職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

3RD CERAMICS・陶芸家 長屋 有 土井 武史 ×三菱冷蔵庫 先行開発グループ 鈴木 和貴

#05 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 前篇個人作家か、メーカーか。
行き着いた自分たちなりのスタイル

(対談篇 前篇)

それぞれ個人作家・メーカー社員として働いていた2人がなぜ3RD CERAMICSとして創作活動を共にすることになったのか。
三菱電機・鈴木和貴との対談で伺います。

個人作家でもメーカーでもない「第三の陶芸」

長屋さんと土井さんが今の活動を始められたご経緯を教えてください。

長屋有さん(以下、長屋)

僕は大学卒業後、一度デザイン事務所で働いています。そこでやっていたのは基本的にパソコンを使うデザインの仕事。仕事自体はとても楽しかったのですが、もともと模型づくりのような自分の手を使ったものづくりが好きだったこともあり、次第に陶芸の世界に興味が湧きました。そこで、出身地・名古屋からほど近い多治見市陶磁器意匠研究所(以下ishoken)に入所。いわゆる専門学校と職業訓練学校を兼ねたような場所なのですが、そこで2年間陶芸のことを学びました。そしてその1期先輩が土井さんです。

土井武史さん(以下、土井)

自分は陶芸コースのある京都銅駝美術工芸高等学校で15歳から陶芸を学び、そのまま美術系の大学に進んでいます。大学まではどちらかといえばアート寄りの陶芸を学びましたが、当時はいわゆる陶芸作家として生きていくのは難しいと考え、より実践的なことを勉強できるishokenへ入所。その後地元の陶磁器メーカーに就職しています。

2014年から活動を開始。なぜ一緒にやることに?

長屋

ishoken卒業後、自分は個人作家といってもほとんどアルバイトで生計を立てている状態でしたがとして活動しました。あるときishokenの卒業生が参加するグループ展に作家として参加する機会があり、そのときにメーカー勤務時代の土井さんと出会いました。

土井

メーカーに勤めつつも、細々と個人作家としての活動をしていたときですね。

長屋

ishoken時代にはほとんど接点がなかったのですが、グループ展で知り合ったのをきっかけに仲良くなりました。そしてお互いの創作活動やこれからしてみたい仕事の話をしているうちに「問題意識が近しいな」と感じるようになりました。

どのような問題意識だったのでしょう?

長屋

個人作家と名乗りつつも、自分の作風はわりあいシンプルかつ華奢、どちらかといえば実用的とも言えるような作品づくりを好んでいました。でもグループ展とかに出てくる他の個人作家の作品を見ると、いかにもアーティスティックなものばかり。決してそれらを否定的に捉えたわけではないしそれは今も変わりませんが、自分の当時の作風のままで仕事として陶芸を続けていくのにはどうしても限界があるな、と考えていました。

土井

一方で自分は当時のメーカーで企業向けの業務用食器などを企画したりしていて、それ自体はとても性に合っていました。とはいえやはり企業対企業の仕事なのでレギュレーションが厳しいときがあるし、メーカーだからこその制約もありました。個人作家でもない、大きなメーカーでもないそんな創作活動があっても面白いよね、なんて話をしたときが一番意気投合しましたね。

長屋

最初は屋号を持たず、それぞれが創作活動に打ち込んでいましたが、1年くらい一緒にやっていくうちに改めて「自分たちのやりたいことって、第三の切り口だよね」なんて話になり、3RD CERAMICSというネーミングに行き着きました。

三菱電機の「未来の冷蔵庫を作る」先行開発グループ

一方、鈴木さんは三菱電機の冷凍空調製品の拠点である静岡製作所で冷蔵庫の先行開発に従事されています。

鈴木和貴(以下、鈴木)

三菱電機の搭載するメリット技術は、技術の基礎的な研究から始まり、技術が求められる生活課題の検証と冷蔵庫へ搭載するための仕様の具体化、さらに量産性を持たせた設計をする3段階に分かれています。
冷蔵庫の先行開発グループはこの中でも基礎研究と量産設計をつなぐ間に位置しており、新しい技術を冷蔵庫に搭載し、お客様の抱える課題を解決する方法を検討しています。
技術を搭載するタイミングも様々で、市場から開発している技術が求められるのが来年かもしれないし、もっと先になるかもしれない。とても長いスパンでものごとを考えることもある仕事です。

