R&D NOTE
開発NOTE
SCROLL
さまざまなシーンでAI(人工知能)の活用が進む中、製造現場でも人の作業をAIで分析することにより、生産性や品質を向上させる取り組みが進められています。しかし、従来型のAIでは教師データ※の作成に膨大な時間がかかるため、AI導入のハードルとなっています。
三菱電機は、教師データを作成することなく高速・高精度に作業を分析する「行動分析AI」を開発しました。今回は、その研究開発と社会実装に向けて奔走する先端技術総合研究所のキーパーソンに注目します。
※教師データ:AIの機械学習に用いる、例題と正解がセットになったデータ
製造現場のニーズを知って、
開発の方向性を定めました
当時、教師データなしで人の行動を分析できる技術は、世の中でもあまり研究が進んでいませんでした。これを実現できれば、多くの人の助けになるかもしれない。そう思って研究開発をスタートしました。
当初は、人のあらゆる行動を対象として開発を進めていましたが、それがどのように人の助けになるのか、具体的なイメージは描けていませんでした。スタートから2年ほど経った頃、工場の製造現場では、生産性や品質を向上するために人の作業を目視で分析しており、膨大な手間と時間がかかっていることを知りました。そこから、製造現場の人の助けになることを目指して開発を進めました。
まずは実際の製造現場へ足を運び、作業の動きを計測させてもらいました。目を皿にして計測データを観察する中で「製造現場では作業の動きが決められているため、人は同じ作業をするときは似た動きを、違う作業をするときは似ていない動きをする」ことに気づきました。つまり、教師データで「どの作業のときにどんな動きをする」のか教えなくても、似た動きは同じ作業、似ていない動きは違う作業として見分けるだけで、作業を分析できることに気づきました。
この成果は、2019年に「人のわずかな動作の違いも見つける行動分析AI」として発表し、大きな反響がありました。このとき、作業の分析時間を目視と比べて約90%減らせることを実証しました。ただ、製造現場の人の助けになるためには、もう一段階の性能向上が必要だと考えていました。
技術ではなく実現できることを伝えるよう心掛けています
そこで着目したのが、製造現場には同じ手順を繰り返す作業が多くあるということです。この繰り返し作業に特化することで、2019年に発表した技術を、より高速で高精度な技術へと進化させました。お客様の製造現場で作業の分析時間を最大99%減らせることを実証し、2024年1月にはその成果を「IIFES 2024」という展示会で披露しました。
ADVANCED TECHNOLOGY
R&D CENTER
先端技術総合研究所
ソリューション共創センター
主席研究員
島崎 裕介
IIFES展では、お客様にこの技術を使っていただき、さらに価値ある技術へとしたい思いでご説明したところ、非常に大きな反響を得られました。IIFES展でつながったお客様数社とは、いまも共同実証を進めており、お客様が当社技術を用いて課題を解決してゆく取り組みを行っています。
私が所属する部署では、お客様のニーズにこのような先端技術を結びつけていき、社会実装へと近づけていく役割を担っています。お客様に興味を持っていただくためには、技術について詳しく説明するのではなく、技術を使うことで「お客様が何を実現できるか」「どのようなうれしさがあるか」を伝えるよう、心がけています。
製造現場にマッチしたこの行動分析AIですが、製造以外の作業や日常生活の動きにも適用できる可能性を秘めています。私はそうした未来も見据え、幅広いお客様に価値を伝えていこうと努めています。
世の中に出して初めて役立つ。その思いで仕事に臨んでいます
生み出された技術がどれだけ優れたものであっても、世の中に出ていって活用されなければもったいないです。お客様へのヒアリングで得られた要望を開発組織に伝えて、行動分析AIを世の中で使われていくものへと変えていくことが、私たちのミッションです。
ADVANCED TECHNOLOGY
R&D CENTER
現時点の行動分析AIは、まだまだ発展途上の技術です。製造現場でいえば、生産性や品質のほかにも安全性や働きやすさ、省エネといった課題も残されています。引き続き行動分析の研究開発を進めて、その成果を世の中へ届ける流れをつくること、またその先の技術をしっかり育てていくことが大切だと思っています。
行動分析AIは、私の学生時代からの「人の助けになる技術をつくりたい」という思いをもって開発してきました。これからも、困っている誰かの助けになる技術を開発していきたいと思います。
────三菱電機の魅力や、三菱電機を目指す皆さんへのメッセージをお願いします。
お客様の幸せを実装し、社会に新しい価値をつくりたいという人に来てほしい
「いまの仕事では、技術をお客様が『感動』するように伝えること、また社会に貢献するために知恵を絞って課題を解決していくことに、楽しさや面白さを感じています。先端技術総合研究所には、お客様のことを考え、その幸せを実装する技術を楽しく作っていける人に来ていただけると嬉しいです。」
「三菱電機には、自由度高く研究開発に取り組める環境があると感じています。提案を聞いてもらえる場がありますし、チャレンジする機会も豊富です。社会に役立つこんな技術を開発したい、社会にこんな新しい価値をつくりたいという思いがある人に、ぜひ来ていただきたいです。」
PROFILE
先端技術総合研究所
センサ情報処理システム技術部
主席研究員
八田 俊之
2014年4月入社。1年目に与えられた「行動分析関連でデモができる開発」との課題に対し、教師データが不要な行動分析のコンセプトを思い立つ。2児の父で、家では子どもたちの行動を眺めているのが好きだという。
2014年4月入社。1年目に与えられた「行動分析関連でデモができる開発」との課題に対し、教師データが不要な行動分析のコンセプトを思い立つ。2児の父で、家では子どもたちの行動を眺めているのが好きだという。
先端技術総合研究所
ソリューション共創センター
主席研究員
島崎 裕介
2009年4月入社。名古屋製作所でお客様技術サポートを中心に13年勤務した後、先端技術総合研究所の現ソリューション共創センターに異動し、技術の事業化などに取り組む。音楽ライブでジャンプをするのが好きで、高みをめざしてジムなどで鍛えているとのこと。
2009年4月入社。名古屋製作所でお客様技術サポートを中心に13年勤務した後、先端技術総合研究所の現ソリューション共創センターに異動し、技術の事業化などに取り組む。音楽ライブでジャンプをするのが好きで、高みをめざしてジムなどで鍛えているとのこと。