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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「落ち込んだ時は空を見上げて」 —みえちゃん先生こと永田美絵さんと楽しむ星空

永田美絵さん。大学卒業後、天文博物館五島プラネタリウムに就職。現在はコスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。NHKラジオ第一「子ども科学電話相談」の天文・宇宙関連担当。(提供:コスモプラネタリウム渋谷)

「下を向きがちな時こそ、空を見上げましょう」。こう呼びかけるのは永田美絵さん。コスモプラネタリウム渋谷のチーフ解説員であり、NHKラジオ「子ども科学電話相談」で「みえちゃん先生」という愛称で親しまれている星の語り部だ。なぜ、空を?

「日々のプラネタリウムの解説でもお話しているのですが、『子ども科学電話相談』でご一緒している脳科学の篠原菊紀先生が『脳科学的に、人間は空を見上げて両手を広げると落ち込むことができないんですよ』と仰っていたんです。それを是非知って頂きたくて。」

確かに昼は青空や白い雲、夜は星々を見上げれば不思議と気持ちが大きくなる。それは科学的にも理由のあることだったのか。そこでさっそく、「春の星空」の楽しみ方を伺った。

気持ちがのびのびとする「春の大曲線」

「まず、都会の空でもばっちり見えるのは、一番星の金星です。日没後の西の空にすごく明るく見えています。そして春の星空で目印になるのが『北斗七星』。ひしゃくの形をした星の並びで、おおぐま座にあります。北斗七星を使うと、春の星座が探しやすくなります」

4月中旬の東京の星空。「春の大曲線」は北の空高く見えるおおぐま座の北斗七星から、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカを結ぶ恒星の並び。(素材提供:国立天文台)

まずは、北斗七星を見つけてみよう。4月中旬から下旬、東京なら20時頃に北の空高くに見えるはずだ。

「北斗七星の持ち手のところを東にのばしていくと、まずうしかい座のアークトゥルスというオレンジ色の明るい星が見えます。さらに南東にのばすと、おとめ座のスピカという青白い星が見つかります。これが『春の大曲線』。頭を上にあげて、ぐるっと大きな曲線を描くように見るので、眺めるうちに気持ちがのびのびするのです」

春の大曲線をつくる星の色にも注目したい。おとめ座のスピカは日本では「真珠星」と呼ばれる。「色白さんで真珠のようですね。一方、アークトゥルスは赤っぽくて日に焼けた感じ。スピカとアークトゥルスを合わせて日本では『夫婦星(めおとぼし)』と呼ばれています」

永田さんによると、おとめ座は春を告げる「女神」。「神話ではおとめ座は片手に麦の穂をもっていて農業の女神さま、デーテメールを表しています。冬の間は地平線の下にあってよく見えませんが、春になると宵空に昇ってくる。昔の人はおとめ座がのぼってくると、いよいよ実りの多い時期になることを知ったのです」

永田さんの著書「カリスマ解説員の楽しい星空入門」(ちくま新書)は星々の見つけ方や、星座にまつわる神話をわかりやすく楽しく解説している。本書を手に、家族で星空をぜひ楽しんでみてほしい。

「月はなぜついてくるの?」とお子さんに聞かれたら

2020年4月上旬に中国、重慶で撮影された満月。(提供:Jeff Dai (TWAN))

夜空を仰ぎ、星に興味を持ち始めた子供たちは、次々に質問してくるかもしれない。たとえば、「月はどうしてついてくるの?」と(その昔、私も聞かれました)。

「子ども科学電話相談」で約20年にわたって子供たちの素朴かつ鋭い問いに、優しくわかりやすく答えることから「みえちゃん」先生と親しまれる永田さん。どう答えたらいいですか?

「毎年、必ずよせられる質問ですね。私はこう答えています。『〇〇ちゃん(質問した子の名前)、電車に乗ったりして、お外の景色を見たことあるかな?近くにあるお家や車はけっこう早く動いて、見えなくなっちゃうよね。でも遠くにあるお山や建物は、すぐ見えなくなったりはしないでしょう。とっても遠いと、動かないように見えるんです。お月様はすごく遠くにあるから、動かずにまるでついてくるように見えるんですよ』と。月までの平均距離が平均約38万kmあることも伝えます」

さらに、みえちゃん先生が伝えることがある。「この質問をする子は、お月様をよく見ている子なんです。見ているからこそ、ついてくることが気になる。だから『お月様はいつもあなたの事を見ているから、お月様もあなたのことが大好きなんだと思うよ』とお話します。すると『これからも、お月様を見ようと思います』と嬉しそうに言ってくれる。子どもたちには、何よりも星を見ることを好きになって欲しいと思います」

なんてあたたかいんだろう・・。みえちゃん先生の人気の理由がわかる気がした。さらに「印象に残っている子供たちの質問はありますか?」と聞くと二つの質問をあげて下さった。

「一つは5歳の女の子からの質問です。『からあげが好きだから、からあげ座を作りたい。どうやって作ればいいですか?』と。私は『星座は昔の人が作ったもので世界共通で88と決められていますが、好きに作っていいんだよ』と答えた上で、『毎日決まった時間に星空を見上げて、からあげっぽい形を探すと、自分だけのオリジナル星座ができます。私がからあげ座を作るとしたら、かんむり座が丸い形でからあげに似ているから、いいんじゃないかなと思いました。探してみてね』とアドバイスしました」

自分だけのオリジナル星座を作るのも楽しそう。そして、印象に残ったもう一つの質問は「宇宙人は悪者なの?」という質問。こちらは4歳の男の子。

アメリカ・オレゴン州キャノンビーチ上の月と金星。(提供:James W. Young)

