各事業所で、生きもの調査から
始まる自然との共生を推進
「自分たちの力でできる息の長い活動」をコンセプトに活動を継続
神戸地区のある和田崎町は、瀬戸内海上に突き出した和田岬の東寄りに位置。人工的に埋め立てられている場所が多く、神戸地区の敷地も3分の2が埋立地となっています。そうした中で2023年3月、専門家のアドバイスのもと、「神戸にかつて存在したであろう河口部の湿地・原野、海浜環境の再現」をコンセプトとするビオトープを造成しました。このビオトープを活用し、地域在来の水生植物・水生生物の育成保全などに取り組んでいます。
環境施設課、総務課が連携し、各関係会社の協力のもと、生物多様性保全への活動を前進させています。
事業所所在地
〒652-8555 兵庫県神戸市兵庫区和田崎町一丁目1番2号
主な取扱製品
<神戸製作所>
官公庁・地方公共団体、上下水道・電力・鉄道・道路等の社会インフラ事業者、ビル施設分野向けの情報通信技術を基盤としたソリューションの提供、及び監視制御システム、広域運用管理システム、通信ネットワークシステム、各種情報システム、オゾン応用装置、運行管理システム、電力管理システム、交通変電用監視制御装置などの開発・製造・保守サービス
<電力システム製作所>
発電プラント・システムのエンジニアリング及び監視・制御装置、超電導応用製品、電力系統制御システム、電力流通関連システム
主な取組テーマ
- ■外来種管理 [A-1-(2)]
- ■従業員と関係会社・MDライフ(緑地管理担当者)による生きもの調査を実施 [A-2-(1)]
- ■希少種・地域在来種を保全 [A-2-(2)] [B-4-(1)] [B-4-(3)] [B-4-(4)]
[ ] 内は取組テーマの分類を示します。詳細については以下を参照ください。
取組の特徴
- ■従業員が生きもの調査を実施。また緑地管理担当者が樹木などの詳細調査を行い、結果を共有
- ■環境施設課、総務課、緑地管理担当者で頻繁に話し合いを行い、活動内容を検討。
外部有識者(兵庫県立人と自然の博物館)の意見も取り入れ - ■上記の調査結果を地区のイントラサイトで逐次公開
- ■チガヤ草地は定期的に刈り取りを行い、刈り取ったチガヤを近隣の三石神社の神事向けに提供
- ■保護エリアを設けて希少種「ハマハナヤスリ」を保全
- ■地域在来の植物の保全に向けてビオトープを造成
神戸地区の活動テーマと自然の特徴
従業員による調査から徐々に活動を拡大
神戸地区での活動は、2016年5月から7月にかけて環境施設課が実施した生きもの調査に始まります。このときは43種の動植物を確認できましたが、広い敷地内に緑地が分散していること、課内に生きものに詳しい従業員がいないことなど、課題も浮上。調査にせよ緑地管理にせよ、この状況で取り組めることは限られていました。そこで、環境施設課と総務部総務課に加え、緑地管理を担当するMDライフとも連携したチームを結成し、活動を展開することにしました。
2017年3月以降は結成したチームが主体となって植物調査や、その結果に基づいた取組内容の検討を推進。地元の「兵庫県立人と自然の博物館」にも相談して、2018年1月にはある程度指針を固め、“手づくり”でできることから取組を進めています。
2020年3月からは、三菱電機の「生物多様性ガイドライン(チェックシート)」※も活用しています。このチェックシートは事業所の活動実施レベルを評価するもので、生物多様性に関して企業が取り組むべき施策がチェック項目として網羅されています。これらをベースに活動計画・目標を定め、継続的なレベルアップに努めています。
また、2022年度には、専門家による生きもの調査の結果を踏まえて、地域在来種の保全を目的とするビオトープを造成しました。定期的に従業員による調査を行うほか、数年ごとに専門家による調査を予定し、生きものの状況の変化を確認しています。
※詳しくは「事業所の生物多様性保全施策について」をご覧ください。
地域の在来種・希少種を保全・活用
