工房訪問篇 岐阜提灯製造本舗「安藤商店」
上質な美濃和紙と竹を用いて、江戸時代からつづく伝統技法によってつくられる岐阜提灯。
岐阜城の城下町にある安藤商店では、古くからの技法を守りながら、提灯、雪洞(ぼんぼり)、水団扇など幅広い製品を手掛けています。
創業100年、
伝統の灯を守りつづける安藤商店
かつて尾張藩のお膝元だった岐阜市は、自然と人の暮らしがバランスよく共存している由緒ある都市。壮大な金華山の近くを流れる日本三大清流・長良川の水運によって、材料となる竹や木材、美濃和紙がこの地に運ばれたことから、江戸時代より提灯や和傘などの産業が発展してきました。
岐阜市梶川町に位置する「安藤商店」は、提灯・雪洞製造を手がける老舗です。初代・安藤安吉が1921年に創業、現在、4代目を務める安藤安伸さんは、100年以上続く先代や職人の技を後世に引き継ぎたいという意志のもと、伝統工芸品としての提灯づくりだけでなく、インテリア照明としてモダンなデザインの提灯や雪洞を開発するなど、新たな製品作りへのチャレンジを続けています。
一筆入魂
スピードが命
岐阜提灯と雪洞はどのようにつくられるのか、安藤商店の工房に伺いました。
こちらでは提灯に家紋や絵柄を描く作業を行なっています。提灯本体部分を「火袋(ひぶくろ)」と言い、大小さまざまな形状・サイズがあります。火袋は提携先の提灯職人が仕上げ、家紋などの絵付けをした後に口輪と呼ばれる上下部分の装飾を施す職人へ渡して分業制で仕上げます。
昔は家紋の下絵を「ぶんまわし」と呼ばれるコンパス1本で描いていましたが、今はトレース(転写)して描くのが主流となっています。とは言え、提灯は球体のため場所によってはトレース紙にシワが寄ってしまうため、高度な職人技が求められる部分です。
下絵の次は、いよいよ塗り作業。安藤商店の絵付け師、入社3年目の河合寛恵さんにお話を伺いました。
「一筆で形をつくります。スピードが大切で、早い方が綺麗に仕上げることができるんです。また、天候と湿度によっても筆の乗りが違うので、塗料の濃度を微調整しながらその日のベストを探ります。墨以外にも、屋外での使用を想定した耐水性の塗料も使用することもあります。」(河合さん)
興味深く作業を見つめていた三菱電機・袴田浩之も、塗り工程を体験させていただきました。
「中心から外へ向けて塗ってみてください。縁を塗ったら面として中を塗っていく感じです」(河合さん)
「…滲みやすいですね。凹凸があるので筆づかいが難しいです」(袴田)
「筆を立てて塗るとエッジが効きます。広い面を塗る時は筆を寝かせて。
筆のご機嫌と、墨のご機嫌を伺いながら塗ります」(河合さん)
「いやぁ、これは難しい(笑)」(袴田)
一筆で形をつくります
スピードが大切
繊細な指遣いで
美しい光を紡ぎ出す
つづいて、雪洞の製造現場に伺いました。雪洞の光が透過する骨組み部分を「ホヤ」と言います。国から指定されている伝統的工芸品の場合は、100年以上前と同じ技法を使い、美濃和紙または正絹(しょうけん)に絵柄を手描きします。現代の雪洞の絵柄には手描きと印刷があり、今回は印刷の製品の生地を貼る作業を、入社8年目の浅野絵理さんに見せていただきました。関連会社でつくられる「ホヤ」は手作りで微妙にサイズが異なるため、ガイドとなる型紙を用い、生地をカットして微調整しながら貼っていきます。
「特に川のように線の繋がりがある絵柄は、ずれないように神経を使います」(浅野さん)
作業台の上に並べられた生地は非常に薄く、1枚ずつ人差し指と薬指で丁寧に挟んで「ホヤ」の内側に貼り付けていきます。貼った後は箸を使って慣らしていきますが、力を入れすぎるとシワが入ってしまうので、やさしく撫でるようにするのが大切とのこと。入社当時、浅野さんは小さい雪洞で練習を重ねたそうですが、なかなか製品になるものができなかったと振り返ります。
こちらでも、袴田が雪洞の貼り作業を体験させていただきました。「ホヤ」の内側にボンドを塗り、いよいよ生地貼りへ。人差し指と薬指で生地を挟み、ゆっくりと接着面の位置決めをしていきます。
「まずは底面を接着して、徐々に上の方へ左右幅を見ながら貼ってください」(浅野さん)
「…あ、シワが入ってしまいました。難しいですね」(袴田)
「でも、しっかり真ん中に貼れていますよ」(浅野さん)
提灯の絵付け、雪洞の貼り作業を終えた袴田に感想を聞いてみました。
「絵付けは筆の置き具合を変えて、滲まないようにするのに苦労しました。綺麗に一発で塗れると気持ちいいですね。貼り作業は、いちばん最初に貼ったところがピンと貼れませんでした・・難しかったです。お二人とも職人としてひとつひとつ、丁寧かつ手際良く手作りしている姿が印象的でした」(袴田)
工房から場所を移し、安藤商店が運営するカフェ「川原町屋」で河合さん、浅野さんと袴田の対談を開催。それぞれの、ものづくりへの思いを語り合っていただきました。
- 取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
- 2024.08.01