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DSPACE 林 公代「読む宇宙旅行」連載20周年特別企画 矢野顕子さんと宇宙を語るDSPACE 林 公代「読む宇宙旅行」連載20周年特別企画 矢野顕子さんと宇宙を語る

宇宙をもっと開かれた場に
- Part 2

  • 宇宙ライター 林 公代
  • ミュージシャン 矢野 顕子

宇宙ライターの林公代さんが、DSPACEで連載中の人気コラム「読む宇宙旅行」は、2002年7月の連載スタートから20周年を迎えました。これを記念して2022年9月4日、林さんと以前から親交が深いミュージシャンの矢野顕子さんを招き、トークイベントが開かれました。イベントではこの20年を振り返り、林さんが世界を駆け巡った思い出話で盛り上がるとともに、現在進行中の数々の宇宙プロジェクトや、あの宇宙飛行士が作った詩に矢野さんが曲をつけて披露した話など、興味深いエピソードが次々登場。宇宙への熱い思いに満ちあふれた対談となりました。ここではその様子をお届けします。

月のクレーターを撮りたい!

反響が大きかったコラムについて伺えますか。
林公代(以下、林):

反響が一番大きかったのは、2020年の「KAGAYAさんは、なぜ真夜中の大火球を捉えることができたのか」。星景写真家・プラネタリウム映像クリエイターのKAGAYAさんが、2020年7月2日午前2時半過ぎに突然出現した、大火球の撮影に成功されました。話を伺うとKAGAYAさんは大火球のような写真を奇跡的に撮ったわけではなく、綿密な準備とリサーチ、そして技術と熱意があるからこそ撮ることができるんだとよくわかりました。矢野さんも最近、写真を撮られてますよね?

矢野顕子(以下、矢野):

私は月の写真だけですね。

林:

月、けっこう難しくないですか?

矢野:

すごく難しい。写真家の幡野広志さんに、どうしても月を撮りたいんだけど、本格的な望遠鏡が必要な天体写真ではなくて、「今日は満月か、よし、撮ろう」という気分で気軽に撮れるポケットに入るカメラがほしいと相談したら、選んでくれました。

林:

カメラを?一眼レフですか?

矢野:

コンパクトなデジカメです。それで月のクレーターを写したいと思い、一番寒い時期のニューヨークで、手がかじかむ中、撮影にチャレンジしたりしました。月は、満月だけでなく、本当にいろいろな表情があるので、よく撮っています。一度、「静かの海」のちょっと下のところに何か黒い影があって、これは発見か!と思ったらゴミでした、ということもありました。

音楽の力

林:

このあいだライブに行かせていただきました。「ドラゴンはのぼる」という新しい曲を披露されてましたね。

矢野:

“新進作詞家”の野口聡一さん(宇宙飛行士)が作詞した歌です。野口さんが宇宙へ行く前に、林さんが仲立ちとなって対談をして、それが「宇宙に行くことは地球を知ること」(光文社新書)という一冊の本になっています。

この対談のとき、「何か書いてもらえませんか」って野口さんにお願いしたんです。なんでもいいから、とにかく自分の書きたいことを宇宙で書いてくださいと。私、それに曲つけますからって。そしたら、本当に書いてくださって。

林:

野口さんが宇宙にいるときに書かれたんですか?

矢野:

そうです。それに曲をつけて、レコーディングしました。

林:

すご~く、かっこいい曲でした!

矢野:

野口さんは、字数を揃えるとかそういったポップスの様式を一切考えず、本当に思ったこと、感じたことを書いてくださった。それがすごくいいんですよ。

林:

本当に感じたことだからこそ、いいと。

矢野:

私は、知りたかったんです。あのISSで暮らす宇宙飛行士たちは、私たちと同じ人間ですよね。野口さんのことは、年下ですがどこかお父さんみたいに感じていて、「お父さんは宇宙で何してるんだろう」とか、「私たちのことをどう思ってるんだろう」とか、「さびしくないかな」とか、そういうことを。本当に生の声として知りたかった。そして、それを本当に書いてくださった。

その詩に曲をつけて歌っていると、たぶんね、聴いた方々もそうなるんじゃないかなと思うんですけど、一緒に宇宙に行って、一緒にISSから地球を眺めて、「子どもたちどうしてるかな」とかそういった気持ちになるんです。今、もうはっきりと、「私は宇宙に行った、私行ったから」って、本当にそう言えるくらいです。

林:

宇宙にいる感覚を感じたわけですね?