神戸地区では、外部有識者(兵庫県立人と自然の博物館)の意見なども参考に、地域の在来種である「チガヤ」の草地を保全する取組を、種の「保全」と生態系サービスの「活用」という2つの観点から続けています。あわせて、2021年11月に敷地内で発見された希少種「ハマハナヤスリ※」の保全にも取り組んでいます。
※ハマハナヤスリ:兵庫県版レッドデータブック2020 Bランク(環境省レッドリスト「絶滅危惧ⅠB類」相当)
(1)敷地内に保護エリアを設定 ~チガヤなどの生育場所を確保
敷地内に保護エリアを設定し、チガヤの草地を設けて水やりや草刈りなどの手入れを行っています。現在は2つの保護エリアでチガヤを育てており、健全な草地が維持されるようにすることはもちろん、刈り取ったチガヤを近隣の三石神社に提供し、神事に活用していただくことを踏まえて(後述)、当該神事に向いた丈が長い、葉柄の太いチガヤが育つ条件を模索しています。
また、管理にあたっては、チガヤと外見も植生もよく似た外来種「メリケンカルカヤ」を適切に排除できるよう、2つの種の見分け方をまとめた資料を関係者で共有するなどの工夫もしています。活動開始当初は穂の出る時期の違い(チガヤ:春~初夏、メリケンカルカヤ:秋)に着目し、チガヤが種を落とした7月中旬以降、穂が出る前のメリケンカルカヤを刈り取っていましたが、今では出穂前の状態でも区別がつくようになり、日常的に手入れを行っています。
あわせて、2021年11月に敷地内の芝地で見つかった希少種「ハマハナヤスリ」の保全にも取り組んでいます。環境の変化による枯死などのリスクを軽減すべく、地区内の2カ所に保全エリアを設け、発見した株の一部を移植しました。適宜、有識者に意見をいただきながら、保全に努めています。
(2)三石神社へ「チガヤ」を提供 ~地域の文化の保護に貢献
和田岬の三石神社では、毎年7月に「茅(ち)の輪くぐり」が行われます。これは国内各地で行われてきた神事のひとつで、チガヤやスゲなどの植物で大きな輪をつくり、その中を人がくぐることで病やケガレを祓うというものです。しかし、近年では輪の材料の調達に苦心しているとのお話を同社から伺いました。そこで2018年から神事の数日前に刈り取りを行い、得られたチガヤを提供しています。
地域の在来種は、ときとして伝統的な行事などにも活用されているケースがあります。環境に配慮した緑地管理を、文化の保護につなげる試みとして、今後もこの取組を継続していきます。
ビオトープを造成
神戸地区では2023年3月、敷地内にビオトープを造成しました。外部有識者の意見を参考に、神戸市内にかつて存在した河口部の湿地・原野、海浜の環境を再現したものです。神戸市から譲り受けた地域在来の植物を本ビオトープ内で育成し、希少な種の保全を進めています。
造成時に導入した地域在来種(オオフトイ、デンジソウ、ガガブタ、タコノアシ、トチカガミ)に加えて、6月には、神戸市の協力のもと、市内の明石川水系から在来魚3種(メダカ、タモロコ、モツゴ)を採取し、ビオトープ内に放流しました。今後は経過を観察し、これらの魚種の定着~繁殖状況を確認していく予定です。
また、当地区では2023年7月に、構内に1株だけ自生していた海浜性植物「ハマナデシコ」について、保全目的で種を採取。プランターで育成栽培しており、今では100株以上にまで数が増えています。2023年7月には、この一部も池の西側の海浜性植物エリアに移植し、その後は経過を観察しています。なお、こうした人の手による放流・植栽のほか、繁殖期に飛来したトンボが産卵、ヤゴが育っていることも確認されました。
ビオトープは人通りの多い建物の入り口付近に設置しており、活動の趣旨を説明する看板も設置しています。この看板の内容についても、適宜、最新の状況を反映していく予定です。
本ビオトープでの活動は、神戸地区の生物多様性への取組みを内外にアピールすることにも大きく貢献しています。この点が認められ、2023年度の所長表彰を受賞しました。引き続き、より多くの従業員に当地区の活動内容やその意義について発信していきます。
ビオトープギャラリー
クリックすると大きな写真を見ることができます。
-
タコノアシタコノアシ科
河原や水田など水位の変化する湿地に生える落葉性の多年草。