常に念頭に置いているのは、
生活シーンの小さな困りごと
解決してあげること

冷蔵庫メーカーは内容量・消費電力などのスペック向上で各社しのぎを削っています。

鈴木

おっしゃる通りメーカー同士のスペック競争はもちろん重要なことです。しかし先行開発においてはもっと生活に対する先見性みたいなものが求められています。冷蔵庫にこんな機能があればもっとお客様を喜ばせられるのではないか、あるいは感動させられるのではないかそんなことを想像しながら「未来の冷蔵庫」を考えています。

例えばこれまでの先行開発から三菱冷蔵庫に実装された機能はどんなものですか。

鈴木

我々が常に念頭に置いているのは、“生活シーンの困りごと”を解決してあげること。最近は共働き世帯も増えているため、毎日お忙しい生活の中で料理をすることが大変だと感じていらっしゃるお客様が大勢いらっしゃいます。平日に備えてまとめ買いしたお肉やお魚を冷凍保存されているご家庭も多いと思いますが、夕食の支度時に、使う予定だったのに解凍をし忘れていたり、急いで解凍しようとして失敗すると困ってしまいますよね。そこでお困りごとを解決するために、三菱冷蔵庫に実装したのが肉や魚を生のまま※1長期間保存できる「氷点下ストッカーD A.I」という機能です。

  • ※1:食品の種類や保存量、投入時の状態により凍る場合があります。

長年の先行研究で結実した三菱冷蔵庫「氷点下ストッカー」

氷点下ストッカー。どのような機能なのでしょうか。

鈴木

お肉・お魚は「冷凍しておかないと長持ちしない」というのが一般常識だと思います。しかし三菱冷蔵庫の氷点下ストッカーは冷蔵室・チルドより低温の約マイナス3〜0℃※2に保たれており、さらに氷点下にも関わらず、食品を凍らせません※1。例えば冷蔵室・チルドなら3〜4日間くらいしか鮮度を保てない牛ステーキ肉も、「氷点下ストッカーD A.I.」なら約10日間※3持ちます。生の状態で保存できるため鮮度を保てるうえ、解凍の手間が要りません。

  • ※2:運転状況により0℃を超える場合があります。
  • ※3:K値、生菌数、酸化等、総合的に判断しています。MR-MZ60Jにて氷点下ストッカールームを「氷点下保存」、冷蔵、チルドは冷蔵室「中」設定。食品の消費期限延長を保証するものではありません。 外気温25℃、各部屋における牛ももステーキ肉の生菌数(単位 CFU/g)。初期値3×103に対し、ひろびろ氷点下ストッカーD A.I. 10日:5×104、チルド 4日:1×104、冷蔵室 3日:2×104。生菌数は一般的に107が初期腐敗とされています。

なぜそんなことが可能なのでしょうか。

鈴木

“過冷却現象”を応用しています。ペットボトルに入れて冷やした水をポタポタお皿に垂らすと瞬時に凍って氷柱ができるそんな実験映像を見たことがありませんか? 通常、水は0℃を下回ると「液体→固体(氷)」への状態変化を起こします。しかし実は0℃を下回っても、その変化が起こらない状態というのがある。ちなみに過冷却状態にある水は、結晶化が起こらないままの状態が維持されている状態になっており、振動などの刺激を加えることで一気に結晶化が進みます。過冷却状態を保つためには、細かい温度コントロールをしなければなりません。狙いの温度に保てないと凍ってしまいますからそこは何度も実証を重ねました。長年の先行開発で結実し、やっと市場に出せた機能なんです。

3RD CERAMICSのお2人は冷蔵庫に何かこだわりなどありますか。

長屋

どうだろう…。自分はビール党なので冷蔵庫には常にビール缶を何本も冷やしておくことですかね(笑)。ただお話を聞いていて思ったのは、いろいろな家電があるなかでも冷蔵庫は少し特殊だということですね。「冷やす」という目的は明快だし、常にスイッチはオン状態。でも使っている側は冷蔵庫が食品をどうやって冷やしてくれているのかまで考えません。そういう意味では非常に生活道具っぽいし、使う側に委ねられている感じがします。自分たちとの陶芸とも通じるところがあるかもしれませんね。

土井

同感ですね。他の家電って実際に自分の手で“触る”機会が案外なかったりしますが、冷蔵庫は毎日のように自分の手で開閉しますよね。触るからこそ「こうなったらいいのにな」なんてことも考えることもあります。だからこそ先行開発グループの皆さんのお仕事は大変だろうし、ハイテクに進化をさせながらもアナログな進化も遂げている、非常に面白い家電だと思いました。(後篇へ続く)