コラム
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2004年 8月分 vol.1
タイタンに桃源郷はあるか。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


土星探査機カッシーニが2004年7月27日に撮影した、土星最大の衛星タイタン。自然色で撮影。濃密なみかん色の大気に覆われている。(NASA/JPL/Space Science Institute)  右は7月末に土星探査機カッシーニから送られてきた、土星最大の衛星タイタン。実際の色ナチュラルカラーの画像だ。そう、分厚いガスに覆われているために正直言って、見た目にはあまりドラマチックとは言えない、「みかん色の星」だ。

 でも、外からは簡単にうかがい知ることができないからこそ、タイタンは魅力的であるとも言える。太陽系で唯一、「濃い大気」を持つ衛星。その大気は地球より濃密で、地表付近では1.5気圧ほど。主成分は窒素でメタンが数%含まれる。タイタンの空に大きなメタンの雲が浮かんでいる赤外線画像を7月上旬、土星に到着直後のカッシーニが送ってきた。タイタンの「みかん色」は上層大気にメタンなどの炭化水素化合物があるためなのだ。

上はカッシーニが2004年5月に撮影したタイタン。下はハッブル宇宙望遠鏡が1997、98年に観測した地図。赤い場所が地表で最も明るく「Xanadu(桃源郷)」と名づけられている。(NASA/JPL/Space Science Institute)  タイタンの地表はどうなっているのだろう。右の画像で下の地図に注目してほしい。ハッブル宇宙望遠鏡が観測した、タイタン地表の相対的な明るさを表した地図だ。暗いところが青、明るいところが赤で表されていて、赤い場所が大陸のように広がっている。ここを科学者達は「Xanadu(ザナドゥ、桃源郷)」と名づけた。

 「Xanadu」と言えば同名の映画があり、オリビア・ニュートンジョンの歌う主題歌がヒットしましたね。元々はイギリスの詩人サミュエル・コールリッジが18世紀末に書いた詩の中で、肥沃な大地が広がり聖なる川が流れ、新緑の木々が茂る桃源郷として描かれている。科学者達は、タイタンのXanaduが山か大きな入り江か平原か、それらを組み合わせたものかもしれないし、湖が点在しているかもしれないと考えている。

2005年1月、タイタンにおりていく観測機ホイヘンス。(ESA)  誕生直後の地球も、タイタンと同じように生命を作る源となった炭化水素が豊富にあったと考えられている。ただしタイタンの表面温度は-180度近い。生命が生きるには過酷な環境だが、生命誕生のヒントは得られるかもしれない。ところでメタンガスと言えば牛や羊が出すゲップ、つまり有機物の新陳代謝の副産物だ。何かの生命活動がメタン(つまりゲップ)を供給し続けていたりしないのかな・・・と私は微かに期待を寄せています。

 カッシーニ探査機は2005年1月半ばに観測機ホイヘンスをタイタンにおろす。ぶあつい大気をくぐりぬけ、液体の海におりる可能性もある。地球以外の惑星ではじめて「しぶきをあげる」ことになったら、爽快ですね。
衛星タイタンにタッチダウン。しぶきを上げるか激突か。(2005年1月コラム)

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のカッシーニーホイヘンス探査機のページ
http://www.esa.int/export/SPECIALS/Cassini-Huygens/index.html

カッシーニ/ホイヘンス特集(月探査情報ステーション)
http://moon.jaxa.jp/ja/topics/cassini/