対談篇 前篇 大切なのは
「自然界の恩恵を受けている」
という着眼
近江手造り和ろうそく「大與」(だいよ)。
和ろうそくづくりの要といえる「手掛け作業」を視察&体験した一行は、工房に隣接するギャラリーへと場所を移し、
大與四代目・大西巧さんと三菱電機 換気空清機「ロスナイ」設計者・青木裕樹による対談を開催しました。
就職活動で初めて父親の仕事を
「カッコイイ!」と思った
大與(だいよ)三代目はお父様である大西明弘さん(現・会長)。そのご長男として生まれた大西さんですが、子どもの頃は家業を継ぐ気持ちがあまりなかったそうですね。
おっしゃる通り、かつては父親の仕事にあまり興味がありませんでした。長男だからといって「後を継げ」と父から求められもしませんでしたから。でも大学3年生のとき、私も周りの学生と同じように就職活動をしていたなか、初めて膝を突き合わせて父から仕事の話を聞きました。製造業や小売業のOB・OGの方々からもひと通りの話は聞きましたが、シンプルに父の話が一番面白かった。仕事に対する熱さだったり誇りであったり、あるいは仕事でつくるものが社会や未来に対してどのように貢献していくべきか、だったり……。自分の将来的な社会人像を思い描いたなかで「カッコイイ大人がいる!」と感じられたのが、たまたま父だったのです。
大学卒業後はお父様のすすめもあり、一度は京都にある線香メーカーに就職。3年間の月日を経て、2004年に家業へ戻られます。
就職した会社の社長面接で「3年後には家業を継ぎたい」ということを正直に話しました。社会人最初の3年間といえば企業が人材に投資する貴重な期間。やっと一人前になるタイミングで辞められたら企業にとっては大損害です。そのことは面接のときにはっきりと指摘されましたが、社長のご理解もあり、幸いにして内定をいただきました。働くなかでも変に特別扱いを受けるわけでもなく、社会人として鍛えていただき本当に感謝しています。
大西さんと同世代である青木さんも、大西さんが家業に戻られたのとちょうど同じ頃(2003年)に、三菱電機へ入社しています。
私の場合は大学・大学院で、空気や水といった“流体”の静止状態・運動状態の性質などを研究する「流体力学」を専攻しており、入社してすぐに三菱電機の中津川製作所(岐阜県中津川市)の住宅用換気送風機製造部に配属されました。
1943年に三菱電機名古屋製作所の分工場として創業を始めた「中津川製作所」は、創業当時から扇風機・換気扇の開発・製造に取り組み「風の中津川」と呼ばれていました。
他にも太陽光発電システムをはじめ、温水式床暖房システムやハンドドライヤー「ジェットタオル」、喫煙用集塵・脱臭機「スモークダッシュ」等々の製造・開発拠点として発展してきた工場です。私が就職活動をしていたのは、そうして中津川製作所が開発の裾野を拡げて「風と空気、水と光」と呼ばれ始めた頃。私はそのなかでも就職活動をする以前から「ロスナイ」に大きな興味を抱いていました。
換気扇なのに熱交換できる!?
——ロスナイの仕組みとは?
全熱交換型換気機器「ロスナイ」は一般的にあまり馴染みがない設備かもしれません。ロスナイはどのような換気機器なのか、簡単にご解説いただけますか。
一般的な換気扇はお部屋の空気をファンで一方的に“排気”するのみです。しかし、空気を排出すれば、排出した分だけ同じ量の空気を必要とします。だから換気扇を回せば、ドアのすきまなどから外の空気がお部屋のなかに流れ込んでくるのですが、例えば冬の暖房時、空気を入れ換えようと換気扇を回せば、せっかく暖めたお部屋の空気が逃げ、室内気温が下がってしまいますよね。そんなときにロスナイが活躍します。ロスナイには排気と給気、両方のファンが搭載され、室内の空気を排出すると同時に給気ファンで外気を取り入れます。このときに重要なポイントがロスナイに搭載された「ロスナイエレメント」という熱交換器です。
ロスナイエレメントというのはどういう部材なのでしょう?
こちらが住宅で使えるコンパクトな壁掛形ロスナイの現物です。(大西さんに内部の構造を見せながら)ここがエレメント部分です。エレメントは特殊加工紙でできた「仕切板」と「間隔板」で構成されていて、間隔板のなかを十字に流れる排気/給気(外気)の間で、温度(顕熱)と湿度(潜熱)の交換がなされます。つまりもっと簡単に言うと、冬の寒い日に換気をしても、部屋の温度を保とうとするということです。
(エレメントを見ながら)これ全部、紙でできているんですか?
そうなんです。紙を筒状にまるめ、そのなかに「ふぅ〜」と息をふきかけると、紙が温かくなりますよね。基本的にはそれと同じ性質を利用しています。ロスナイの原理を発明したのは吉野昌孝(1935年生、1954年中津川製作所入社)という元三菱電機社員で、自分の娘が紙を丸めて息を吹きかけて遊んでいたのを見て、この原理の利用を着想したそうです。1970年に紙でできた熱交換形換気機器(静止形)として世界初※のロスナイを開発しました。その後も約50年間、中津川製作所ではロスナイの改良を重ね、エネルギー削減(節電)、さらにはコンパクト化に努めてきました。※製品発売時点において
自然界の恩恵を受けている
という着眼は
本当に大事なこと
大西さんもロスナイの原理は初めてお聞きになったと思いますが、いかがですか?
何よりも吉野さん、すごいですね(笑)。その着想が半世紀続く商品に繋がっているんですから。あと、お話を伺っていて思ったのは、私の仕事にも似ている部分があるということですね。大與では、今日見ていただいた櫨ろうそくのほかに、お米の糠(ぬか)を抽出してつくる「米ぬかろうそく」という製品も販売しています。
2010年4月に発売された巧さんデザイン・プロデュースの「お米のろうそく」は、2011年にグッドデザイン賞・グッドデザイン中小企業庁長官賞を受賞されています。
米ぬかろうそくは櫨ろうそくのように“手掛け”をするのではなく、灯心を差し込んだ割型にろうを流し込み、それを十分に冷やした後、割型からろうそくを抜き出します。夏場は冷やすのにそれ相応の時間がかかるので、水をかけて一気に冷やしたくなるのですが、そうするとろうそくにクラック(ひび割れ)が生じるんです。そのためろうそくが少しでも早く冷えるよう、割型に風の通り道ができやすい構造にするなどして工夫を凝らすのですが、吉野さんが“自然界に存在する現象”からロスナイを発明されたのにも似た着眼だと感じました。
そうですね。人間が普段、自然界からたくさんの恩恵を受けていること。それを正しく理解することは、私たちにとってもとても大切なことだと思います。
「自然界の恩恵を受けている」という着眼は本当に大事なことですよね。実は2014年に私が立ち上げたコンセプトブランド「hitohito」もまた、自然の恩恵である“火”と“人”との距離間を改めて考えるそんなコンセプトを持っているんです。
- 取材・文/安田博勇 撮影/魚本勝之
- 2019.03.27