職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

錺職人 野依 祐月 × 三菱冷蔵庫 技術第一課 牛丸 晃太

#06 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 前篇一点ものの味わいも量産品の均一性も
ものづくりの醍醐味

(対談篇 前篇)

錺金具づくりを見学させていただいた後、同じ工房内で、
同社・野依祐月さんと三菱電機・牛丸晃太の対談を行いました。

“ものづくり”にずっと憧れてきた

野依さんは、ご実家の工房に入る形で職人の道を選ばれました。その経緯をお聞かせください。

野依祐月さん(以下、野依)

自宅の1階が工房ですから、学校から帰ると、そこで仕事をしている家族の姿がいつも目に入ってきました。振り返れば、それが原体験だと思います。大学卒業後、いったんは一般企業で会社員を経験しました。接客業を経て、かねてから興味があったものづくりの業界を目指し、アパレルメーカーに転職。企画の部署に配属され、ブランドのコンセプト作りやデザイン案の検討に関わりました。それはそれで充実していたのですが、実際にものをつくるデザイナーやパタンナーはほかにいましたので、そのうちに物足りなくなってしまって…。自分の「手」で、一からものをつくってみたい。そんな思いが募り、実家の工房に入ろうと決意しました。2021年11月のことです。

「NOYORI」では、仏具にとどまらず、アクセサリーも手がけていらっしゃるのが特徴です。

野依

父が立ち上げた新しい事業です。収益の柱にしたいというよりは、一般の方の目に留まりやすいアクセサリーを通じて、「尾張仏具のPRに繋げたい」との思いが強くあります。

牛丸さんが三菱電機に入社された経緯をお聞かせいただけますか。

牛丸晃太(以下、牛丸)

大学院の専攻は電気電子関連で、物体の電子の動きといったミクロな世界を対象にしていました。でも、その反動なのか、次第に「見えるもの」を扱いたいと思うようになったのです。そういう「もの」をつくることへの憧れも芽生えました。エンジニア職に絞って就職活動をしたのは、学んできたことをものづくりに活かせると考えたからです。どうせなら身近なものをつくりたい。そんな気持ちもありました。「あなたが手掛けたんだね」と周りの人に言ってもらえれば、やりがいにつながるだろうと。こうして、自然な流れで家電業界に関心が向かい、縁あって三菱電機に入社しました。現在は4年目です。

入社時からの配属先である冷蔵庫技術第一課について、業務内容を教えてください。

牛丸

国内をメインに販売する冷蔵庫の設計開発を行っています。私の所属するグループの役割は、CAD(Computer Aided Design)と呼ばれるモデリングソフトウェアを活用して、3Dモデルの作成や強度解析を行い、冷蔵庫の部品を設計することです。なかでも、冷蔵庫の扉の表面に使われる「ガラス面材」の意匠開発に力を注いできました。

「設計」と「製造」が隣り合わせにある強み

「ガラス面材」の意匠開発とは、具体的にどう進めていくのでしょうか。

牛丸

神奈川県大船市に三菱電機のデザイン部門を総括する統合デザイン研究所(以下、ID研という)があり、静岡製作所の私が所属する設計部門、同じく製作所内の営業部門と製造部門の4つでチームを組みます。家電の最新トレンドに基づくデザインの基本的な方針がID研から示されるところがスタートラインです。それを受け取った静岡製作所の設計部門と営業部門は、「これまで三菱電機が打ち出してきたデザインの一貫性はキープできるか」「今後さらにトレンドが変化する可能性はないのか」といったさまざまな視点で精査。こうして実際の設計に落とし込む作業を、私たちの部署が担当しています。

ものづくりの現場を支える
職人魂×チームプレー

その際は、フィードバックを受けて修正していくのでしょうか。

牛丸

そのとおりです。試作品を作り、レビューする。これを何度も繰り返すことでデザインを仕上げていきます。ガラス面材は印刷技術が肝で、インクの配合の微妙なさじ加減が鍵を握ります。ガラス面材のメーカーさんや商社さんと協力して、何度もサンプルを作って試すのはそのためです。

他社でも同じようなプロセスをたどるのでしょうか。

牛丸

デザイン決めのプロセスに関しては、恐らくそうでしょう。ですが量産の工程に関しては、独自性があるのではないかと考えております。静岡製作所は、実際に冷蔵庫を製造する部門が設計部門の隣にあります。他社だと海外に製造部門があるケースも多いので、これはかなり珍しいはずです。対面でミーティングができるなど連携がしやすく、そのメリットは計り知れません。開発中のみならず、量産に入って生産ラインで発生した不具合に、迅速に対応できますし、より良い製品を作るための環境が整っているといえます。

野依

かつて勤めていたアパレルメーカーも、製造部門は海外にあり、メールや電話を使うしかなかったことを思い出しました。尾張仏具の場合、各工程を職人が分担するリレー方式なので、実はチームプレーです。そこは牛丸さんの職場にも近いと思います。

牛丸

確かに共通点がありますね。一方で、先ほど野依さんの実演を拝見し、手作りの味わいを目の当たりにして、冷蔵庫との違いも痛感しました。工業製品では、高い品質のものを均一に量産することが重視されますから。

野依

「一点もの」を作れるのは、私たちの仕事ならではかもしれません。

牛丸

おそらくユーザーのニーズが異なるんだろうなという気付きがありました。

日本市場では、どんなデザインの冷蔵庫が好まれるのでしょうか。

牛丸

インテリア全体が調和するような、シンプルでニュートラルなデザインには根強い人気があります。加えて近年は、人や社会、環境に配慮した「エシカル消費」の志向が強まったせいか、人工的すぎず、ナチュラルさが求められるようになりました。色だと真っ白ではなく若干赤味のある暖かい色。柄だと幾何学模様よりも木目調。弊社のメイン機種である「MZシリーズ」と「WZシリーズ」で展開していたカラーは、フロストグレインブラウン、グレイングレージュ、グレインクリアの3色でしたが、先日発売した新しいモデルでは、その3色を踏まえて、色調を低彩度にしています。これも最新トレンドを踏まえたものです。

市場の動向をいかにとらえるかが大切なんですね。

牛丸

アイデアの素になるのは、お客様の声です。「鍋を入れやすくしてほしい」「ものを細かく整理できるようにしてほしい」といったふんわりしたご要望に対し、より多くのお客様の答えになるような仕様を検討する。その試行錯誤の繰り返しにやりがいを感じます。

野依

私の場合、アクセサリーだと一般のお客様と接する機会も多く、そのときに伺ったご意見やご感想を次の制作に生かしています。