職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

染付職人 加藤 真雪 × 三菱電機  中津川製作所 換気扇技術第二課 澤部 健司

#08 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 後篇使う人をイメージし続けることの大切さ

(対談篇 後篇)

職人として、エンジニアとして。ものづくりへの姿勢とお客様に対する想いについて、
2人の対談は続きます。

職人技とエンジニアリングに見る
お客様視点の重要性

職人として、エンジニアとして日々心がけていることを教えてください。

加藤

ひと手間に気持ちを込めるかどうかで、本当に仕上がりが変わってくるので初心を忘れてはいけないなと。「手仕事の温もりが伝わる」ということを父がずっと言ってきたので、そこは本当に気を付けて丁寧な仕事を心がけています。

澤部

お客様の声と市場の声をしっかり聞くことが大事だと思っています。その中で、こんな製品を作りたいという考えを商品化するために、仮説を裏付けるデータを含め、しっかりと必要性を固めながら製品開発を進めていくことをいつも意識しています。

加藤

私もお客様が使うシーンや、どういう人が使うのだろうと考えながら作っています。器の使い方をSNSで発信するのですが、逆に「そういう使い方もあるのか!」という新鮮な刺激をもらうこともあります。例えば和風テイストの器にタイカレーやパスタを盛り付けたり。お客様から想像もしなかったフィードバックがあると、私たちもまた次のお客様に新しい使い方をご提案できるので、すごく良いなと思います。

澤部

実際に製品を使用されている現場を観察することがあるのですが、想像しているのと違う使い方をお客様がされていることって、結構ありますね。例えば、サイドオープン設計のジェットタオルは横から手を入れて上に引き抜くと効率良く乾かすことができるので、この使い方をお勧めしてますが、街中でこの動作を見かけたときは、おおっ!と思いうれしくなります。

商品開発をする中で、風を受ける時の手触り、手の感覚も意識するのでしょうか。

澤部

直接お客様が使う商品なので、感覚というのは大事にしています。風の出るスピード、乾いたとどれ位で感じるか、水の跳ね返りが気にならないか。そういう感覚的な評価も取り入れています。この製品はメインの吹き出し口の上にもう1個穴が空いていますが、ここからは薄い風が出ます。実際に手を入れた場合、手に当たった後のほとんどの風は下に行きますが、若干上に漏れる風もあります。それが人の方に向かって水滴が飛散する原因になるので、ここの風は簡単に言えばエアカーテンのように、返ってくるものをやさしく跳ね返すということをしています。

手づくりをされる加藤さんにとって、手触り、手の感覚を意識するのはどのような時でしょうか。

加藤

普段の生活で使うものなので、お客様が手にした時の持ちやすさは意識します。あとは手仕事なので、機械ではできない繊細な口元の仕上げをする時ですね。特にマグカップなどの飲み物系は、持ちやすさもそうですけど、口当たりについては気にして仕上げるようにしています。

私たちも未来に
繋いでいけるようにしたい

2人の挑戦は
立ち止まらない

では、今後の目標についてお聞かせいただけますでしょうか。

加藤

瀬戸染付焼をもっとたくさんの方に知っていただきたいです。最近は海外のお客様も多くいらっしゃるので、日本だけなく世界中の国々へも届けたいと思っています。先ほどの“濃み(だみ)”に使う筆も、職人さんが高齢で辞められてしまって。やはりそれを繋いでくれた人がいるから、染付焼に携わることができるので、私たちも未来に繋いでいけるようにしたいです。来年、やる気のある若い職人さんが入ってくるので、一緒に新しいものも作って瀬戸染付焼を盛り上げ、生まれ育った瀬戸に貢献していきたいです。

澤部

ジェットタオルは単純に手を乾かすだけの機械ですが、最新の商品ではヘルスエアー®機能搭載循環ファンを内蔵することで、周囲の空気を綺麗にするものがあります。これからも手を乾かすだけでなく、プラスアルファの価値を提供できる商品を提案していきたいです。

最後に、本日の対談の感想をお聞かせください。

加藤

いつも心掛けていることではありますが、改めて使う人を第一に考えることの大切さに気づかされました。私たちの場合、これを作りたい、この形状が良いというこだわりを求められる部分があって、その上で使い勝手を考える。なんとなく良いからこうしました、というのはすべてのことに理由を求められる澤部さんの世界では通用しないなと。そこが手仕事と工業製品の違いではあるのですが、使う人のことを思って色々な改良を重ねていったり、丸みを帯びたデザインや設置した時の雰囲気を大事にするところは同じだと感じました。

澤部

色や質感、手触り、雰囲気など感覚的な部分において、自分たちの製品も使うところをイメージして形作っていくところがあるので、使う人がどう感じてどう思うか、ということを考えて形にするところは非常に共通しているポイントだと思いました。

本日はどうもありがとうございました。

工房見学の合間に、2人が磁器を前に色味について
言葉を交わしていました。
同じ白色でも時代によって違うこと、
今はマット系が人気であることなど‥。
ほんの一瞬の出来事でしたが、
職人とエンジニアという垣根を越えて、
純粋なつくり手として語り合う姿を
垣間見ることができました。
先人が培った技術を大切に受け継ぎながら、
時代に合わせて研ぎ澄まし、
新たな価値をつくり出していく。
瀬戸染付焼とジェットタオル、
そのどちらにも日本人の繊細なものづくりの
美学が宿っていると感じた対談でした。