コラム
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2005年 1月分 vol.2
衛星タイタンにタッチダウン。しぶきを上げるか激突か。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ホイヘンスは時速約20kmで地表におりる。そこに広がっているのはどんな世界なのだろう・・・。  土星探査機カッシーニが7年以上にわたる長旅のクライマックスを迎える。昨年末のXmasにカッシーニから切り離された観測機「ホイヘンス」が土星最大の衛星タイタンの大気に突入。地表にたどりつくまで約2時間20分、約40億年前の原始地球に似ていると言われるタイタンの大気を観測、雷の音に耳をすます。そして地表へ。秒速約6m(時速約21km)で氷の大地に激突するか、メタンの海でしぶきを上げるか。息を呑む瞬間は日本時間で1月14日午後8時半ごろ。

 土星の衛星タイタンは、直径約5150km。地球の衛星・月の直径は約3476kmだから、月よりも大きい。タイタンの大気は主成分が窒素でメタンが数%含まれている。地表の気圧は地球の約1.5倍と濃密。その厚い大気のために、タイタンの地表を人類は眼にしたことがない。タイタンの大気は誕生直後の地球に似ていると考えられている。ただし太陽から遠く離れているため表面温度は-180度近く、生命にとっては過酷な環境。でも生命の元になる有機物が存在するかもしれない。そして雷が鳴り響いているとしたらビッグニュースだ。原始地球でも雷の放電エネルギーが生命の素材を作るのに大きな役割を果たしたのではないかと考えられているから。

 ホイヘンスは高度約1270kmぐらいからタイタンの大気に突入していく。大気との激しい摩擦熱が起こると予想されるが、1500度までの熱に耐えるように作られている。大気に飛び込んだら高度ごとに大気の温度、気圧、風速などを計り、着地点が海か陸か、その地形も調べる。カメラで写真もとる。大気中のエアロゾルを採取して成分を調べる。どこかで雷がなっていないかマイクロフォンで耳をすます・・・これらの観測を2時間ほどでやろうというのだから大忙しだ。タッチダウン前にはフラッシュをたいて地表の撮影をする。

 ホイヘンスが地面に降りるか湖や海に飛び込むかわからないが、海に飛び込んでも浮かびながら観測できるように、海の深さを測る機器の用意までしてある。科学者たちは地表でなんとか30分はサバイブしてほしいと考えている。

 米国に本部のある惑星協会(The Planetary Society)は火星の音を聞くマイクロフォンを開発した経験から(1999年に打ち上げられた火星探査機に搭載されたが着陸に失敗したため、2007年打ち上げ予定の火星探査機で再挑戦する)、タイタンの音を聞くプロジェクトにも協力している。雷の音だけでなくメタンの雨音、吹きすさぶ嵐の音が聞こえてきたら、それは太古の地球の音の再現と言えるのかもしれない。


タイタンに桃源郷はあるか(2004年8月コラム)

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のカッシーニ・ホイヘンスのページ。(動画やタイムラインが見られます。)
http://www.esa.int/export/SPECIALS/Cassini-Huygens/index.html

カッシーニ/ホイヘンス特集(月探査情報ステーション)
http://moon.jaxa.jp/ja/topics/cassini/