• DSPACEトップページ
  • DSPACEコンテンツメニュー

読む宇宙旅行

2014年1月29日

視力6000!アルマ望遠鏡「ココに注目」3つのポイント

アルマ初期観測で赤ちゃん星(IRAS 16293-2422)の回りに糖類分子を発見。(写真はNASAの赤外線観測衛星WISEが撮影した、へびつかい座ロ星領域。IRAS 16293-2422は図中に示した四角の中央に位置する赤い天体)。(提供:ESO/L. Caçada & NASA/JPL-Caltech/WISE Team・国立天文台)

アルマ初期観測で赤ちゃん星(IRAS 16293-2422)の回りに糖類分子を発見。(写真はNASAの赤外線観測衛星WISEが撮影した、へびつかい座ロ星領域。IRAS 16293-2422は図中に示した四角の中央に位置する赤い天体)。(提供:ESO/L. Caçada & NASA/JPL-Caltech/WISE Team・国立天文台)

 手元のスマホから目が離せない毎日。視力6000って想像できますか?東京から大阪にある1円玉が判別できるほどの視力。その驚異的な視力を66台の電波望遠鏡で実現。宇宙の果てから、惑星が生まれようとする現場まで詳細に観測し、未知の宇宙現象をあぶり出そうというアルマ計画が、本格的に始動している。いったい何が見えてくるのか!

 日本を含む20の国や地域が協力し、南米チリの標高約5000mの高原に66台の電波望遠鏡を建設。望遠鏡の配列を変えることで最大口径18.5kmの電波望遠鏡を実現するという何もかも史上最大スケールの天文学プロジェクト、アルマ計画についてはDSPACEでたびたび紹介し、注目してきた。2013年3月にチリ大統領や約500人の参加者が列席し開所式を実施。本格運用を始めた。そこで国立天文台ALMA教育・広報担当の平松正顕さんに改めて取材し、「アルマのここが面白い!」というポイントを3つに絞り込みました。


1.観測:「生命の起源」解明に期待!

 実はアルマは既に2011年9月から16台の望遠鏡で科学観測を始め、驚くべき発見をしている。平松さん一押しは「赤ちゃん星の回りに生命の構成要素である『グリコールアルデヒド』を発見したこと」だそう。発見された場所は中心星から天王星の軌道ぐらいの距離。「もしかしたら惑星に『生命の種』がふる材料になるかも」と期待を抱かせる成果だ。

 グリコールアルデヒドは遺伝物質RNAを合成するときの最初の材料。非常に微弱な電波なのでこれまでの電波望遠鏡では感度が足りずなかなか観測できなかった。アルマは観測の柱の一つに「生命の起源」を掲げる。「グリコールアルデヒドから直接生命ができるわけではないが、生命にとって重要な分子がこんなに早く見つかるとは思っていなかった」と平松さん。66台フルで観測できるようになれば、さらに複雑な生命関連分子が発見されるかもしれない。生命の材料は宇宙にあまねく存在するのか、今後の観測に注目だ。


2.技術:日本製アンテナ+受信機。「無理」と言われた技術を実現

 66台の電波望遠鏡の中には日本の望遠鏡が16台ある。口径12mが4台、7m12台。欧米のアンテナと異なる日本の特色はなんだろうか?

 「アルマは66台で直径18.5kmに広げ、天体の細部を見られる点が売りです。でも実は一枚の鏡で18.5kmを実現しているわけではなく歯抜けの状態なので、ぼんやり広がる雲など『全体の構造』は観測できない。そこで日本はあえて一回り小さな7mアンテナを作り密集させました」。つまり局所的には細かい構造が見えても、全体がわからなかった。日本はその部分を担い、全体構造も観測できるようにした。

 また望遠鏡自体にも様々な技術が駆使されている。例えば日本の7mアンテナの素材は鉄。欧米や日本の12mアンテナは軽くて強い炭素繊維CFRPを素材に使っている。予算などの制約から鉄に挑戦することになったが、欧米からは「できるわけがない」と言われた。なぜなら望遠鏡は標高5000mの厳しい環境に晒されるからだ。約40度にもなる温度変化や強風。鉄はCFRPの10倍ゆがむと言われる。日が当たる面は伸びるし、寒くなれば縮む。それなのに鏡面は髪の毛1本分のゆがみも許されない、究極の精度が求められた。

 「製造にあたった三菱電機は『鏡の片面に日が当たることでゆがむなら全体の温度を一定にすればいい』と考え、鏡面の裏にファンを仕込んで空気を流し、温度を一定に保つようにした。こうして求められる精度(誤差20ミクロン)の約五分の一を達成したのです」(平松さん)。

