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読む宇宙旅行

2013年12月12日

2016年宇宙へ。日本人初の「イケメン」宇宙飛行士!?
大西卓哉さんの素顔

2013年11月29日、国際宇宙ステーション長期滞在が決まり、記者会見を行う大西卓哉宇宙飛行士。

2013年11月29日、国際宇宙ステーション長期滞在が決まったJAXA大西卓哉宇宙飛行士。 全日空の副操縦士時代の経験をいかして、ソユーズ宇宙船でも船長補佐を担う。「両方に共通するのは緊急時の対応。それが自動化が進んでも人間が乗っている理由。コマンダーと連携を取りながら臨んでいる」と大西飛行士。(提供:JAXA)

 2016年6月から、大西卓哉JAXA宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在することが決まった。若田飛行士らベテラン宇宙飛行士の宇宙滞在が続いたが久しぶりの30代、しかも野口聡一飛行士曰く「日本人初のイケメン」宇宙飛行士!記者会見でもよどみなく質問に答え、真面目でスマートな印象を与えるが、実はユニークで熱い一面も。

 大西飛行士は1975年、東京生まれの37歳。1988年に東京大学工学部航空宇宙工学科卒業後、パイロットを目指し全日空に入社。当時、大西さんに新人研修を行った担当者によると、「非常に優秀で控えめ、どちらかといえば大人しい。でもすごく理解力が高かった」という。

 そうなのだ。大西飛行士は過去の取材で「最初からガンガン中心で動くタイプではない。ちょっと時間をおいて、ひとりひとりのキャラやお互いのポジションがわかってから、自分の役割を探っていく」と話してくれた。転校生によくあるタイプ(大西さんも転校生)。

 そんな大西さんは、全日空の厳しい訓練を経てボーイング767旅客機の副操縦士になった。(訓練課程はTVドラマ「ミス・パイロット」でかなりリアルに描かれ面白い)。何百人もの乗客を乗せて飛ぶ旅客機パイロットは何より人命に責任を持ち、定時運行で快適に、なるべく省エネで騒音を出さずに飛ぶなど、ある面では宇宙船の操縦より厳しい条件が課される。

「こうのとり」4号がISSにドッキングする際、NASA管制センターで交信担当の仕事に就く大西飛行士。「要領のいいアメリカ人飛行士なら1ヶ月ほどで資格がとれると思うが、語学も知識量も及ばず約8ヶ月かけて資格を取った。交信を録音して英語の先生と表現を反省したり苦労をしたが多くを学んだ」(提供:NASA/JAXA)

「こうのとり」4号がISSにドッキングする際、NASA管制センターで交信担当の仕事に就く大西飛行士。「要領のいいアメリカ人飛行士なら1ヶ月ほどで資格がとれると思うが、語学も知識量も及ばず約8ヶ月かけて資格を取った。交信を録音して英語の先生と表現を反省したり苦労をしたが多くを学んだ」(提供:NASA/JAXA)

 副操縦士として大西飛行士は、コックピットでキャプテン(機長)を補佐し安全な空の旅を実行してきた。「キャプテンにもいろいろなスタイルがいて自分がどのスタイルで補佐すれば二人で機能するか、工夫しながらやってきた」。コミュニケーションや状況判断、決断力はこの副操縦士の経験のなかで培われてきたという。

 このスキルが、今回の任命でも生きた。JAXA関係者曰く「2013年夏ごろ、NASAから日本に対して2016年夏のISS宇宙滞在枠の打診があった。JAXA内で検討の結果、大西飛行士を推薦したところ、『彼ならソユーズ宇宙船でフライトエンジニア(船長補佐)ができるね』と国際会議で船長補佐の枠が認められたのです」とのこと。往復のソユーズ宇宙船の船長はロシア人が務めるが、船長に非常事態が起こった場合、船長に代わって操縦する船長補佐枠は船長と同等の訓練を受ける。各国が狙う超人気ポストであり、なかなかその枠はとれない。

 大西さんのユニークな点は多趣味なこと。趣味はダイビングや映画、観劇と幅広く、アルトサックスも習っていた。先ほど紹介した大西さんのANA時代の新人研修担当者は後に広報担当として大西飛行士と映画監督・矢口史靖さん(映画HAPPY FLIGHT、スウィングガールズなど)の対談に立ち会った。「音楽 の話題になったとたん、スイッチが入ったように盛り上がって驚いた。クールに見えた大西さんにこんな奥深い面があったのかと」。JAXA理事も「彼は航空機エンジニアに珍しく多趣味。NASAでも人気者だよ」という。趣味も興味も幅広く、真面目な話だけでなく雑談もできる「可愛がられキャラ」らしい。

 この趣味を活かして、宇宙飛行士選抜では最終試験の一発芸で「一人ミュージカル(夢から醒めた夢)」を披露、それまでの真面目な印象を「半ばやけくそで」破り、チームの雰囲気を一気に盛り上げた。「普段はやりません、最初で最後です(笑)」(大西さん)。自分の殻を破って「素」をさらけ出すことは真の信頼関係を築くために必須、と審査員に高く評価された。

交信担当を引き受けるかどうか迷ったとき、若田飛行士が背中を押してくれた。いつか若田さんのように、「自分が宇宙でリーダーシップをとれるようになりたい」(提供:NASA/JAXA)

交信担当を引き受けるかどうか迷ったとき、若田飛行士が背中を押してくれた。いつか若田さんのように、「自分が宇宙でリーダーシップをとれるようになりたい」(提供:NASA/JAXA)

 噛めば噛むほど味が出る、するめのような大西さん。私が注目するのは、大西さんの芯に熱いハートがあることだ。会見で記者から「なぜ人類は宇宙に行くのか」と問われ、「人間は本質的に、より遠くへ、より高く、未知の場所へ行こうとする生き物。それが海を越える船を作り、空を飛ぶ飛行機を作り、文明を発展させてきた原動力」と揺るぎなく語る。飛行機で高度1万2千メートルの空を飛びながら星を見続けてきた男のセリフだ。

 プライベートでは、宇宙飛行士候補者に選ばれた後にご結婚、訓練中の2010年3月に女の子が生まれた。宇宙飛行が決まって「パパはお仕事で遠くに行くよ」と告げると「一緒に行く」と話したそうで「長期滞在時にどんな感受性をもって見てくれるか楽しみ」と大西飛行士はいっている。宇宙からはアツい言葉で宇宙の魅力をぜひ、お子さんに、次世代に語って欲しい。音楽方面の芸達者ぶりの披露もぜひ!