今回の機体には、ちゃんとモザイクアートが再現されている!その精巧さにおののく。通常はロケット打ち上げを上里の採石場(←タクシーの運転手さんもおすすめと言っていた)など地元の人だけが知る穴場で見るそうだが、今回は小山さんにペーパークラフトを渡したいと長谷公園に(この後、小山さんにプレゼントしたところ、小山さん大喜び!)。発射約12時間前にロケットが組立棟から発射台に移動する際は、2か所を移動しながら写真に撮るという。これから種子島に取材に来るときは、絶対に崎田さんに穴場を教えてもらおうと心に誓う。
そしてお待ちかねのカウントダウンイベントが始まった。小山宙哉さんが登壇し、漫画「宇宙兄弟」を描く際のエピソードの数々を披露。小山さんの実体験がけっこう漫画に反映されているそうだ。NASAにスペースシャトル発射を見に行った時のこと、奥様の出産体験など・・・(個人的には出産時に奥様の眉間のしわがすごくて、「後に残ったらいけない」と思った小山さんが必死にしわを伸ばしたお話がツボだった。)
打ち上げの瞬間!雲を突き抜けてGOロケットロード!
そうこうしているうちに、打ち上げ予定時刻が迫ってきた。今回、私は種子島に宇宙留学に来ている小学生、住田勇樹君ご家族と一緒に打ち上げの時を迎えることに。広島出身の勇樹君はロケット打ち上げを見るのは初めてとのこと。広島から駆け付けたご家族も一緒に、「その時」を迎える。約10秒前になると自然に長谷公園に集う1000人が声をそろえてカウントダウン。
「5, 4, 3, 2, 1・・・リフトオフ!」
ぴかっと輝くオレンジの閃光、少し遅れて届く「どどど・・・」とおなかに響く振動。勇樹君は必死に写真を撮ろうと構えていたが、ロケットは打ち上げから約10秒後には雲に突っ込んで見えなくなってしまった。「えーっ、そんな・・・」と思った次の瞬間、雲の合間から宇宙を目指し、まっすぐ上昇するロケットが姿を表す!見ていた人が一斉にロケットを指さし、大歓声が湧きあがった。落胆の後のサプライズ。勇樹君家族は感激してハイタッチ。勇樹君は「光がものすごく強かった」と言い、いつまでも空を見上げていた。
ドリームアートロケットを送り出して
打ち上げを見守っていた小山さんは「NASAでスペースシャトルの打ち上げを見たのは6~7年前で、久しぶりに打ち上げを見ましたが、やっぱりいいですね~。シャトルよりH2Aのほうが光が眩しかったし、速かった。あの光ですごい驚く。『こんなに光るの?』と。だいぶん打ちあがってから、ものすごい音が聞こえてくる。あの音は人類が作り出せるものの中で一番大きい音らしいです。そういうのを聞いてもわくわくしますよね。今回は雲が多かったけど、雲の切れ間から一瞬見えたのがよかった。その瞬間にみんなが指さす。一瞬だけ見えたことによって、みんなが注目するという見え方が面白かったです」と打ち上げの興奮を饒舌に語ってくれた。
そして小山さんはモザイクアートに「夢」を応募してくれた子供達には、素敵なメッセージを。「皆さんが描いてくださった夢が無事に宇宙に届いた。これからの人生でふとした瞬間に『俺の、私の夢は一回宇宙に行ったんだ』と自慢していいと思う。その先の節々で思い出して勇気にしてもらいたいですね」と。
宇宙飛行士になりたいという夢を持ち、実際にこのプロジェクトに写真を応募した小学5年生の大城冴和(さわ)君も打ち上げを見守っていた。「ロケットの光が『希望の光』に見えて感動しました。自分の分身が宇宙に行ったような気持ちです。今度は自分が宇宙飛行士になって宇宙に行けるように頑張りたい」と目を輝かせながら話してくれた。「いつか宇宙に行ってインタビューさせてね」と頼むと「はい」とにっこり。楽しみにしてますよ~。
宇宙に一番近い島、種子島
ロケット打ち上げから27分後、「ひまわり9号」は予定していた軌道で分離され、打ち上げは成功した。長谷公園で見守っていた人たちから拍手と歓声が沸き上がった。「ひまわり9号」の仕事はこれからだ。
「ひまわり9号」といえば、種子島で面白いものを発見。上妻酒造さん(「宇宙に一番近い蔵」だそう)が打ち上げのたびに限定販売している焼酎・南泉だ。「ひまわり9号」記念ボトルには、スペースシャトルで宇宙を旅した宇宙酵母が使われている。祝杯用にさっそく購入。ちなみに12月に打ち上げ予定の「こうのとり」6号機の南泉も販売されていた(今ならオリジナル記念マグネット付き!)
種子島のいたるところにロケットのモニュメントがあり、コンビニや漁協でも宇宙グッズが売られている。特に宇宙センターがある南種子町ではどこの食堂に入っても、宇宙飛行士のサインやロケット打ち上げ写真が飾られている。町の人たちは、自分の家の庭先で打ち上げを見るという。ここは宇宙に一番近い島であり、宇宙はもはや日常なのだ。
打ち上げ翌日、西之表港に行くと以前の「打ち上げ成功祈願」の旗が「祝!打ち上げ成功」に変わっていた。次は12月9日「こうのとり」6号機の打ち上げだ。「夜の打ち上げ、しかもH2Bはすごいよ!」と打ち上げを見慣れたはずのタクシーの運転手さんが興奮気味に教えてくれた。また戻ってきたい。あなたも是非、訪れてみてください。宇宙に一番近い島に。
2016年12月2日掲載 / 文: 林 公代
林 公代(はやしきみよ)
福井県生まれ。神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団の情報誌編集長を経てライターに。NASA、ロシア等現地取材多数。『宇宙へ「出張」してきます』(古川聡宇宙飛行士他と共著、第59回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)、『宇宙就職案内』『宇宙遺産 138億年の超絶景!!』など著書多数。
三菱電機サイエンスサイトDSPACEで、コラム『読む宇宙旅行』好評連載中!