 電波望遠鏡ではアンテナが集めた電波を受信機に送る。66台のパラボラアンテナには10種類の受信機が搭載されるが、日本は3種類の受信機を製作した。特にバンド10受信機は超伝導素材から国立天文台で開発、受信機の中でも一番周波数が高く、波長が短い電波を観測する。電波望遠鏡はアンテナを大きく広げるほど、また観測する電磁波が短いほど視力がよくなる。つまり、バンド10を用いたときにアルマの視力はもっともよくなるというわけ。バンド10の開発は「世界の誰も達成不可能」と言われていたという。アンテナに受信機、アルマ望遠鏡が史上最高性を実現するための「肝」となる部分を日本のハイテク技術が担っているのだ。

日本のアンテナ群「モリタコンパクトアレイ」。2013年度グッドデザイン賞金賞を受賞。標高5000mという過酷な高地において、100億光年もの彼方からやってくる微弱な電波を検出するという課題に対して日本の技術を結集し、精度の高いものづくりの力で実現したことなどが評価されている。中央が「鉄製」の7mアンテナでそのまわりを12mアンテナ4台が囲んでいる。(提供:国立天文台)

日本のアンテナ群「モリタコンパクトアレイ」。2013年度グッドデザイン賞金賞を受賞。標高5000mという過酷な高地において、100億光年もの彼方からやってくる微弱な電波を検出するという課題に対して日本の技術を結集し、精度の高いものづくりの力で実現したことなどが評価されている。中央が「鉄製」の7mアンテナでそのまわりを12mアンテナ4台が囲んでいる。(提供:国立天文台)


3.天文学者:「現地には行きません!?」

アルマのアンテナの林の前に立つ国立天文台の平松正顕さん(2013年11月)。ご自身も電波天文学者でアルマの観測提案募集に3回続けて挑戦中。今回はカメレオン座分子雲の若い星について。

アルマのアンテナの林の前に立つ国立天文台の平松正顕さん(2013年11月)。ご自身も電波天文学者でアルマの観測提案募集に3回続けて挑戦中。今回はカメレオン座分子雲の若い星について。

 ここまでスゴイ望遠鏡を実際に使って研究したいという天文学者から、観測提案が殺到。今や電波望遠鏡の「聖地」となったアタカマ砂漠のアルマ望遠鏡には、世界中の天文学者が観測に訪れていると思いきや、「観測者は現地に行かないんです」と意外な答えが。

 「2つの意味があります。アルマは複数の電波望遠鏡を組み合わせて観測する電波干渉系で操作が複雑です。天文学者は操作できず、専門のオペレーターが操作します。また自分の観測がいつ観測されるかわからないから行きようがないんです」

 平松さんによると、観測テーマの中でも天気がよくないと観測できないテーマやそれほど好天を求めないテーマがあるという。そこで日々の天気の状況を見ながら、現地の観測担当者が条件に当てはまる観測を割り振っていくのだという。

 「でも天文学者なら現地に行きたいですよね?」と平松さんにしつこく聞くと「もちろん自分で望遠鏡を動かしてリアルタイムで画像を見ながら、ここに面白そうな天体があるから『ちょっと望遠鏡を動かしてみよう』というのは楽しいです。でもアルマでそれをやると収集がつかなくなる(笑)」。アルマは人類共通の財産。世界界中の天文学者、しかも今まで電波望遠鏡を使ったことのない人に広く使って欲しいという方針で運用している。

こちらは2011年9月の写真。現地は冬。風が当たるとより寒いのでできるだけ肌を出さないようにマフラーと登山用フェイスマスクで完全防備。紫外線対策にサングラス。日焼け止めと酸素マスクも必携。天文学者には見えない(笑)

こちらは2011年9月の写真。現地は冬。風が当たるとより寒いのでできるだけ肌を出さないようにマフラーと登山用フェイスマスクで完全防備。紫外線対策にサングラス。日焼け止めと酸素マスクも必携。天文学者には見えない(笑)

 そのため、観測後は研究者が求める感度や解像度などが達成されているかについて現地スタッフが解析し、品質保証をし論文が書ける程度の画像までつくって研究者にわたす。電波望遠鏡で観測した画像は専門知識がないと解析しにくいからだ。

 現地に行かない(行けない)天文学者が多い中、広報担当も兼ねる平松さんは2013年は2回現地に行ったという。しかも通常は2900メートルの山麓施設止まりなのに、望遠鏡が並ぶ5000mまで登り、望遠鏡の林の中を歩いている。「水平線ギリギリまでびっしり星が見えるのは何度見ても感動ものです」。羨ましい・・・

 アルマは今後、冒頭に紹介した生命の起源に関する観測だけでなく、惑星が生まれる現場や銀河の進化、さらに予想もしなかったような宇宙の現象をあぶり出し、私たちを驚かせてくれることだろう。