矢野:

歌っていて、その気持ちを感じました。聴いている人もおそらく、一緒に野口さんの気持ちになれると思います。それはたぶん文章とはまた別で、動画とも違う「音楽の力」だと思うんです。

林:

今まで、プロの宇宙飛行士しか宇宙に行けなかったじゃないですか。それが今、民間に開かれてきました。だけど今は一部の人だけで、まだアーティストは宇宙に行っていませんよね。音楽の力が宇宙に何をもたらしてくれるのか。それについて矢野さんがどう思っておられるか、聞きたかったんです。

矢野:

例えばシューベルトが宇宙に行ったら、絶対、即作曲を始めるでしょう。地球の姿を目の当たりにしたときの心の動きを伝えるのに、アーティストは一番有利な立場にあると思います。

林:

宇宙飛行士のみなさんは本当に言葉を尽くして、宇宙で見た地球やそのときの気持ちを表現してはいるけれども、やっぱり言葉では伝えきれない思いや感動もあると。

矢野:

そうですね。「宇宙に行った人にしかわからない」と言ってしまったら最後。その溝は絶対に埋められないけれど、行った人は、行っていない人に分け与えることができる。そういう態度が必要ではないかと思います。

その点アーティストは、宇宙に行ったら、自分が作ったものをみんなに聴いてもらい、みんなに見てもらえます。だから、とにかく早くアーティストが宇宙に行ってほしいなと思います。

林:

2020年、矢野さんと一緒にヒューストンで金井宣茂宇宙飛行士を取材したとき、矢野さんが「音楽を何のために作るのか」という話をされていて、泣きそうなほど感動したのを覚えています。

矢野さんが若い頃、音楽家の武満徹さんに「何のために音楽を作っているのですか」と尋ねたら、武満さんが「悲しみを表現したい。それだけでなく、悲しみから立ち上がるまでが音楽の役割だ」と答えたと。人生にはつらいことも苦しいこともあるわけです。その気持ちに寄り添った上で、宇宙から見た地球のことを多くの人にシェアすれば、音楽の力によって、今つらい人にも何らかの希望が生まれるかもしれません。

矢野:

野口さんは宇宙で感じた想いを文章で表現してくれたけれども、その文章にさらに音をつけることで、もっともっと世界が広がっていくわけですよ。アートには、たった一人の人が体験したことをもっと拡大して、そして多くの人に広げる。そういう役割もあるのだと思います。

20周年のその先も
発信を続けていきたい

林:

「病院プラネタリウム」の取材で最初にお会いしたとき、矢野さんが「私は若い女性や男性に、もっと宇宙への興味を持ってほしいんです」とおっしゃったことが印象に残っています。お化粧やファッションと同じように宇宙について語ってほしいのに、「宇宙のことをツイートするとフォロワーが減るんです」って。私こそがそのことを考えて発信しなければいけないのに、矢野さんに問題提起をしていただいたと感謝していて、今もそういう思いを抱きながら取材しています。

矢野さんは、今後、宇宙のどんな記事を読んでみたいですか?

矢野:

私たち人間が宇宙にどう適応するのか、しないのか。人間は宇宙で生きるようには作られていないので、宇宙で人体がどういうふうに変化するかという医学的な興味もそうですが、マインドの変化も知りたいですね。宇宙での人間関係についても、実のところまだあまり語られていないけれど、絶対にいろいろな問題があると思うんです(笑)。

2016年1月、埼玉県立循環器・呼吸器病センターで行われた病院プラネタリウムの前で。矢野顕子さん(右)と、宙先案内人の高橋真理子さん。
今の話を聞いたところで、林さん、20周年のこの先について伺ってもいいですか。
林:

お話にも出ましたが、宇宙は一部の限られた人だけでなく、やっぱりより多くの人に開かれた場であってほしいという強い思いがあります。今苦しんでいる人たちにこそ希望が必要で、「病院プラネタリウム」はまさにその一つ。そういう発信をこれからも続けていきたいですね。

矢野さんは、宇宙を知ることは「生きる歓び」を培うことだと常々おっしゃっていますよね。私はその考え方にとても感銘を受けています。

矢野:

地上からずっと上に上がっていくと100キロ先には宇宙があって、そしてその先には月があって、木星があって。それらと今の私たちの暮らしはつながっている。だから宇宙は自分たちにとって決して無縁ではなく、むしろ、いつもつながっていることを意識すべきだと。

NYの公園でチュッチュしてるカップルがいて、「あなたたちがここにいられるのは、木星が今の位置にいてくれることで、太陽系が安定しているからだよ」とツイートしたことがあります(笑)。宇宙について知ることで、私たちはもっともっといろんな点でパースペクティブを持てる。そういう、「違う見方」を培ってほしいなと思いますね。

イベントの応募者に、事前アンケートでおふたりへの質問も聞いてみましたので、答えてもらいましょう。
宇宙旅行ができるとして、矢野さんが宇宙で聴きたい音楽は何ですか?また、宇宙には地球にはない音があると思いますか?
矢野:

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とか、そういうのを聴いてみたい。やっぱり、バッハも。でも何でもいいや。(笑)ディスコサウンドでもいいし。それから、宇宙には地球にない音、ありまくりじゃないですかね。私たちの耳に聞こえるとすればですが。

林さんは、地球には一生戻れないが宇宙ステーションで働くことと、未知の惑星探索に同行取材して帰還すること、どちらを選びますか?
林:

これは当然後者です。やっぱり、未知のものは見たいし、誰も知らないことを知りたいし、誰も聞いていないことを聞きたいし。宇宙ステーションも大好きで、1回は行ってみたいと思いますけど、一生戻れないというのはちょっと迷います。

お二人に伺います。ズバリ、宇宙の魅力は?
矢野:

魅力?何だろう。私たちが宇宙に関して知っていることはもう砂粒以下だと思うので、それらをより知っていくという、私たちの探究心を満足させてくれる対象だと思います。

林:

誰の上にも等しく星空があって、嫌なことやつらいことがあっても、その光がずっと昔、何億年も前に放たれたものだと思うと、自分の人生なんて瞬きみたいなものじゃないですか。そういうとき、「もうこれは楽しむしかない」と発想を変えられるところとか。

もし宇宙に行って地球を見たとしたら、地上の悩みなんてほんの小さなもので、争いをしていることが愚かなんだという視点を持てるでしょう。だからこそ一部の人だけでなく、普通の人がみんな宇宙に行って、一人ひとりがそういう思いを持てたら、地球はもっと良い場所になるのかもしれない……こんな妄想を描ける、視点を変えられるところです。

矢野:

私なんか本当にただ「宇宙が好きです」だけなので、専門知識は持ち合わせていませんが、だけどこの程度でも十分に入れる余地が宇宙にはあります。思い出しました。ニューヨークで野口さんと初めてお会いしたとき、大人の女性に宇宙を知ってもらえる本を作りましょうという話をしましたよね。

林:

そうでしたね。

矢野:

日本の宇宙教育は主に子どもが対象で、その理由を聞いたら、野口さんが「やっぱり子どもたちには未来があり、可能性があるからだ」と。ちょっと待って、その可能性にお金を出すのはお母さんたちだよねって(笑)。大人が「自分の人生を何とかしたい」と思うときにも、実は宇宙は役に立ちます。

ありがとうございます。最後に、連載20周年を迎えた林さんからメッセージをいただけますか。
林:

今日は女性の方も男性の方もすごく熱心に聞いてくださって、ありがとうございました。

矢野:

大人でうれしいです。

林:

大人にも未来はありますよね。

矢野:

もちろんですよ!

林:

本当に楽しくお話ができました。これからもみなさんに楽しんでいただけるコラムを書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

対談を終えて

林さんと話をしていると止まらない。二人とも、目の前に広がる宇宙への興味が尽きないので。もし二人がロケットで月を目指すことになっても、話しは止まらず、隣に乗る野口宇宙飛行士に、「はい、ちょっと二人とも静かにして。そろそろ着陸なんだから。」と注意されそうです。

みんなが宇宙に行ける日まで、林さん、これからもわくわくする記事を書いてくださいね。

イベント前夜遅くに大阪から帰られお疲れのはずなのに、本当に楽しく深い宇宙話を聞かせて下さった矢野さん、本当にありがとうございました。音楽の女神、矢野さんが野口飛行士とコラボしたアルバムを聴いて、新たな宇宙体験をするのが本当に楽しみです。いつか矢野さんが宇宙に行き、その体験を私たちに音楽でシェアして欲しい。その様子を宇宙で取材できたら最高です!

これからもDSPACEをよろしくおねがします!
  • 本文中における会社名、商標名は、各社の商標または登録商標です。

林 公代「読む宇宙旅行」連載20周年特別企画 数字でみる読む宇宙旅行
提供:
NASA, NASA/JPL, NASA/Alexander Vysotsky, NASA/Tony Gray and Kevin O’Connell, Axiom Space, Blue Origin, SpaceX

プロフィール

宇宙ライター
林 公代
福井県生まれ。神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団の情報誌編集長を経てライターに。NASA、ロシア等現地取材多数。
「さばの缶づめ、宇宙へいく」(小坂康之氏と共著、第34回読書感想画中央コンクール中学校・高等学校の部指定図書)、「宇宙へ行くことは地球を知ること」(野口聡一宇宙飛行士、矢野顕子さんと共著)、「星宙の飛行士」(油井亀美也飛行士、JAXAと共著)など著書多数。
ミュージシャン
矢野 顕子

無類の宇宙好きを公言しており、宇宙に関する楽曲も多数発表している。「病院がプラネタリウム」の記事を読んだ矢野さんがツイートしたことをきっかけに、林さんと矢野さんの親交が始まる。野口宇宙飛行士との共著「宇宙に行くことは地球を知ること」は、林さんが取材、執筆を行なった。