8~9月に茎の先にたくさんの白い花がついた枝を数本伸ばす。名前の由来は花期が終わった後の花序がまるでタコの足のように見えることから名付けられた。晩秋に全体が紅葉する。タコノアシタコノアシ科タコノアシ科 -
デンジソウデンジソウ科
水田や池、沼など流れのない湿地に生える落葉性のシダ。かつては水田の除草困難雑草だったが、除草剤に弱く、現在は各地で消失している。「四つ葉のクローバー」のような形で、小さな葉が田の字形に並ぶため、「田字草」(でんじそう)と名付けられた。花は咲かず胞子を形成するが、匍匐茎を伸ばして成長する。
デンジソウデンジソウ科デンジソウ科 -
ガガブタミツガシワ科
湖や池などの浅い水深の水辺に群生する多年生の浮葉植物。スイレンのような形の光沢がある葉を水面に広げる。7~10月に直径1.5cm程度の白い花(朝に咲き、夜に萎む一日花)をつけ、花びらには白い毛が多数ついている。名前の由来は「ガガ(カメ)」で水面に蓋をする意味からとされている。
ガガブタミツガシワ科ミツガシワ科 -
オオフトイカヤツリグサ科
ため池や水路などに生える落葉性の多年草。
水平に這う地下茎から細長い1mほどの茎を直立させ群生する。7~8月に薄茶色の目立たない花を茎の先端につける。
「太いイ(イグサ)」の大きいものという意味で「オオフトイ」と名付けられたが、実際には「イグサ科」ではなくカヤツリグサ科。オオフトイカヤツリグサ科カヤツリグサ科 -
トチカガミトチカガミ科
池、沼、河川、用水路などに生える多年草。葉の裏面中央の気嚢(きのう)と呼ばれる浮袋により水面に浮かび、8月~10月に純白の3枚の花弁からなる花を1日だけ咲かせる。神戸ではもう野生で見ることはできない。
「トチ」とは「スッポン」の意味で光沢のある丸い葉を鏡に見立てて名づけられた。トチカガミトチカガミ科トチカガミ科
剪定枝を活用してエコスタックを設置
当地区では2021年10月から、構内で剪定した樹木の枝や幹を活用し、昆虫などのすみかとなる「エコスタック」を設置しています。どのような生きものが見られるか2年にわたり観察したところ、アリやクモ、バッタなどの利用、キノコなどの発生が確認できた一方、設置位置が塀の影になることから、乾いた環境を好む生きものが少ないことが分かりました。
そこで2023年10月、従来とは位置を変えてもう一つエコスタックを追加しました。引き続き経過を観察し、より多様な生きものが利用できる環境づくりに努めています。
調査結果を分かりやすくまとめて、イントラサイトで従業員に公開
2016年5月から7月にかけて行った初めての調査では、35種の植物に加え、鳥類3種、虫5種も確認できました。渡り鳥が飛来する様子を目撃した従業員もあり、樹木の実などを食べに来ている可能性があることが分かりました。
2回目は、敷地内にある樹木の位置と種類、本数を確認する植栽調査で、2017年1月から3月にかけて実施しました。この調査では敷地内全体で約80種、7,000本ほどの木が生えていることが分かったほか、埋立地とそれ以外の部分で樹種の傾向が異なるという特徴も確認できました。
3回目は、2017年4月から9月、2018年4月から10月と2年かけて野草の調査を実施し、140種が自生していることを確認しました。その後も定期的に調査を実施し、構内の生きものの状況を確認しています。
神戸地区では、これら調査結果を「構内緑地植生マップ」として編集し、地区のイントラサイトで公開。9つに分割された敷地内の地図から各区画の生きものを参照できるようになっています。2018年12月に追加した「構内野草自生マップ」では、区画ごとの代表的な植物に加え、それらの開花時期も紹介するなど、従業員の興味を喚起する工夫も施しています。このほかにも、取組の指針や、現在進めている取組について、最新情報を適宜追加しています。また、将来的には、イベントでの展示など、地域に向けた情報発信も検討しています。
生物多様性ガイドライン(チェックシート)に基づく取組を推進
三菱電機では、事業所の生物多様性への取組状況を定量評価する「生物多様性ガイドライン(チェックシート)※」を策定しています。神戸地区では本ガイドラインをもとに、2本の柱で取組を進めています。
