各事業所で、生きもの調査から
始まる自然との共生を推進
希少種保全と工事に伴う代替環境の整備をテーマに
伊丹地区では、生きもの調査の結果を踏まえ、外来生物の防除や希少種の保全に取り組んでいます。また、トンボなどの生育環境を模したビオトープを設置し、生きものが暮らしやすい環境を整備するとともに、生物多様性勉強会やビオトープの維持管理作業など、従業員参加型の活動を積極的に展開しています。
活動は主に伊丹製作所、系統変電システム製作所、電子通信システム製作所、コミュニケーション・ネットワーク製作所、西部地区研究所が主導し、同じ地区内にある関係会社の菱彩テクニカ(株)とも連携。年2回の活動連絡会や勉強会の準備などで情報共有しながら、グループ一体となって取り組んでいます。
事業所所在地
〒661-8661 兵庫県尼崎市塚口本町八丁目1番1号
主な取扱製品
<伊丹製作所>
交通システム・エンジニアリング(車両システム、交通情報通信システム)及び車両用電機品(主電動機、制御装置、電源装置、ブレーキ電機品、車上情報装置、車上保安装置ほか)
<系統変電システム製作所>
電力系統・変電システムエンジニアリング、ガス遮断器、ガス絶縁開閉装置
<電子通信システム製作所>
情報通信システム、端末機器、電子応用機器および電子デバイスの設計、製造、試験
<コミュニケーション・ネットワーク製作所>
情報通信システム、機器の設計、製造、試験
<西部地区研究所>
電機、電子、産業、情報、環境、設計、生産、製造等の関連技術の研究開発
主な取組みテーマ
三菱電機伊丹地区
- ■生きもの調査で確認された外来生物の防除を検討 [A-1-(1)] [A-1-(2)]
- ■生きもの調査で発見した希少種を保全 [A-2-(2)]
- ■従来存在した水環境を回復するビオトープを造成 [A-1-(1)] [B-4-(1)] [B-4-(2)] [B-4-(3)] [B-4-(4)] [B-5-(1)]
- ■新道沿いでの緑地造成にてビオトープ拡大を狙う [B-4-(1)] [B-4-(2)] [B-4-(3)]
- ■従業員のストレス低減にみどりを活用 [C-6-(1)]
菱彩テクニカ(株)
- ■従業員のマインド育成と地域社会との接点としてビオトープを設置 [C-7-(1)] [C-7-(2)]
[ ] 内は取組みテーマの分類を示します。詳細については以下を参照ください。
取組みの特徴
三菱電機伊丹地区
- ■構内で発見された希少種「ムクロジ」を保全
- ■トンボなどが活用できる環境として、水場を含み、地域在来の植物からなるビオトープ(イタトープ)を造成
- ■敷地内の既存の水場についても、ビオトープとしての環境整備を検討
- ■敷地内での緑地面積の回復に向けて、新ビオトープと連携する緑地帯造成を構想。圃場としての地域種苗導入を計画
- ■緑の持つストレス低減効果の活用の一環として、産業医室利用者の心理へ配慮した鉢植えの設置やオフィス内での鉢植えの机上設置を開始
菱彩テクニカ(株)
- ■ビオトープを従業員が手づくり
伊丹地区の活動の方向性
以下は三菱電機グループの各事業所による生物多様性保全活動の方向性を示した一覧表です。
伊丹地区の活動がどの方向性に当てはまるのかを、色で示しています。
地元の自然と調和し、生きものを呼び込める緑地づくり
活動の方向性 |
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※1開発圧:棲みかの破壊。事業拠点を新たに建設することや、天然資源の採取などのために開発が行われること(サプライチェーンでの開発を含めて)、などが該当。操業による水の使用が周辺地域や水源、ひいては生きものの生息環境に影響を与える場合などもこれに含まれると考えられる。
※2外来種圧:その地域にもともと存在しない生きものが、外構や建物の脇の緑地、生垣などをつくる際に地域の外から樹木や草木を導入することがある。何気なく行われる生きものの移動が、地域固有の種の生息を脅かしたり、遺伝的な汚染の原因となることがある。
※3外来生物法の「特定外来生物の飼育、栽培、保管又は運搬」に関する規定に則り活動を実施。
生きもの調査結果
伊丹地区は、外部の調査会社の協力のもと、2016年5月、8月、11月、2017年2月の4回に分けて生きもの調査を実施しました。この結果、205種の植物と、115種の昆虫、23種の水生生物(一部昆虫と重複)を確認できました。
また、2021年度には第2回調査を実施しました。結果は以下の通りです。
このほか、イタトープ・南イタトープで「生物多様性モニタリング」を毎年2回実施。トンボ、水生生物、植物の状況を確認しています。
考察と行動