「宇宙人が地球にやってきたとき、悪者だったら怖いと思ったようです。まず私の考えとして『悪者ではないと思うよ』と伝えました。その理由は、『たとえば宇宙に行く宇宙飛行士さんに何が大切かというと、みんなと仲良くできる人。だって宇宙船の中でケンカしたり相手を傷つけたりしたら大変だから。同じように、地球に来る宇宙人がいるとしたら、すご~く長い間、宇宙船の中にいるわけだから、悪い宇宙人だったら地球まで来られないよね。だから宇宙人は悪者じゃないと思うよ』とお話すると『よかった~』と言ってくれました」

永田さんが「子ども科学電話相談」のお仕事を始めたのは約20年前という大ベテラン。それでも、「この質問に答えて下さい」と手元に届くのは、ギリギリで前の質問にほかの先生が答えているとき。今も「心の中でドタバタしています」とのこと。科学分野の回答で難しいのは嘘は言えない点、どこまでかみ砕いて説明するかという点。先輩の先生方から教わった教訓は二つ。「わからないことはわからないと言っていい」、「今はわからなくても大人になったらわかってくるから、変に言い換えなくていい」ということ。ぜひ参考に。

こんな時だから空を見上げよう「ソラツナギ」

空を見上げることの大切さを日々伝える永田さんは4月15日、ツイッターで「#ソラツナギ」という新しい取り組みを始めた。全国のプラネタリウムや天文台で活躍する星空解説のプロフェッショナルたちが、星や宇宙の魅力を語り、次々とバトンを繋いでいく企画だ。

トップバッターの永田さんは「皆さんに空を見上げて少しでも元気になって頂きたいという想いで、空を見上げることが大好きな方々へ繋ぎながら、星や宇宙の話をお届けする『ソラツナギ』を始めたい」と趣旨を伝え、一番星や夕焼けについて語った後、「心が沈むことがあると思います。でも目を向けると地球はとても美しい風景にあふれています。私達は46億年の長い時をかけてここに今、います。46億年かけて命を繋いできました。だから絶対に負けないはず。明日も皆さんが素敵な空に出会えますように」と呼び掛ける。

なぜ「ソラツナギ」を始めたのか。それは「自分自身が宇宙を知ることで、長い時をかけて命を育む環境になった地球、その地球に生きる命の素晴らしさを知ったからです。それを伝えることが自分のミッションだから」と永田さんは答える。

新型コロナウイルスの感染が広がり、不安に苛まれ下を向く人が多い今こそ、空を見上げて欲しい。そんな思いを望遠鏡メーカーの知人に相談したところ、ソラツナギの企画書を書いてくれた。すぐにプラネタリウム仲間に呼びかけ賛同を得て、永田さんが投稿したのは最初に相談してから2日後。それから明石市立天文科学館の井上毅館長、星つむぎの村の高橋真理子さん、爆笑プラネタリウムで有名な星兄・・と連日バトンが繋がれ、人気をよんでいる。

「プラネタリウム解説員は日本全国に素晴らしい方がいっぱいいらっしゃいます。解説員だけでなく、星や宇宙が好きな人がどんどん繋いでいってくれたら」。ぜひ、ツイッターの#ソラツナギ で星の話に耳を傾けて欲しい。

「宇宙の大きさ、地球に生きる素晴らしさを伝えること」がミッション

(提供:Rolando Ligustri (CARA Project, CAST))

ところで、永田さんが語る「ミッション」が気になった。いつ、どんな思いでミッションを決めたのか。「約20年前、娘を生んでしばらく経った頃、ちょうど五島プラネタリウムが閉館することがわかってきた時期でした。当時は複数のプラネタリウム館での解説、塾の先生やコンビニなど8カ所ぐらいでアルバイトのかけもちをしていました。大好きなプラネタリウムの仕事をしたいのに、どこも不安定で月に数日しか解説の仕事がない時もありました。私は何を目指しているのか、深く考えたのです」

「その結果出した答えが、私のミッションは『宇宙の広大さ、地球や命の素晴らしさを伝えることだ』と。それはプラネタリウム解説員に限らない。解説員でないと生きている意味がないとか、生活のためにすべてを諦めるという考え方は絶対によくない。自分にはもっと大きな目標がある、と思った時に気持ち的に楽になったのです」

「それからは仕事を選ぶときに、自分のミッションを達成できるか否かで決めました」。コスモプラネタリウム渋谷に転職した際も、より多くの人に自分のミッションを届けられると考えたから。前職では某企業の社員としてモバイルプラネタリウムと共に全国を回り、たくさんの仲間もできた。面白くて感情的にはずっとやりたかったけれど、伝えられる人数を考えて決断した。

「今、全国のプラネタリウム解説員の新人研修をしていますが、その時も必ず伝えます。『何のためにこの仕事をやっているのか、何年かけても必ず見つけて下さい。それがいずれ自分を助けることになります』と」

ミッションを決めた永田さんの言葉は、優しくも力強い。「私たちが生きる地球の材料は、もともと宇宙の星が作り出したもの。でも材料だけあっても、地球は今のようにはなりません。その確率は、ばらばらに壊した時計の部品をプールに投げ入れて、プールの流れだけで元の時計に戻すぐらい。つまりあり得ないぐらいの確率なのです。そう思うと、人と争ったりするのは、本当につまらないことです。宇宙に目を向けて、ここに生きることの素晴らしさを知り、幸せになる方法を探して欲しいと思います」。さぁ、空を見上げましょう。

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