※生物多様性ガイドライン(チェックシート)についてはこちら
(1)外来種を管理・防除
構内にある外来の樹木のうち、ニセアカシアなど繁殖力の強いものについては管理ルールを設け、増えすぎることがないよう、適宜、新芽(根萌芽)の剪定などを行っています。
2023年には新たに構内で特定外来種「アルゼンチンアリ」が確認されたことから、神戸市や有識者に相談のうえ、薬剤の散布を行いました。その後は経過を観察中です。
(2)樹名板の設置を推進
従業員にもっと生きものに興味をもってもらおうと、2020年度から、構内で樹名板の設置を始めました。明るく親しみやすいデザインとするなど工夫を凝らすほか、設置に当たっては、海に隣接している土地柄も踏まえて素材や場所を検討しています。
単に種名を伝えるだけでなく、その樹種が吸収するCO₂量を記載したり、樹種の詳細説明を二次元コードから確認できるようにするなど、内容面でも工夫を凝らしています。従業員の興味を惹きつけ、生物多様性保全の意義について意識する一助となるよう、必要に応じてデザイン・内容を見直しています。
担当者コメント
神戸地区では三石神社へ奉納するチガヤの育成に始まり、構内への樹木プレートの設置、ビオトープの造成・希少種保全と、年々、新たな取組みを増やしてきました。これに伴い、地区内の従業員からの注目も少しずつですが高まってきていると感じています。今後も従業員の環境マインド醸成を促進していくとともに、周辺地域で行われる取組み、神戸市による取組みなどにも協力し、ネイチャーポジティブの実現に貢献していきます。
生産システム部 環境施設課
毎年7月に行われる和田岬の三石神社茅の輪くぐりが、神戸地区のチガヤの「晴れ舞台」です。長年継続しているチガヤ奉納は、地域との結びつきを強めるよい機会となっています。
生物多様性保全活動を長く続けていくために、引き続き「背伸びをしない、特定のメンバーに頼りすぎない」を意識し、神戸地区らしく地道に取り組んでいきます。
総務部 総務課
マネジメントの声
2023年度はビオトープに新たな生きものを導入しました。当初は地域在来の植物を育成するというコンセプトだったのですが、神戸市とも相談して、魚類3種を加えたものです。これにとどまらず、活動の中身やコンセプトは続けていく中でブラッシュアップしていければと思っています。
あわせて、その状況をこまめに従業員に発信していくことも重要です。直近では当地区の活動について所長表彰をいただき、関係者一同、大いに励みになりました。少しずつ活動への理解が広がっており、確かな手ごたえを感じています。
電力システム製作所 生産システム部 部長 古賀 清訓(写真右から2番目)
野外教室など機能緑地を活用した取組みへの参加者をもっと増やすために、引き続き活動内容をブラッシュアップしながら、個々の従業員にアピールしていく必要があると思っています。例えば、ビオトープは人通りの多い場所にあるので、ベンチを設置するなど、その場にとどまってもらうような工夫をしていきたいですね。
電力システム製作所 生産システム部 環境施設課 課長 辻 宏哲(写真左)
ビオトープについては鳥類やトンボの仲間が利用しやすいよう進化させていきたいです。そのためには、巣箱や草むらを用意するなど、生きものがそこに棲める、留まれるという観点での改善が必要です。安心して利用できるよう、人のいない時間帯を設けるなどの工夫をしてもいいかもしれません。従業員へのアピールとバランスを取りながら検討していければと考えています。
電力システム製作所 生産システム部 環境施設課 副課長 佐藤 健太郎(写真左から2番目)
現状で生物多様性保全に関わっているメンバーは総じてモチベーションが高いのですが、人が入れ替わった後も活動が継続するかを常に気にしていきたいです。例えばチガヤの育成などは、数年続けたことで奉納先の神社に喜んでいただけるものが育つようになりました。あまり肩肘を張ることなく、長期に取り組むことで成果につながるケースもあると思っています。
神戸製作所 総務部 総務課 課長 中島 栄吉(写真右)