2016年度の調査を経て、専門家からは以下のような報告と、今後の活動へのアドバイスをいただきました。この内容をもとに、その後の効果測定の結果も踏まえて、生物多様性保全に向けた施策を展開しています。
報告の主なポイント
(2016年度 初回調査)
敷地内には少数ながら地域在来の生物が生息
- ■伊丹地区の敷地が地域の生物ネットワークの一端を担っていると見られる。
水辺:特にトンボ類にとって都市部では大切な繁殖場所となっている。水田やため池を好む種を中心に7種類を確認。ギンヤンマやアオモンイトトンボでは産卵行動、シオカラトンボ、ウスバキトンボでは幼虫も。
樹林:重要種「ムクロジ※1」「ヤマトアシナガバチ※2」を確認。エノキ、ムクノキ、アラカシなど、周辺の河川で見られる樹木も生育。
複数の外来種も確認
- ■敷地内から外来種が周辺地域に広がる恐れがある。確認種のうち14種は、兵庫県ブラックリスト※3の掲載種。
※1兵庫県版レッドデータブック2010(植物・群落)において「C」に該当。環境省レッドデータブックの準絶滅危惧に相当
※2環境省レッドデータブック2014において「情報不足」
※3県内において生態系に与える影響が特に大きいと考えられる外来生物種をリスト化したもの(兵庫県、2010)。これらの生物については、基本的な対応方法もとりまとめられている
主なアドバイス内容
(2016年度 初回調査)
外来種は防除を推奨
- ■在来生態系への影響が大きいと考えられる兵庫県「ブラックリスト」掲載種は、優先的に防除することが望ましい。
従業員による外来植物の選択的除草を実施するほか、池については水を抜き、植栽を植え替えて、環境をリセットすることも検討。カダヤシなどの外来種を排除するとともに、周辺地域に生息する希少種、在来種を導入し、それらの保全につなげるなど。
工事に伴い水路がなくなることへの対応が必要
- ■地区を東西に横断する水路は、構内工事に伴ってなくなる予定であるため、対応が必要。
- ■水路はトンボ類などの生息場所となっており、魚類も確認。これら生物の新たな生息場所となる代替水域を創出することが望ましい(新たなビオトープ池など)。また、工事の際、水路に生息する外来生物が周辺に逃げ出さないよう注意が必要。
地域本来の植生をモデルとし、在来種を保全する森づくりを要検討
- ■ムクロジをはじめ、在来植物の実生(挿し木でなく実から生えた植物)を保全するほか、昆虫類の餌になるような在来樹種を用いて、昆虫類の生息に適した樹林環境を維持・創出するなど。
実施施策
継続施策
- ■ムクロジ(兵庫県版レッドリスト「C」分類)保全の取組みを継続。若木の一部をプランターで育て、離れた緑地に移植するなど。
- ■トンボ類などを保全することを目的に、水場を含み、地域在来の植物からなるビオトープ(イタトープ)を造成。また、敷地内に従来からあった池を「南イタトープ」と定めて管理。ともにトンボ類などが繁殖しやすいよう整備している。
- ■在来種に影響を及ぼす可能性がある外来種の防除を継続的に実施。イタトープでの選択的除草、南イタトープでのスイレン繁茂抑制、カダヤシ駆除など。
- ■従業員向けの勉強会を実施。年間にリモート勉強会を1回、野外勉強会を2回を基本とする。
2023年度 生物多様性モニタリングに基づくイタトープ・南イタトープの成果と課題
- ■2023年度時点の成果と課題
<成果>
- ・トンボは主な保全対象種(アオモンイトトンボ、ギンヤンマ、シオカラトンボ)の保全に貢献している。南イタトープではウスバキトンボのほか、イタトープでの保全が難しいショウジョウトンボでも繁殖を確認できた。
- ・希少種コマルケシゲンゴロウ(環境省レッドリスト純絶滅危惧種)をはじめ多くの水生昆虫なども確認されており、在来の水生生物の保全に貢献している。
- ・植物は19種を確認、外来種は4種のみ。イタトープでは設置時に植栽した植物10種のうち少なくとも8種が生存しており、在来植物を中心とした植生の維持に成功している。ヤガミスゲ(兵庫県版レッドリスト「A」分類)の生育も確認した。
- ・南イタトープでは特定外来生物であるカダヤシ(魚類)の駆除を完了。
<課題>
- ・イタトープでは植栽基盤が劣化して植物が生育困難になっている箇所があり、対策が必要。
- ・ビオトープ管理者が外来植物を正確に識別できるようにすることが望まれる。
- ■上記を受けた施策(一部検討中)
- ・ヤガミスゲを誤って除草することがないよう、イタトープ管理者に特徴を共有。
- ・イタトープの植栽基盤劣化への対策として、プランターの設置などを検討。
敷地内の製作所が連携
伊丹地区では、毎年振り返りをして活動のステップアップを図っています。伊丹地区の生物多様性保全推進担当者が集まって毎年「連絡会」を2回、「活動報告会」を1回開催し、1年間の活動内容などを共有しています。